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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第三章 中央王都は気が抜けない
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第34話 諸王国会議と楽観的な理事

 中央王都は、勇者テルキ召喚の公表と諸王国会議の開催によって、都を貫くようにはしるヴィーヴィアス大道を中心に、祭りの賑わいを見せている。


 商人や大道芸人、見物の旅行客などが各地から中央王都へ集まっており、王都が華やかな喧騒に包まれてから早くも十日が過ぎようとしていた。


 諸王国会議は出席する国王以下、国の重責を担う者同士の交流の場ともされており、連日において会議や晩餐会が各所で開かれる。


 庶民から上流階級の者に至るまで、中央王都が一年のうちで一番活気付く時期だ。


 だが、そんな王都の様子から隔離されたかのように、諸王国会議の席は張り詰めた空気が流れていたのである。


「我々セチュバーの防衛費の負担額は、ここ数年で倍以上に膨れ上がっているのです。今会議こそは、クレタス防衛費の増額と、負担及び運用並びに配分についての再検討を願いたい」


 守衛国家セチュバーの財務長官が、声に気持ちが入らないように努めながらも握った拳を震わせて列席の者達に訴えていた。


 守衛国家セチュバーは、クレタスの西側に位置し、魔人族の住む地へと繋がっている『侵略者の洞窟』を守護する国だ。


 山の多い地形のセチュバーは、農業に適した土壌に恵まれておらず、近年まで採掘されていた天然のエネルギー結晶も採掘量が激減していた。


 中央王都が人工のエネルギー結晶を政府主導で扱うようになり、その営みは決して豊かとは呼べないのがセチュバーの現状なのである。


 五百年前の戦争において、魔人族の治める国の幾つかと表面上の休戦協定を結んではいるのだが、協定締結の無い国も存在しており、洞窟では魔人族との戦いが今もなお続いていた。


 洞窟の内部は複雑に分岐しており、西の地へと通じる道を発見しては厚い障壁を設置する等の対策を進めてはいるのだが、工事費や維持費が年々膨れ上がる一方となっている。


 守衛国家たる軍事力の維持と洞窟の監視に国の予算を優先して割いている為、他の政策に予算を付けることが出来ず、国民の負担は増すばかりであった。


「そうは申されますが、クレタス防衛費の半分以上がセチュバーに割り当てられているのが現状。我がドートの財務局の試算によれば、侵略者の洞窟防衛費として妥当な額であると出ていますが」


 商業王国ドートの財務長官は、いかにも困り顔という演技を披露しながら、半分以上という文言を強調して言った。


 国王をはじめとして国政の幹部など、百余名あまりが出席する諸王国会議は、広い大理石の部屋で行われている。


 中央に置かれた巨大な円卓は、クレタス諸王国の国王とその側近からなる二十名が席についていた。


 中央王都の権威を象徴するように重厚な装飾の施された壁や天井が、ドート財務長官の必要以上に通りの良い声を更に響かせる。


「ですから、今の現状を報告させて頂いており、再検討の資料として・・・」


「我々ドートの財務局が、試算を誤ったとおっしゃられるか。セチュバー財務長官殿?防衛費の半分を担う我々『商業王国ドート』の財務局が!」


 セチュバー財務長官の話を打ち切るように、ドート財務長官の身振りを交えた言葉が重ねられる。


 高圧的な物言いに、クレタス北部に位置するトリア要塞国の女王が眉根を寄せて不快の表情をあらわにする。だが、賛否についての発言をすることは無かった。


 ドートの長官の横で、笑顔を絶やさず話の流れを見ていた体の大きな男が、唐突に口を開いた。


「セチュバーの皆様の苦しみは、重々承知してますよ。さりとて、増額や運用の再考ともなれば、我々も身を切る事になる。クレタスの諸国が疲弊し、そもそもの『クレタス防衛費』自体の維持が困難になってしまうのは、本意ではありますまい?この資料は、持ち帰ったうえで『今後の参考にさせて貰う』でよしとしてはいかがかな?」


 指に食い込むように着けられた指輪は、華美なほどの宝石がはめ込まれ、太い首や腕にも希少金属で作られた宝飾品がいくつも身に着けられている。


 声を上げたのは、商業王国ドートの王カルモラであった。


 肉付きの良い顔に笑みをたたえてはいるが、目の奥に笑う様子は一切感じられない。


 ドートの王カルモラは、豪商上がりの国王としてクレタスでは有名な人物だ。カルモラを好ましく思わない者達は、その容姿を揶揄して『肉蛙の王』と秘やかに呼んでいた。


「諸国からの査察隊を、防衛上の理由として断わられたのもセチュバーご自身でしょう」


 細い目を更に細めて、ドートの王カルモラはセチュバーの財務長官に詰め寄った。その横では、技研国カルバリの国王が同意を示すように深く頷いている。


 商業王国ドートと技研国カルバリは、クレタスの東を預かる隣国同士であり、古くから政治的な意向について同調する風潮がある。今では、まるで同盟を結んでいるかのような関係性となっていた。


「・・・私が、父の遺志を継いでから三年になりましょうか。クレタス諸王国の歴々に助力を願うかたちとなり、力の無さを痛感するばかりです」


 ドートの王直々の言葉を受けて、セチュバーの長官は言葉を失ってしまっていた。その横で、静かに目を伏せていた若者がゆっくりと顔を上げて立ち上がり、諸王国の者達を見渡しながら発言する。


 鋭い眼光に意志の硬い表情をたたえた若者で、堂々たる語気は、その謙虚な言葉の内容を一瞬理解させないほどに、聞く者の心を圧倒した。守衛国家セチュバーの若き王バドキンである。


「いやいや、その謙虚な姿勢こそ、我々も見習うべき所かと思いますよ」


 人々が圧倒される中、カルモラは笑顔を更に強くしてバドキンへ言葉を返した。


 大広間に、百余名が居るとは信じられないほどの静寂が訪れる。


 正午を告げる鐘の音が部屋の空気を揺らすまで、ドートの王カルモラとセチュバーの王バドキンは、互いに目を合わせたまま微動だにしなかった。


 正午の鐘を聞いたカルモラがのそりと席を立つと、バドキンとカルモラは上座に座る中央王都国王に向かい恭しく頭を下げる。


「あ、ああ、皆の者休憩としてくれ。午後の会議に、十分に備える様に」


 クレタスの王たる中央王都国王が午前の会議の閉会を告げると、諸国の者達はバドキンとカルモラに倣う様に、立ち上がり上座へ向かって頭を下げるのだった。


 上座に座るクレタスの王は、その場に居る誰の目にも威厳と言う言葉からほど遠い存在のように映る人物であった。




「しかし驚いたな、突然トゥームが修道騎士に任命されるなんて」


 三郎は自分用のゲージを大事そうに両手で持ちながら、トゥームに話しかける。


 ヴィーヴィアス大道は祭りもかくやと言う人混みで、三郎は手に入れたゲージを眺めたいのだが、人にぶつかって落としてしまわないか心配でもあり、両手で持っているだけという中途半端な状態となっていた。


「・・・え、あ、うん。私も信じられない気分だわ」


 トゥームは、エンガナ高司祭との謁見を思い出しながら三郎に返事を返す。


 エンガナ高司祭のもとには、トゥームを修道騎士へ推薦する内容の、一通の公文書が届けられていたのである。


 送付元はソルジ教会であり、書面には修道騎士の相談役たるオルガートとそれに並ぶエッボス両名の署名がされていた。


 両修道騎士が見届け役として、修道騎士マフュ・アーディとの立会いにより、トゥームの技量が修道騎士に足るものだと書かれていたのだ。


 そして、ソルジ統括司祭バ・スルクローク・アベントイルの名で、修道騎士たる『教え』の理解も十分である証明がそえられていた。


 そこには、ソルジの魔獣襲来に適時対応したトゥームの功績も書かれていた。


 略式ではあるが、二名以上の修道騎士の推薦と統括司祭の『教え』に対する証明があれば、教会本部にて高司祭の判断により修道騎士の任命が許される事となる。


 三郎はトゥームとマフュが立会った際、オルガートとエッボスの両名が何か真剣に話し合っていた様子を思い出し、推薦状を目にして合点がいった。


 エンガナ高司祭は、三郎のゲージ認証とトゥームの修道騎士任命を終え、最後に一言つけ加えた。


『教会が功績を認めて修道騎士とした人物を、警備隊本部が勝手に呼び出して詰問するなんて出来なくなるわね、ふふふ』


 三郎は、エンガナがただ人の良いご老人ではないと言う事が、十分に理解できた気がしたのだった。


「まぁ、突然といえば教会評価理事って・・・オレも何だか良く分からん肩書きが付いちゃったよな」


「そうよ、私は修道騎士を目指していたから、心構えは出来ているけど、サブローは理事とか・・・特に仕事は無いって言われたけど、大丈夫なの?」


 三郎の不安を孕んだ言葉に、トゥームが心配そうな返事を返してきたので、三郎の不安が助長される。


「理事とかって肩書きがあると、妙な発言でもしたら教会に迷惑がかかったりするだろうし・・・あはは、何だか不安になってきた」


 三郎が乾いた笑いを漏らしていると、二人の前を歩いていたシャポーが唐突に大声を上げた。


「あわわわわ~ほのかちゃんってば!シャポーのフードの中を、お菓子まみれにしてるじゃないですかぁ~」


 シャポーが背中にあるフードに手を差し込みながら、その場でくるくると回って騒ぎだした。


「ぱっぱっぱぁ~」


 そんなシャポーの上を、ほのかが身体についているお菓子の食べかすを撒き散らしながら上機嫌に飛び回る。


 エンガナとの謁見で振舞われたお菓子を、ほのかはシャポーのフードの中で美味しく頂いていたのだ。


「あーぁ、何してるんだお前ら・・・」


「シャポー、回転してないでフード見せなさい。払ってあげるから、ほら」


 シャポーを捕まえ、トゥームはフードを裏返すと、ほのかの食べ残したお菓子を丁寧に払ってやる。


 上機嫌なほのかは、まだお菓子カスが身体についたまま三郎の頭の上に乗ると、シャポーの真似をしてくるくると回って見せた。


「あああ、ほのかちゃん、面白がってひどいです~」


 三人の様子を見て笑った三郎は(理事って言われても、やる事は特に無いって事だし、心配してもしょうがないかぁ)と楽観的な気持ちになれるのだった。

次回投稿は4月29日(日曜日)の夜に予定しています。

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