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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第一章 異世界の教会で
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第2話 迷い人

「トゥーねぇ!おっちゃん、目さました!」


 三郎が目を覚ましたとき、耳なれない言葉だが元気いっぱいの少年の声が頭上で響いた。額の上には湿らせたタオルが乗せられ、後頭部にも冷たい物があてがわれている。


 三郎はまだはっきりしない意識の中で、自分が介抱されていることは理解することができた。


「ティエニ、台所に行っておじさんが飲む水をもらってきてくれる?」


 ティエニと呼ばれた男の子は、短く切った濃い茶色の髪をしている。髪質が硬いのだろうか、所々跳ねているのが印象的だ。


 日に焼けた顔に満面の笑みをうかべながら三郎を覗き込んでいたが、トゥームにお願いされ元気のいい返事をすると、これまた元気のいい足音をたてながら部屋を出ていった。五歳くらいの少年特有の活発さに、三郎の頬が少しゆるむ。


 三郎が寝かされている部屋は、質素ながらも生活感のある広めの部屋だ。部屋のほぼ中央に大きな木製のダイニングテーブルがあり、両側に背もたれの無い長いすが置かれている。


 窓の近くには、くつろぐためのスペースなのか簡単な作りのソファーがL字に置かれていて、現在はそのソファーの半分を三郎が占領していた。ティエニが出て行った扉は、三郎の位置からダイニングテーブルを挟んだ向こう側にある。


 三郎が横になっているソファーの隣には、ローテーブルがある。その上に水の張られた桶が置かれ、トゥームがタオルを濡らして三郎の額のタオルと交換してくれていた。


 ひんやりしたタオルのおかげか、三郎の意識もだいぶはっきりとしてきていた。


「気を失うから、打ち所が悪かったのかと思ったけど」


 トゥームからやさしげな声がかけられる。が、三郎には理解できない。三郎は上体を起こすと、言葉が通じなくても誠意は伝わるだろうと姿勢を正して礼を言った。


『介抱してもらったみたいで、ありがとう』


「そっか、言葉分からないんだっけ」


 そう言いながらトゥームは三郎の額に手を当ててきた。気を失っていた間に熱でも出していたのだろうか、と三郎は大人しくその様子を窺う。


 十代の少年だったらどきどきしそうな場面だが、修道服のせいかはたまた三郎が歳なせいか、どきどきよりもほっこりと落ち着いてしまった。


「熱は⋯⋯下がったみたいね。凄く熱かったからびっくりしたのよ」


 トゥームが安堵の表情を浮かべたのを見て、三郎もほっと胸をなでおろし自分の額に手をやる。特に熱いわけでもなく平常運転の体調、と言うよりも、いつも以上に頭も体もスッキリしている感じがするのは気のせいだろうか。


『美人に介抱されると違うのかねぇ』


 言葉がわからないのをいいことに、三郎は小声でつぶやいた。内容が伝わっていたら、相手によってはセクハラおやじのレッテルを貼られるところだろう。


 そんなやり取りをしていると、ティエニが水の入った透明なガラスコップを一生懸命に運びながら戻ってきた。その後ろには、淡いフサフサした金髪をツインテールにまとめた少女が付いてきていた。ティエニが水をこぼさないよう心配そうに声をかけている。


 少女の名前はリケと言う。リケが何か言う度にティエニは「大丈夫だよリケ~」と返す。


 つり目がちだが、表情からはいかにも気弱そうな性格が窺える。そんなリケの、一生懸命にティエニのお姉ちゃんをしている様子に、三郎は目元を緩ませた。ティエニより2つか3つ位、歳が上の様であった。


 三郎は元の世界で、仕事を理由に子供の面倒をみた覚えがほとんど無い。気が付いた頃には生意気な年頃まで育っていて、かわいいと思ったことなど数えるほどもなかった。


 他人ではあるが、子供のすることに目を細めるなど、何時以来だろうかと三郎は頭の片隅でふと考えてしまった。


「おっちゃん、これ!はい!」


 ティエニは満面の笑顔でそう言うと、コップを三郎の鼻先へさし出してきた。


『おお、言葉は分からんが、ありがとう』


 三郎は、礼を言ってコップを受け取り一口飲んだ。冷えた水が、のどを通り体中にしみこむ様に広がる。思った以上に渇いていたことに気づいた体が、残りの水を一気に煽らせた。


『っくはぁ~!うまぃぃ』


「くはー!っまぃぃ~」


 三郎の心の底から出た言葉を、ティエニがうれしそうに真似る。その後ろで心配そうな表情のリケは、三郎の聞きなれない言葉に首をかしげていた。そこでまた扉が開き、新たな人物が部屋に入ってきた。


「トゥームお姉ちゃん。おじさん目さましたんだって?」


 エプロンをつけた少女が、鍋つかみらしき手袋を外しながら近づいてきた。将来美人になるだろうと予想させる顔立ちに、薄茶色のボブショートの髪が快活さを際立たせている。名をラルカと言い、歳は十二になるところだが、ティエニとリケのお姉さん役として十二歳らしからぬしっかり者である。


「ラルカ。夕食の支度ありがとね」


 トゥームに手招きされ、ラルカとリケとティエニが三郎の前に並ぶと、トゥームが一人一人の名前を丁寧に三郎に伝えた。三人の名前を理解すると、三郎も身振り手振りで自分の名前を伝え返した。


 言葉が簡単に通じない状況からだろうか、名前を分かり合えただけで沸いてくる親近感に、三郎は何だか新鮮な感覚をおぼえた。


(さすがに、三人の親、ではないだろうな)


 三郎は、血のつながり特有の雰囲気が四人から感じられなかったので、教会に身を寄せている子供達なのだろうと推察した。その推察どおり、三人はそれぞれ両親を亡くし、教会に引き取られて生活している子供達だ。


「ねぇねぇ、おっちゃんどっからきたの?」


 ティエニが、終始崩さなぬ屈託の無い笑顔で三郎に問いかけてくる。言葉が通じないのを全く気にしていない様子だ。


「えっと、サブローさんは言葉分かんないんだよね。ちょっと待ってて」


 ラルカがそう言って、急いで部屋から出て行く。間をおかず、手に丸まった大きな紙を持ってくるとローテーブルの上に広げた。どうやらこの付近の地図の様で、山や森、川といったものが簡略化されて描かれている。それらの名前なのだろうか、三郎が見たことも無い文字がその付近に書き込まれている。


「さすがラルカ。気が利くわね」


「ちょうど、昨日学校で地図使ったんだー」


 トゥームに褒められ、ラルカは照れながらも得意げに胸をはる。三郎は広げられた地図を物珍しげにのぞきこんだ。紙の質感や地図の描かれ方など、三郎が普段目にしていたものとは少し異なっていたが、理解できないほどでは無かった。


 地図には周囲を山脈で囲まれた地域が描かれている。三郎の目には、その山脈のつらなりが大きなクレーターの様に写った。地図の左上には太い文字でこの地方の名前が書かれているようだが、三郎には読めなかった。


 その左上の文字は「クレタス」と書かれていて、このクレータ内部の地域全体がそう呼ばれている。


 クレーターは僅かに南北に楕円を描き、内側の窪地に川や森が点在している。クレーターの南端は、海の中に沈んでいる。山脈は海底にまで連なり、その山頂群が諸島となって海上に顔を出し、外洋と内海をわけていた。


 内陸では所々に丸いマークが付いていて、それらを曲がりくねった線が繋いでいる。丸が都市を、線が街道を示していることは想像に難くなかった。


「あのね、サブローさん。ここがね、ソルジ。この町は、ここなの。ここは、ソ・ル・ジ」


 ラルカが必死に地図のある一点を指差したり、部屋の中や周囲を指し示したりを繰り返し、三郎に伝えようとする。そんな様子をティエニが面白そうに真似をしている。


『あ~分かった。この町「ソルジ?」って言うのか?で、地図のこの点が「ソルジ」か』


 必死のラルカを察した三郎は、地図を指差してそれに答える。ラルカは伝わったことを確信すると、ご満悦の表情でニコニコと頷いた。


『⋯⋯って、まじか』


 ソルジだと示された点は、地図上で海岸線からかなり近い場所にあり、三郎は地図に描かれたクレーター全体の巨大さに驚きを隠せない。俄かに信じ難かった三郎は、地図の海であろう場所を指差して方角を訊ねてみた。


 子供たちは最初何のことか分からなさそうに相談しあっていたが、何度かジェスチャーを繰り返すうちに理解したのか「あっち!」っと声をそろえて一つの方向を指差した。


 三郎は窓から入り込む傾きかけた日差しと記憶から、自分が遠目に見たものは海で間違いないと確信して、再度クレーターの大きさに感心した。半日も歩いてきた道が、地図の上では小指の先程度の長さにおさまっていた。


 子供たちはジェスチャーゲームみたいで面白かったのか、今度は三郎がどこから来たのか訊ねてくる。何度目かのやり取りで三郎も理解できて、地図に目を落とした。


『あぁ、俺がどっちから来たのかって事かな?えっとね、このあたりだな』


 そう言って三郎は、ソルジと海を結ぶ道のちょうど真ん中あたりに指を置いた。三郎の歩いてきたその道は、船を海へ運ぶために広く硬く作られているため、町の人々から船道と呼ばれている道だ。


「そこって、船道の真ん中⋯⋯だよね?」


 リケが首を傾げながら、皆の顔を伺う。


「おっちゃん、そこは道だよ!ふなみち!あははは」


 ティエニは、楽しそうに三郎に笑いかける。


「あれ?通じなかったのかな?」


 ラルカもリケと同じように首を傾げながら、トゥームに助けを求める視線を向けた。様子を見守っていたトゥームが、疑問に答えるように返事を返す。


「船道を通ってソルジに来たってことじゃない?」


「えー、でもその先は海しかないよ?」


 ラルカが疑問を口にするのも無理は無い。この世界の海は危険が多く、諸島に囲まれた内海は比較的安全とは言われていても、海水浴などもってのほか、漁に出るのも命がけの漢の仕事である。


 まして外洋に出てしまえば、巨大な海の獣や魔物がどこからとも無く現われ、人の作る船なぞいとも容易く蹴散らしてしまうのは子供でも知っている事だ。


 そのため、クレタスも含めたこの大陸の住人は、他の大陸の存在すら確認したことが無い。冒険者が探索の旅に出た事もあるのだが、帰ってきた者は一人もいない。


「言葉が全然通じないって事は、他の大陸から来たのかもしれないじゃない?」


「「「おぉ~」」」


 トゥームはニヤリという擬音が付きそうな位に口の端を歪めて言うと、子供たちは感嘆の声を上げた。そして好奇心でいっぱいになった子供たちの目が、三郎に向けられる。やり取りの内容が分からない三郎は、子供たちの熱い視線に思わず身を仰け反らせた。


「トゥームお姉ちゃん、本当?他の大陸ってやっぱりあるんだ!そうだね、おじさんの着ている服も全然違うもんね!すごい、すごいね」


 ラルカがはしゃぐのも無理は無い。絵本や小説に描かれる物語の舞台には「未開の大陸への大冒険」だったり「未知の大陸の王子様」が登場したりするのだ。三郎の様なおじさんでも「未知の大陸のおじさん」ともなれば、大興奮なのである。


 他の大陸から流れ着いたという人物も、真偽の程は定かではないのだが、歴史上存在していることになっている。それが益々人々を夢物語に駆り立てているのだ。


 リケとティエニは思考が追いついてないのか「は~」とか「ほへ~」とか口からもらしている。ちなみにラルカは、同年代の子達の中ではかなりの読書家なので、興奮もひとしおなのだろう。


「なにやら楽しそうですね」


「あ、スルクローク司祭様」


 低く落ち着きのある声と共に現れたのは、三郎が話しかけようと決めていたロマンスグレーの紳士神父だ。上質な黒のロングチュニックに薄茶色の腰布が巻かれ、程よいアクセントになっている。シンプルながらも、スルクローク司祭のダンディズムを引き立てるのに一役買っていた。


 首からは教会のシンボルと十字架を重ねたような白いロザリオが、落ち着いた色合いの組紐で胸元にさげられていた。教会の扉の隙間から覗いたときには遠目でそこまで感じなかったが、かけた眼鏡が真面目そうな雰囲気をさらに際立たせている。


 子供たちの嬉しそうなその表情から、スルクローク司祭への厚い信頼が伺える。ラルカ、リケ、ティエニの三人は、未知の大陸から来たとか、言葉が全く通じないとか、身振り手振りで自己紹介して面白かったなどなど、スルクローク司祭へ今までの経緯を我先にと説明しはじめた。


「ほぉほぉ、なにやらすごい話ですね」


 スルクロークは穏やかに子供たちの話に相槌をうっているが、話の端々でトゥームと目配せをして何かを確認している様子であった。


「さてさて、私にもサブローさんに自己紹介をさせてくれませんか?」


 ラルカがはっとした様子でバツが悪そうに下がり、リケとティエニの襟首を引いて落ち着かせる。スルクローク司祭は、ありがとうとラルカに笑いかけて三郎の前に歩み寄ると、手を独特の形に合わせて頭を少し下げ三郎に挨拶をした。


「はじめましてサブローさん、私はこの教会を預かっていますスルクロークと申します」


 胸の前で合わせられた手は、指先だけを合わせて手の平の部分に空間を作っている。その間に右手の親指を、添えるように出していた。胸元のロザリオと重なったため、三郎はすぐにその手の形が、十字架ではないほうの教会のシンボル、教会の扉の上に書かれていた物を手で表現しているのだと理解した。


 作法も知らないで真似るのも良くないだろうと考え、三郎は手の形を真似せずに頭を下げる。スルクローク司祭と三郎の挨拶はとてもスマートに行われた。まるで言葉が通じているかのように一言二言で自己紹介も済んでしまい、あまりのスムーズさに子供たちはぽかんと口をあけて見守っていた。


「スルクローク司祭様は、サブローさんの言葉がわかるのですか?」


 ラルカが思わず問いかける。


「どこの世界でも、良い大人というものは、往々にして決まった挨拶を交わすものなのですよ」


 スルクローク司祭は不思議そうにしているラルカに、笑顔でそう答えた。


***


 三郎は現在、ティエニ先生の指導の元、茶色のロングチュニックに着替えているところだ。


 スルクローク司祭との挨拶の後、ベッドとタンスの置かれた個室に案内され、身振り手振りでこの個室を使って良いという事を説明される。そして、着替えにロングチュニックを渡され「ティエニあとはお願いね」と言い残したトゥームは部屋を後にしたのだった。


「ちがうよー!ここは、こっちにまわすんだよー!」


『ん?こっちか?⋯⋯おお!できたできた』


 ティエニは楽しそうに、腰布の縛り方を三郎に教えてくれていた。遊ばれている感が非常にあるものの、腰布はスルクローク司祭が巻きつけていた様な感じでしっかりおさまった。


『ティエニ、センキュー!』


「せっきゅー!」


 ティエニの頭を雑になでながらダイニングテーブルのあった部屋に戻ると、テーブルの上にはスープやパンにサラダ等、家庭的な料理が並べられているところだった。修道服のまま白いエプロンを着けたトゥームの姿に、三郎は少々目が奪われる。


『何か、新感覚だなぁ⋯⋯』


 不意に目があったスルクローク司祭が意味深な笑顔で頷き、三郎も意味深な笑顔で頷き返した。


(この紳士とは、仲良くなれそうだ)


 夕食の支度は殆ど終わっていて、三郎の到着で皆が長いすに腰を落ち着ける。


 扉に向かって右側の長椅子にスルクローク司祭が、その向かい側にトゥームが座っている。スルクローク司祭の横にティエニ、三郎の順番で着席し、トゥーム側の椅子にはリケ、ラルカの順でテーブルを囲んだ。


 ビーフシチューの様なスープと焼きたてのパンが三郎の前に置かれている。目覚めてから食べたものといえば、トゥームにもらった半分のふかし芋だけだった為、シンプルなこの食卓が大変なご馳走に見える。


 そんな牧歌的な食卓を照らしているのは、天井から吊るされた例の不思議ランプだ。日が暮れてから三郎は気がついたのだが、ランプの明かりは温かみのある乳白色をしている。光量も控えめに抑えられているようで、とても気持ちの落ち着く良い光源だった。


 スルクローク司祭が一呼吸おき、胸の前で手を教会のシンボルの形にすると、他の面々もそれに習う。食前のお祈りかと、今度は三郎もそれに習った。


「明日の良き糧となります様、感謝していただきましょう」


 スルクローク司祭の言葉の後、全員が黙して頭を下げる。何となくお辞儀の文化が日本とかぶり、三郎は親近感が沸いてくるのを感じた。


 その後の食卓は和気藹々といった雰囲気で、味がどうだの今日は何をしただのという話が飛び交う。例によって三郎には全く理解できないのだが、そんな会話に耳を傾けながらスープを口に運んだ。


『っ!!うまっ!』


 息をのむ様な三郎の声にラルカがちょっとビックリした顔を向ける。


「あー、味があわなかったのかな?」


 困った顔のラルカだったが、三郎はそれに気づくことも無くもくもくと口に運ぶ。そんな様子を見て、ラルカはほっとした表情をうかべ、トゥームに視線を送る。トゥームは笑顔でうなずき返した。


『ああ、うまい。生き返る、生き返るなぁ』


 三郎は自分に向けられた視線に気がつき、照れながら笑顔をつくる。目元には涙が浮かんでいた。


 (おっさんが涙流しながらメシウマとか、だれとくだよ。ほんとに!ちくしょう!)


***


 夜も深まり扉をたたく音に、スルクロークは教会本部より届いていた書類から顔を上げた。


 内容は、最近ソルジ近隣で魔獣の目撃が多くなっており、教会本部に修道騎士の派遣要請をしていたものに対する返事だった。三郎が教会を覗いたときに行われていた集会はその件に関する集まりであり、近々の問題としてソルジで話題に上っている。


「どうぞ、お入りなさい」


 入ってきたのは、子供達を寝かしつけ、三郎もあてがわれた部屋で寝息を立てはじめたことを確認して来たトゥームだった。その目には、子供達に接しているときには決して見せない鋭さを湛えている。


「スルクローク様。彼の事で少しお話が」


 彼とは、今日とつぜん現れた三郎の事だと、スルクロークには察しがついていた。その事でトゥームが、話をしに来るだろう事も予想の範囲内であった。ふむ、と一言息を漏らし、トゥームへ話の先を促す。


「サブローはもしや、最初の勇者が言われた『迷い人』なのではないでしょうか?」


 スルクロークは椅子から立ち上がり、考えるかのように窓辺に移動する。


「直接サブローさんに聞くまでは分かりませんが、恐らく彼は『迷い人』だと思いますよ」


 そう返事をすると、中央王都にて政府主導のもと、勇者召還が滞りなく行われ十代の若者が無事召還されたと連絡があった事も伝えた。トゥームの表情が一瞬曇る。


 中央王都はその名の通り、山脈に囲まれたクレタスの中央に位置し、クレタス地方に五つある諸国を纏め上げる存在だ。教会の母体もそこに置かれている。


「政・教の分離が揺らいでいるこの時期に、西方での魔力の高まりだけを『脅威である』と早々に断定し、十分な精査も無く勇者召還を中央政府が強行⋯⋯」


 スルクロークは静かに話を進める。


「そして、迷い人かもしれない人物が現れてしまいました」


「教会内で政府に近い者達は、彼の身柄を欲しがるのではないでしょうか?」


 そう言うと、トゥームは怪訝な表情を浮かべた。窓の外をじっと見つめるスルクロークの次の言葉を待つ。


「私や貴方がソルジに居る時に、サブローさんが現れたのも、何かの縁かもしれません」


 振り返ったスルクロークの表情は、トゥームの心配そうな表情とは裏腹に、穏やかな表情をしていた。


「サブローさんには、別大陸からの漂流者として、しばらくここに居てもらいましょう」


 信頼を寄せているスルクロークの言葉に、トゥームはそれ以上何も言わなかった。

次回更新は9月10日の日曜日の夜になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読みましたが、風景、建物、人物などの描写が丁寧でゆっくり落ち着いて読み進められそうです。
[一言] 興味をそそられる内容だが、いかんせん文章がひどい。 誤字脱字、おかしな助詞、不適当な句読点に頭痛が痛いなどの小泉構文。あとひらがな。量が量であるから最初からささっと手直しをしろなんて言えな…
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