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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第247話 あっちもあっちならこっちもこっち

 三郎の『力づくでも引き返させる』との意向を踏まえ、ケータソシアは追従する軍勢を二つに分けていた。


 一つは、構造解析の進められている範囲において、洞窟の崩落防止の措置を行う者達だ。


 ドワーフ族を中心に編成される部隊で、中央王都軍を撤退させるのに成功した際、突入した者達の生存率を少しでも高める重要な役目となる。


 残りの者達は、三郎らと供に洞窟へ突入し、中央王都軍へと転進を促がす役割を担う。


 崩壊の魔法が発動された場合、被害を抑えるよう行動することを求められる。大気や風の精霊と親交の深い、エルート族が中心とされる編成となっていた。


 当然、守護戦闘という防御に秀でた剣技を有する修道騎士達も、突入組へと編成されていた。


「中央王都軍の先頭が洞窟の入り口を通過との報告が入りました。これよりロウド隊長率いる偵察部隊を、洞窟外部の地形変化観測の任務へと移行させます」


 左二の腕に装着したゲージから、各部隊に命令を出しつつ、ケータソシアは同道しているメンバーに指示した内容を伝える。


 合流したシトスの部隊から「スィッ」と了解の合図が送られ、トゥームも心得たもので同様の合図で返した。


 天幕を一緒に出たはずである描族のモは、追いついてきた仲間の部隊を率いるため、後方へと下がっており行動を供にしていない。


 三郎達は、ようやく中央王都軍の最後尾を視界に捉え、徐々にその後ろ姿が大きくなっているところであった。


「追いついた人達から、撤退の呼びかけをしていっていいのか」


「従ってくれるとは思えないわ。私達は、先頭を行く勇者達へ追いつくよう専念すべきね。呼びかけは後ろの部隊に任せた方がいいわ」


 三郎が疑問を投げかけると、トゥームから即座に答えが返される。


 彼らとて、命令を受けて進軍しているのだ。指示系統へ働きかけなければ意味が無いとの返事に、三郎は納得して「了解だ」と言い、トゥームの邪魔をしないよう口をつぐむのだった。


「私達の進路を妨害してくる可能性も考えられます。サブローさんとシャポーちゃんは、振り落とされないように気を付けてください」


 ケータソシアから注意が飛ぶ。


 確かに、全体における軍議の決定を無視し、自らの作戦行動をとっているのだ。三郎達のことを『味方』と考えていない可能性は非常に高い。


(今更っちゃ今更だけど、こっちが味方って考えてても、相手がそう思ってるかは分からないんだもんなぁ。流石に『敵』とまでの認識にはなってないだろうけどさ)


 だが、三郎の考えが楽観的であると、即座に理解させられることとなった。


 トゥームの操る馬が、中央王都軍の最後尾と並走した刹那、三郎はトゥームに服を引っ張られてぐいっと体を前へと沈み込まされた。


 洞窟に入るのとほぼ同時とも言って良いタイミングだった。


 そして「うお」と声を上げた三郎の頭上を、剣の軌道が通過してゆく。


(どえ・・・まじか)


 頭頂部にそぞろ寒いものを感じながら、三郎は剣を振るった兵士へと目を向ける。


 馬の駆ける音と、鎧の立てる金属音に混じり「邪魔をするな」という声が聞こえた。


「牽制してきただけね。無視するわ」


 トゥームの囁きは、シトスらの精霊魔法によってはっきりと三郎の耳へと届けられる。


 彼女の言葉通り、中央王都軍の兵は剣を三郎達へ向けてはいるものの、二撃目を放ってくる意思はないようだ。


(いやいや、剣ですってば。武器ですわよトゥームさん。牽制とはいえ、あたったら大変なことになりましてよ)


 驚きのあまり言葉を失ってしまった三郎は、心の声もしっちゃかめっちゃかになるのだった。


 トゥームは馬の速度をぐんと上げ、剣を手にしている王都軍の兵士を一息でぬき去る。


 三郎が、後について来るケータソシア達も襲われるのではないかと、心配になってちらりと振り向く。


 中央王都軍は、エルートなど他種族と揉め事を起こすなと命令されているのか、トゥームと三郎に剣を振るってきたとは思えないほど大人しく進軍をつづけているのだった。


 次の瞬間、三郎は肩口を掴まれて、体を右方向へと倒される。


「うおおお」


 落ちそうになり、三郎は必死に腕と足に力を込めて振り落とされないように踏ん張った。


 三郎の体があった場所に、槍が突き出されているのが視界に入る。


(お、ち、る)


 槍が消えると、引っ張り上げられるような感覚と共に、三郎は元の位置へと戻されていた。


「サブローが狙われているみたい」


 誰に報告したものか、トゥームは言うと、今度は三郎を突き放すように押す。


 あまりに不意打ちだったので、三郎は両手を滑らせて後方へ上体を倒す羽目になった。


「ふおお」


 腹筋に力を入れ、鞍の端に指をかけて必死に耐える。


 中央王都兵の「邪魔はさせんぞ」というセリフとともに、三郎の目の前を槍が通り過ぎた。


 腰布が強引に引っ張られ、三郎は再び姿勢を戻す。


「中央王都軍と少し距離を置くわよ」


 三郎に話しかけたのだろう。トゥームは言い放つと同時に、馬を右前方へ跳躍させて、武器の届かない範囲へと離脱する。


 幅広の洞窟であるが故に、とれた行動だったといえよう。仮に狭い洞窟であったならば、三郎はずっと曲芸よろしく、武器を避け続けねばならないところであった。


 中央王都軍の数騎が、三郎達へ馬を寄せようとする怪しい素振りを見せた次の瞬間、シトスとムリューが間に割って入る。


 シトスの耳には、兵士が舌打ちをする小さな音が聞こえてきた。


「牽制程度とはいっても、サブローを狙っているのは間違いないですね。この隊列を維持しつつ進みましょう」


「普通なら当たらない速度の攻撃でも、サブローには避けられないって知らないのね。下手に当たってしまったら、私だって取り落としてしまうかもしれないのに」


 冷静なシトスの声に、トゥームは至って普通の口調で返す。


(俺が狙われてるとか、この二人は今日の天気でも話してるような口ぶりで・・・まぁ、戦場だもんな。いやまて、中央王都軍は一応『味方』のくくりじゃないですかね。攻撃してくるとかありえないでしょ)


 三郎が心で嘆いている間に、シトスの部隊員であるバジェンやグルミュリア達が加わって、中央王都軍との間に隊列の壁を作るのだった。


「サブローを脅すよう命令が出されているみたいですね。狙えなくなったという諦めの感情が、彼らの声から響いて聞こえます」


 シトスが「よかったですね」と付け加えて三郎に笑顔を向ける。


「まったく良くない。敵以外から攻撃されるとか、物騒すぎて涙でそう」


「暗殺の対象にされたり、身元を調べられたり、もっと物騒なことは一応あったじゃない。見て分かるぶんましだわ」


 やれやれといった口調で、トゥームは馬を走らせながら言う。


「そうかんたんに耐性とかつかないから・・・って、うわお」


 反論しようとして、三郎は咄嗟に首をすぼめた。目の前に壁から張り出した岩が迫っていたのだ。


「当たらないから大丈夫よ。危なかったら、また引っ張ってあげるし」


 まったくオーバーなんだから、とでも聞こえてきそうな口調でトゥームが言った。


「はい、もう本当に、トゥームさんよろしくお願いします」


 肝の冷えきってしまった三郎には、素直にお願いすることしかできないのだった。


 そんなやり取りの中、三郎は新たな心の憂いとなった中央王都軍の方へ顔を向ける。


「中央王都の軍って、言うほど行軍速度が速くないんじゃない」


 ぐんぐんと追い抜いている様子に、率直な感想が口をついてでた。


「我々とは逆の効果を彼らには与えているんですよ。ここまで近づいていれば、精霊魔法の効果範囲ですから。大気の壁を出現させて、急停止させることも可能ではありますが、洞窟内ですと後続の兵が回避する方法も限られるので危険ですからね」


 なにくわぬ顔で言うシトスの言葉に、何名かのグレータエルートが頷いている。


(相手も牽制で武器出してきてアレだと思ったけど、しれっとした顔で既に相手に精霊魔法使ってるとか、こっちもこっちだったな)


 おっさんは、シトス達エルート族が味方で良かったなとつくづく実感するのだった。

次回投稿は6月12日(日曜日)の夜に予定しています。

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