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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
277/312

第275話 仮面の下の策謀

 第十要塞は、巨大な二本の塔を有する『城』と呼ぶにふさわしい威圧感を漂わせている。


「でっか・・・」


「でっかいのです・・・」


 近づくにつれて要塞の全容が明らかになると、三郎とシャポーが車窓から顔をだし二つの立派な塔を仰ぎ見ていた。


 そんなのんびりとした様子の二人とは違い、トゥームは修道の槍をそっと手繰り寄せている。シトスやムリューも、メーシュッタスの剣を帯刀し、馬車の進む先へと意識を向けていた。


 宰相メドアズと約定を交わしてはいるが、セチュバー軍が一枚岩であるとは限らないからだ。要塞に残った軍の幹部が、諸王国軍へ攻撃命令を出さないとも限らない。


 此度の内乱を企てたとしてリストに名を連ねた幹部ならば、命惜しさに宰相であるメドアズの意向に従わない者が出る可能性も考えられる。


 ぴりっとした緊張感が諸王国軍にひろがりゆくのを、先頭で馬を進めるメドアズは背中で感じ取っていた。


(要塞の防衛圏に接近した途端、軍の空気が変わったな。総指揮官サブローの命令が、私の与り知らぬところでだされていたのだろう。急ぎ編制された軍勢を一つにまとめあげる統率力は見事と言うべきか。我々と共通の敵を目指せども、決して隙は見せぬという警告として受け取っておこう)


 メドアズが口角を微かに上げているとも知らず、三郎とシャポーはぽかんとした表情で迫りくる塔を見上げていた。


「そんなに大口を開けていたら練習用の的だと思われて、槍が降ってくるかもしれないわよ」


 トゥームに言われ、場面を想像してしまった二人は慌てて窓から顔を引っ込める。


「一兵卒の間違いによる不慮の事故。なーんて、後々敵に戻ると解っている相手の総大将を葬るには、常套句じょうとうくかもしれないもんね」


 ムリューは喉の奥でくくと笑い、恐怖心を煽るように言った。


「流石にこれから共闘してセチュバー本国を解放しようって時に、それはない・・・よな?」


 途中まで言いかけた三郎だったが、馬車内はもちろんのこと、前後を行く味方の緊張した空気に気付き、言葉尻が疑問形へと変わる。


「停戦の合意はしているけれど、和平を結んだ訳ではないのよ。油断しないに越したことはないわね」


 やれやれというように、トゥームは肩をすぼめて見せるのだった。


「はい。気を引き締めます」


「油断大敵なのですね」


 反省する三郎の隣で、シャポーも両の手で拳を作ってうんうんと頷く。


 このような会話をしていることから、三郎の指揮だとの考えはメドアズの過大評価だといえる。軍の統率がとれているのは、ケータソシアとゴボリュゲンに加え、カーリアやカムライエらが、総指揮官三郎の優秀な補佐役として十全に機能しているという簡単な理由であった。


 フォローされているのを露とも知らぬ三郎を乗せた馬車は、ツインタワーと呼ばれる第十要塞へと足を踏み入れるのだった。


***


 第十番目の要塞に到着したのは、日の光が夕焼けに染まろうかという時間であった。


 三郎は一息つく間もなく、魔導師ゾレン対策の会議へと足を運ぶ。


 飾り気のない室内の長机を挟み、諸王国とセチュバー軍の指揮官らが、ぴりついた空気もそのままに向かい合っている。


(目にするまでは半信半疑でしたが、諸王国軍が本気でセチュバーに手を差し伸べるとは思いませんでした)


 セチュバー魔導師団の長であるメノーツは、いまだに信じられないという心持ちで、諸王国の面々を見ていた。


 停戦交渉へ向かう前にメドアズから、上手く話しを進められても時間稼ぎの停戦が良い所だろうと言われていたからだ。最悪のシナリオでは、メドアズらが帰れないことも覚悟していた。


 だのに、メドアズからの第一報に驚かされたのは昨日のこと。セチュバー本国の解放について、諸王国軍と共闘するという信じ難い内容であったからだ。


 すぐさま冷静さを取り戻したメノーツは、諸国の王達が『本国解放に手を貸した』という事実を作る為だけに、数名から成る小規模な部隊を送り込んでくるだけかもしれないとの考えに至った。その部隊とて、セチュバー軍の消耗の度合いを確認するために寄こされるのだろうと勘繰ってすらいた。


 だのにどうして、メドアズと共に到着した諸王国軍は、メノーツの予想をはるかに上回る規模であることに再び驚かされたのはつい先ほど。


 グレータエルートや土族に加え、お飾りではなく実用的な対魔導装備のドート兵やカルバリ魔導師団の中でも第一線級の魔導師と呼ばれる者達の姿があったからだ。


 メノーツが、魔導研究院の出身かつ魔導師団長を務めているから気付けた部分でもある。故に、トリアやテスニスの軍も、それに見合った編制であろうことは容易に想像できた。


 諸国の王達が第十要塞に来ないことも、メノーツは前もって知らされていた。彼女は指揮官も務める身である為、作戦失敗の保険として殲滅戦を想定し、第九要塞をかためるというのは合理的な判断だと思えた。


 であるから尚のこと、あのカルモラ王やオストー王が『まともな』戦力を送ってよこしたのが、どう頭を捻っても理解し難いのだ。


 居並ぶ諸王国軍の指揮官らを目の前にしても、腑に落ちない気持ちが心の隅に引っかかって仕方なかった。


『メドアズ様、会議直前に申し訳ありません。あの笑顔を浮かべた中央の人物が、かの名高い―首狩り―で間違いないのですよね』


 メノーツは、隣の席に座って黙しているメドアズにゲージで問う。


 そう、相手側の中央にいる総指揮官が、故バドキン王のごとく威風堂々たる人物だったならば、現状をなるほどと納得したかもしれない。しかし、メノーツの目には、事なかれ主義でやり過ごすのを良しとする、風見鶏的な中間の管理職にしか見えなかったのだ。


 動きも隙だらけであり、魔力量も多いようには感じられず、教会の位でも行けて中位司祭までなのではないだろうか。


 ゲージに気付いたメドアズが、すぐさま返答をよこす。


『間違いないが、どうした』


 メノーツがグレータエルートに聞きとがめられないよう注意を払ってゲージで聞いてきたのだと理解し、メドアズもゲージで答えたのだ。


『正直に言いますが、もっと覇気の感じられる人物かと思っていましたので。疑問を放置できない魔導師の悪い癖と、お聞き流しくださいませ』


 長年の付き合いから、メドアズはメノーツの言わんとしている所を察する。


『あの様子に騙されるなよ。何もわからぬ顔をして、唐突に核心を射貫くような発言をしてくるからな。現にこの状況を作り出しているのも、あの理事で間違いはない。さもすれば、相手側の発言の一切を、裏で操作している可能性すら考えられる。勇者テルキに、勇者を名乗るのをやめさせたのも、どうやらあの男だということだからな。ゾレンに対する策も、既に奴の頭の中では構築されているのかもしれん。気を付けてくれ』


 メドアズから送られた言葉の最後に、自分を気遣う一言が添えられていたことで、メノーツの表情は厳しさを増した。


 魔導の天才とまで呼ばれる宰相メドアズが、注意を促す長文をよこし、しかも部下の身を案じる文言を送って来たのだ。


 一筋縄では行かぬ人物であると伝えてくれているのが、メノーツには彼の文面からありありと読み取れるのだった。


『心してかかります』


 メノーツの返答にメドアズは僅かに頷く。


 気を引き締め直したメノーツは、三郎へと再び目を向けた。彼女の視線に気づいたおっさんが、満面の営業スマイルでこくりと挨拶程度に頭を下げる。


 人の良さそうな笑顔ではあったが、メノーツは本能的に『作られた笑顔』であることに気付いてしまった。頭では単に人好きのする笑顔だと認識しているのだが、何かが違うと心の底で警鐘が鳴り続ける。


 笑顔の仮面の下で、彼の教会評価理事がどのような策謀を巡らせているものか、メノーツは冷たい汗が背筋をつと流れるのを感じるのだった。

次回投稿は12月25日(日曜日)の夜に予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] >流石にこれから共闘してセチュバー本国を解放しようって時に、それはない・・・よな? 現実でも決戦前に政争で優秀な指揮官飛ばした挙げ句に負けたりするから 護国の英雄処刑して国が滅びたり
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