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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第283話 単なる伝言係

 魔法陣の解除にあたっている部隊から連絡が入ったのは、日付も変わってすぐのことであった。


 仮眠に入っていた者はたたき起こされる。三郎も例外なくその一人だ。


 陣営は速やかに引き払われ、ゴボリュゲン率いる軽騎兵団を先頭に第十一要塞へと進軍していた。


「ふぁっ。寝入りばなに起こされたもんだから、目がしぱしぱするな」


「気を緩めすぎじゃないかしら。私達は最前線にいるのだから、常に敵襲への対応ができるよう、心構えをしておく必要があるのに」


 三郎が両目を擦っていると、呆れ顔のトゥームが言う。


 クウィンスの牽引する教会馬車は、歩きの者達の速度に合わせ、いつもよりゆっくりと進んでいる。そののんびりとした乗り心地も、三郎の眠気を誘う一つの要因となっていた。


「まぁ、それだけサブローが我々を信頼してくれているのですよ。シャポーさん達との合流まで、今少し時間がかかります。サブローが、作戦の判断を下さねばならない場面で、思考が鈍るのはよくありませんからね。一休みしてはどうですか」


 声色から三郎が眠気を堪えているのを察し、シトスが提案する。


「軍議で大あくびされても困るし、何より戦場で眠られでもしたら危険だし、味方の士気も落ちるってものだわ。警戒は私達に任せて、仮眠しておくのがいいかもね」


「いや、あくびはしちゃうかもしれないけど、流石に戦場で寝るってありえないから。でも、皆歩いてるのに申し訳ないというか・・・」


 窓外を確認しつつ三郎は呟いた。顔を覗かせれば、馬車の前後に徒歩で行軍している味方の姿が、夜闇の中にぼんやりと浮かんで見える。


 ゾレンの行使する魔法が、精神支配に類するもので間違いないと結論が出ていた。そのため、精神魔法耐性の低い軍馬など、動物の運用を禁止したのだ。


 自分を乗せた馬が、相手の支配を受けて暴走すれば、落馬の危険性が高まる。それ以上に、ゾレンの支配下とされた馬達が、諸王国軍に襲い掛かってくることも考えられ、敵の手駒を増やさぬよう回避策を講じたのだ。


 ドワーフ軽騎兵団の騎乗しているシュターヘッドは、友獣であるが故に魔法への耐性が非常に高い。現状において、高い機動力を保持している唯一の部隊であるため、先鋒を引き受けてくれていた。


 三郎を乗せた馬車を引くクウィンスも、シュターヘッドと同様の理由で運用が許された。よって、幸運にも眠気眼で体力的にも不安のある三郎は、歩かずに済んだのであった。


「鍛錬を積み重ねた兵を心配するのならば、サブローもそれだけの鍛錬を受けてからにしなさいな。同じレベルで考える方が申し訳ないわよ。ほらっ」


 荷物から引っ張り出された毛布をトゥームから受け取ると、三郎は観念したように身を包んで横になった。


「ミケッタとホルニ、それにクウィンスも。悪いけど少し横にならさせてもらうよ」


 三郎が顔を少し上げて言うと、前方のクウィンスから「クルル」と喉を鳴らし返される。ほのかはシャポーに着いて行ってしまっているので、通訳こそなかったが、クウィンスが『そうしろ』と言ってくれている雰囲気は伝わってきた。


「私達も訓練は受けていますし、ドート軍から譲ってもらった高魔法耐性の装備も身につけてますからね。安心して任せてください」


 兜に響いてくぐもったミケッタの声が返される。ホルニは同意を示すように、鎧をゴンゴンと叩いて親指を立てた。


 三郎は、御者の二人も修練兵となるための訓練を受けたのだったなと思い出し、ほっとした表情を浮かべると早々に眠りの中へと落ちて行く。


「安心してくれてるにしても・・・はやすぎよね」


「呆れている割に、声が嬉しそうですが」


 小声で文句を口にしたトゥームに、シトスは微笑んで返す。トゥームは「まぁ、ね」と片手で頬を押さえながらそっぽを向くのだった。


***


 第十一要塞の攻略は、夜の闇に紛れて迅速に行われた。


 一人の負傷者もだすことなく奪い返すことができたのは、諸王国軍らの行動の良さもあったが、敵の反撃にあわなかったことが一番の理由といえる。


 第十一要塞に配置されていた兵士は、まるで生気を抜かれたように立ち尽くしているだけだったからだ。


 セチュバー本国へ向けて明かりなどが漏れぬよう十分に注意し、要塞にたたずむ警備兵らを室内のベッドへ移動させる指示がだされるのだった。


 運ばれた兵士の寝かされている部屋の一つに、三郎やケータソシアを含めた指揮官が集まっていた。


「セチュバー本国の様子を確かめるため、最初に数人の供を連れて行った際、国民が呆然と立ち尽くしていた状態に近いな」


 メドアズは、焦点の合わぬ眼で天井を見つめ続けている兵士を見て、所感を述べた。


「体内魔力を侵食する、いや、この場合『入れ換え』と申した方が正しいか。ゾレンの術式には、人族が固有に持つ魔力を魔法陣から発生させた魔力へ、強制的に置き換えるものが組み込まれていますね。被害を受けた者の体内魔力を、入れ換えた魔力に変異させてしまう術式も組まれている」


 補佐官へと事務用ゲージを渡しつつ、カルバリ魔導師の指揮官が言うと、メドアズも同意を示して頷いた。


 指揮官の名は、ワイデ・オスールマシェ。三郎がシャポーから教えてもらった魔導師名のルールに従えば、オストー王の名を匂わせ系としている人物といえる。彼も精鋭エルダジッタのメンバーであり、クレタスでも名の通った魔導師の一人だ。


「教会魔導講師殿は、兵士にかけられた魔法について不可逆的な術式ではない、と言われていたとか」


 三郎に向き直ったワイデは、魔術のど素人である三郎に問いかけた。


「そう聞いています。当講師の分析を聞いたところ、ゾレンなる魔導師の魔法は、対象者の魔力を別物に入れ換えたうえで、体内魔力の本質ごと変異させた『ように見えてしまう』とのことです。魔法影響下から逃れれば、打つ手はあると言っていました」


 落ち着いた表情をキープしつつ、三郎はシャポーに言われたことを魔導師達に伝える。


 なぜ三郎がワイデに回答せねばならなくなったのか。答えは簡単、解析解除部隊へ参加した者達は、作戦報告を終えた後、疲労を考慮されて休息をとるよう指示を出されていたからだ。シャポーも作戦の緊張から疲労がたまっていた様子で、今は与えられた部屋のベッドで夢の旅人となっている。


「ようするに、見せかけということですか・・・講師殿に伺うしかありませんかね」


 片眉を大袈裟に上げ、ワイデは横たわる兵士に視線を落として呟いた。


 三郎は、伝言預かっただけだから、これ以上詳しいことを聴かれても答えられないなぁと内心で怯えつつ、シャポーがこの場にいたら嬉々として説明してくれただろうなとも考えるのだった。


「失礼。我々に彼の症状を診させてもらっても?」


 行き詰まりの空気を漂わせた部屋に、トゥームの声が響く。


「修道騎士殿に診てもらうという手もありましたな」


 ワイデはこくこくと頷き「では、お願いしますよ」と場所を開ける。歩み出たのは、トゥームとカーリア、そしてシトスの三名だ。


 トゥームは兵士の額や手首、胸などに手を添えて意識を集中するように何度も瞳を閉じるのだった。


「攻撃を受けて、相手の魔力を流し込まれた者の症状に似ているわね。カーリア、どうかしら」


 促がされたカーリアも、トゥームが行ったのと同様の手順で兵士の体内魔力を観察する。


(あー、そう言えば、修道騎士って位の高い司祭並みの、治癒魔法とか教会魔法が使えるんだっけか。ど忘れしてたわ)


 二人の手際を見た三郎は、頭の中でなるほどと手を打ち鳴らしていた。


 カーリアに続いて、両目を薄緑色に光らせたシトスが、体内エネルギーの流れと『命の灯』をじっと確認する。


「彼が持つ命の灯は、弱々しくこそなっていますが、まだ揺らめいています。完全に精神や体内魔力を制圧されていれば、自然な命の揺らめきは消失していることでしょう。更に言えば、エネルギーの流れに脈瘤が散見されます。流入した魔力が肉体に馴染んでいない証と考えるのが妥当でしょう」


 瞳の発光を解いたシトスが、トゥームとカーリアに彼の診断結果を伝える。


(シトスも、相手の命の状態を見る精霊魔法が使えるんだっけか。確か最初に出会った時、意識の戻らないムリューについて、俺達を安心させるために何度かやってるの見た覚えがあるな)


 シャポー先生の伝言係を務め終えたおっさんは、懐かしい記憶を引っ張り出しつつ、仲間たちを見守り『頼りになるなぁ』と安堵するのだった。

次回投稿は2月26日(日曜日)の夜に予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 伝言係にも過不足なく相手に伝えるって才能必用だしおじさんは良くやった
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