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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第252話 ケータソシアの苦笑い

 種から伸びた根が、地面を持ち上げ急激に太く成長してゆく。


 精霊の種の一番近くで土下座していた三郎は、持ち上げられるがままに体勢を崩して、後方へと転がりそうになるのだった。


「サブロー!」


 トゥームは馬から飛び降りると、不確かな足元にもかかわらず、三郎のもとへと一瞬で駆け寄る。


 三郎の身を支え、ぐんぐんと成長を続けるメーシュッタスの幹から距離をとるよう移動した。


「サブロー、触れるだけで熱くなっているのが分かるくらい、体温が高くなってるわよ。大丈夫なの」


「おぅえ・・・精霊の世界、から・・・俺を、通して、エネルギー・・・送ってる、らしい。うぉえ、胸とか胃が、気持ち悪ぃ」


 心配そうにのぞき込んだトゥームに、三郎はえずくようにしながらも必死に現状を伝える。


 体が異様に熱いのに、三郎は驚くほどに青ざめた顔をしている。通常ならば、トゥームもひどく心配したことだろう。


 しかし、三郎の腹の上では、吐き気をもよおしているおっさんを真似して、ほのかが楽しそうにのたうち回っていた。


「えっと、こっちに向かって吐かないでね」


 ほのかの様子を見て、トゥームは問題なさそうだなと判断する。三郎もサムズアップで了解の旨を返してくるあたり、思いのほか余裕がありそうだった。


 トゥームは気持ちを切り替えるように短くため息をつくと、注意すべき天井へと視線を向ける。


 急速に洞窟内へと根を張り巡らせたメーシュッタスは、壁や天井へもその行く先を伸ばしていた。


 破壊の魔法の振動によって、天井に生じた亀裂にもメーシュッタスは深々と根を張り、補強材としての役割を果たしはじめている。崩落が発生しそうになれば、張り巡らされたメーシュッタスの根が傷つけられ、そこから樹液が溢れだすことで新たなクラックを埋めてしまうのだった。


「落石は、減っているみたいだけれどっ!下にも、気を配らないと」


 突然太くなる根に足元を何度も乱され、トゥームは三郎の身体をぐっと自分へ引き寄せて体勢を立て直す。


「おぅえっぷふ」


「ごめん。気分が悪いのはわかっているのだけれど、優しく扱う余裕がないのよ」


 片手でおっさんを支え、片手に修道の槍を持ち、少なくなったとはいえ落ちて来る岩石を弾いているのだ。しかも、動いて安定しない足場の上でだ。


「いや、サンキューって、言いたかった、だけうぇ」


「そういうの、後にしてくれる、かしら」


 呆れ気味に答えつつも、トゥームは会話中に数個の落下物を弾き飛ばすのだった。


「トゥームさん、サブローさん、ご無事でしたか」


 急なメーシュッタスの成長により、二人を見失っていたケータソシアが、シャポーの手を引いて現れる。


「はんわ、サブローさまがエネルギールートみたいに、大量の精霊力の通り道になっているのです」


 青白く光る眼を三郎へ向けたシャポーが、状態を一瞬で見抜いて大きな声を上げた。


 言葉の意味を悟り、駆け寄ったケータソシアが三郎の胸に手を当てる。


「精霊力の通り道ですか。エネルギーの流れ方としては、私達が聖峰ムールスで行う過剰霊力送還法に似ています。しかし、精霊魔法を行使して力を移動させているというよりも、通り道としてただ流れている感じかと」


「簡単にまとめるなら連通管なのです。エネルギー圧の高い場所と低い場所とのつなぎ目となって、だだ流れしているみたいなのですよ。魔導術式が発動している感じもないので」


「ぱぁ!」


 ケータソシアとシャポーの言葉に、ほのかが正解だと言わんばかりの表情で人差し指を向けて一声上げた。そして、三郎の腹の上でごろごろと転がり、さも楽し気に悶絶するまねを再開するのだった。


「グレータエルートへ告げる。メーシュッタスの成長補助に全精霊力を。エルートの守護者が行使せし精霊魔法である。我らが活路と見定めよ」


 すっと立ち上がったケータソシアは、一段と通る声を洞窟内に響かせて、声の届く範囲に居るグレータエルート達に命令を与えた。同時に、左腕のゲージからも同様の指示を飛ばす。


「サブローさんの負担が僅かにでも減らせるよう、私達にもお手伝いさせてください」


「おうえっぷふ」


 三郎の返事から『感謝』の響きを聞き取ったケータソシアは、微笑むと精霊語の詠唱を開始するのだった。


「ミソナファルタ成分の多い熔解岩以外は、シャポーに頼ってもらって結構ですので」


 鼻息も荒く、シャポーがさらに二つの防衛魔法陣を思考空間から出現させる。


「精霊魔法と魔導師の魔法って、相容れないはずじゃなかった?ここは、ケータソシアさん達に任せてもいいんじゃないかしら」


 ケータソシアやシャポーの頭上をもカバーするように修道の槍を振るいつつ、トゥームがふと湧いた疑問を口にした。


「ふっふっふ~。シャポーを甘く見てもらっては困るのです。トゥームさんがシトスさんと連携攻撃の練習をしていたのと同じように、シャポーも精霊魔法に干渉しにくい魔力返還を基本とした魔導術式を、ムリューさん協力のもとに構築していたのですよ。正に『精霊魔導連携』なのです」


 新たな二つの法陣が輝くと、天井付近に存在していた防衛魔法が効果範囲を拡大させてゆく。だが、メーシュッタスの成長を阻害することはなく、隙間を埋めるように広がって行くのだった。


 トゥームは、落下してくる石を弾きながら、なるほどねと納得していた。


(気付けなかったけれど、シャポーは最初の防衛魔法から、精霊魔法と連携するものを使っていたのね。ゴボリュゲンさん達の造り出す大地の柱も、ムリュー達の風の精霊による防御も邪魔していなかったものね)


 付け加えるなら、自然現象を引き出しやすい精霊魔法に、物理的な防御を任せると指示を出したのもシャポーだったはずだ。トゥームは仲間の著しい成長を感じ取り、口元を優し気に緩めた。


「甘く見たことなんて無いわよ。さすがシャポーね」


 トゥームは言うと、自身の身体も軽くなるような気分になり、修道の槍を操る動作を鋭く速める。落下物の欠片一粒すら、仲間への接近を許さぬほどに全てを弾き返した。


「えへへ~。褒められちゃったのですよ」


 嬉しそうに照れつつも、シャポーの魔法はかなりの範囲にまでその護りの手を広げていた。グレータエルート達は、頭上の守備に割いていた労力が減ったことで、メーシュッタスの成長を助ける精霊魔法の行使を次々と開始していった。


「少し、楽に、なったかもおうぇ」


「無駄なおしゃべりしてないで、あなたも意識を集中しておかないとならないわよ。体内魔力制御もそうだけれど、エネルギーを肉体に流すというのは、大なり小なり危険を伴うものなの」


 三郎は心の中で(意識の集中と言われましても、どうやったものでしょうかね)と考えても口には出さず、目を瞑ってトゥームの言葉に従うことにした。


(ん、んん?ギュってされると柔らかな感触が。思春期の少年じゃなくても、これはやっばいでしょ。体が自由に動かせないだけに、身を任せるしかないってのが更に言い訳がましく・・・だめだ、そっちに気持ちが集中してしまう。目を瞑ったせいで、超意識しまくりなんすけど。おまわりさーん)


 気持ち悪さが軽くなり余裕ができてしまったがため、おっさんに新たな試練が与えられるのだった。


 当然、三郎の呼吸音が聞こえる距離のケータソシアは、何とも言えない苦笑いを浮かべていた。

次回投稿は7月17日(日曜日)の夜に予定しています。

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