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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第292話 舞うように刺す

 ドート軍最前線の兵士と入れ替わったトゥームは、機巧槍兵との戦闘を早くも開始していた。


 出会い頭に数合激しく切り結ぶと、トゥームが反動を利用して距離をとる。


 手に残った斬撃の感触を確かめつつも、トゥームは敵兵から視線を外すことは無い。修道の槍を正眼の位置に移動させ、相手に踏み込む隙を与えぬように構えなおした。


(ラスキアス・オーガ程の圧は感じられないのだけれど、並の人族が出せる力では無いわね)


 機巧槍兵は、精神を操られているにもかかわらず、無暗に踏み込んでくる気配を見せない。攻撃の機会を見計らうように、じりじりと距離を詰めて来ている。


 トゥームは敵を見据える目の端で、味方の戦況を確認した。


 グレータエルート達は、中央王都での戦闘経験から、機巧槍兵一人に二人組の布陣で対応しているようだ。シトスやムリューなど腕に覚えのある者は、一人で立ちまわってこそいるが。


(残る機巧槍兵には、ドート軍が対応してくれている。けれど、私達が早く決着を付けなければ、ドートの兵士には荷が重い相手だわ)


 トゥーム達の参戦によって、ドート側が完全に数的優位な状況を作り出せている。だが、個々の戦いにおいては、防戦一方であることに変わりないのをトゥームは肌で感じ取っていた。


 トゥームは目の前の敵へと意識を戻し、姿が掻き消えるかの勢いで踏み込んだ。


 鋭いトゥームの動きに機巧槍兵は反応した。上段に構えていた大剣の槍を、トゥームの頭部目掛けて振り下ろす。


 動きを先読みしていたトゥームが、脇に構えていた修道の槍を大剣の槍へと振り上げ『攻撃』によって跳ね上げる。


 勢いの勝った修道の槍に打ち上げられても尚、機巧槍兵は己の武器を力でねじ伏せてトゥームへと再び放った。


 トゥームは修道の槍が速度を失わぬよう滑らかな曲線を描いて切り返し、大剣の槍の側面を打ち付けた。


 あまりにも素早い応酬に、一般の兵士であれば斬撃音が一つに聞こえてしまったかもしれない。


 大剣の槍が横に逸らされたがため、機巧槍兵は体幹を崩して一歩大きく踏み出す。それにより無防備となった喉元をトゥームが見逃すはずもなかった。


 相手の命を奪わずに無力化するのは難しいと無意識下で判断したトゥームは、機巧槍兵の鎧と兜の隙間へ向けて切っ先を突き入れる。


 金属が互いに削り合う音と共に、修道の槍は敵の命を刈り取ろうと進む。


 命まで届こうかという刹那、相対していた機巧槍兵の背後から、別の槍兵が姿を現せた。


 刺突の体勢により伸びきったトゥームの胴へ向け、切り上げるように新たな大剣の槍が迫る。


 例え修道騎士であっても絶望的なタイミングであったのは間違いない。


 だが、トゥームの研ぎ澄まされた視力は、新手の出現を脳に認識させ、攻撃に対しても身体を反応させた。


 思考すら割り込めぬ一瞬のうちに、トゥームは修道の槍を引き戻して防御する。長い柄によって攻撃を防いだトゥームは、柄を折られる前に右肘で大剣の槍の平地を打ち据えて、後方へと跳躍した。


 肘に走った鈍い痛みに、トゥームは顔をしかめる。


 防御の為に退いたトゥームへ、二人の機巧槍兵が追い打ちをかけた。


 容赦ない追撃を二度三度と受け流しつつ、トゥームは(骨に異常は無いみたいね)と肘の状態を確かめると、無理やり攻撃へと転じた。


 中央王都におけるラスキアス・オーガとの一戦によって、機巧槍兵の攻撃を受け過ぎれば修道の槍が破壊されてしまうと頭の奥に刻み込まれていたからだ。


(次の一撃を避け、修道の槍を攻撃に――)


 思考と同時に、トゥームは袈裟懸けに切り降ろされる大剣の槍を、体を捻って皮一枚のところでかわす。


 引っ掛けられた服が、肩口から背中にかけて大きく切り裂かれるが傷は無い。


 トゥームは構うこと無く、次に振り下ろされてくる大剣の槍を両眼でしっかりと捉えていた。


 踏み込む足に合わせ、修道の槍を相手の武器に向けて振り下ろす。


 金属の激しくぶつかり合う音の後、互いの武器は勢いを相殺して弾き返される。


 隙を狙ってトゥームへと放たれた新たな攻撃を、彼女は修道の槍の石突を使い打ち返す。


 トゥームは、修道の槍を巧みに回転させると、次から次へと繰り出される機巧槍兵二人の攻撃を『攻撃』によって迎撃していった。


(攻撃が異様なほどに連動している。洗脳魔法の影響で群体として個々が繋がり、連携が強化されているのかもしれないわ。魔力エネルギーの供給が常にされている為か、人族の限界を超えてるかのように一撃が重い。決着をつけて皆の援護に早く回らないと)


 修道の槍を少しづつ加速させながら、鮮やかな体さばきでトゥームは機巧槍兵達の攻撃をさばいてゆく。


 瞬く間に数百合まで交わされた剣撃は、互角の様相を呈していた。


 しかし、その均衡は一気に崩れることとなる。


 回転軌道を描く修道の槍の切っ先が、機巧槍兵の攻撃力を上回る速度にまで達したのだ。


「ふぅっ!」


 トゥームは踊るように修道の槍の動きへと呼吸を合わせ、大剣の槍の威力を圧倒し始める。


 弾かれた武器を強制的に戻そうとすれば、斬撃の威力は激減し、構えも崩れてゆく。


 機巧槍兵二人の身体が、同じタイミングでぐらりと揺れた。


「はっ!」


 気合の声に合わせて、一人の機巧槍兵の武器が宙を舞う。トゥームは返す石突で相手の兜を跳ね上げると、残る一方の武器も絡め取るようにして奪い去る。


 あらわとなった頭部にトゥームは掌底を食らわせると、自らの体内魔力を機巧槍兵の脳内へ向けて解き放つ。


 脳を揺らされて卒倒した兵士は、その場でぐしゃりと倒れ、地面の上で両足をぴんと伸ばし痙攣したあと動かなくなった。


 残った兵士は、鎧の上から修道の槍のヴァンプレート部によって衝撃を与えられ、ひしゃげた鎧を抱え込むようにして前のめりに崩れ落ちる。


 がら空きとなった後頭部へ、修道の槍によって魔力のこもった『打撃』を加えられて、そのまま静かになるのだった。


「バランスを大きく崩してくれたから、殺さずに意識を失わせることが出来たわ。けれど、次も上手くいくとは限らないのだから、狙って行わないようにしないとこちらが痛い目を見るわね」


 倒した二人の首筋に手を当て、命があることを確認すると、トゥームはグレータエルート達の加勢に向かうのだった。

次回投稿は4月30日(日曜日)の夜に予定しています。

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