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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
233/312

第231話 こいつ何やってんだ

 三郎に軍議への招集がかけられたのは、シュカッハーレとの対面を果たして間もなくのことだった。


 当然、前線基地ではまだまだせねばならないことが山積みであり、トゥームとシャポーの手伝いで三郎も荷物持ちをしている最中であった。


 招集の連絡を受けた者達は、それとはなしに合流しつつ諸王国軍が設営したという軍議用の天幕へと向かう。


 ゴボリュゲンは側近を一人伴い、ケータソシアは副官の女性を連れている。教会の理事である三郎には、秘書官であるトゥームと教会魔導顧問となっているシャポーが供をする形で同道していた。


 七名もの指揮官クラスが、前線基地を離れることができたのには理由がる。


 一つは、カーリアが前線の指揮官代行として残ってくれたことだ。


 ドワーフ族やグレータエルート達から信頼を勝ち得た修道騎士カーリアであるが故、担える役割であったといえよう。


 二つ目の理由は、諸王国軍とともに到着した教会の軍勢が、教会評価理事である三郎の指揮下に入ったことだ。


 教会の兵力は、軍事的な理由から諸王国軍と進軍の足並みを揃えてこそいたが、その指揮下にあったわけではない。教会組織として上位職者である三郎がいるのだから、彼の指揮下に再編されるのは自然な流れだ。


 クレタス諸王国軍の内部からは、教会の動きに対して『指揮系統を乱す。勝手極まる』との異議申し立てが出されようだが、政府と教会の立場の違いは明らかであり行動を制限する手立てはないのだった。


 三郎は、現在の情勢について頭の中で整理しつつ、目的地である天幕に歩みを進めていた。


(勇者君の名を掲げて、クレタスのセチュバーを除く諸王国が一つになってできた軍勢か。戦勝の宴は、反乱の首魁であるセチュバー王を、勇者が倒したのを世に知らしめる目的だって言ってたもんな。世論を味方にするってのは、どの世界でも大切なんだねぇ。王国の剣騎士団のスビルバナン団長は、胃に穴とか開いてたりして。ドートやカルバリも、中央王都国王の勅命に加えて世論操作までされちゃえば抗えないだろうし)


 横にでかいドート国王カルモラと、縦長イメージの強いカルバリのオストー王を思い出しつつ、三郎はさらに考えへと浸る。


(俺の手を握りつぶそうとした、トリア要塞国のナディルタ女王だっけか、あの人も弟さんが頼りにならないとかいろいろ問題ありそうだし、こちら側ではないだろうな。確実に仲間っていえるのは、カムライエ率いるテスニス軍くらいか。あー、でもドワーフ軍の本隊も一緒だったよな。こっちにはゴボリュゲンさんがいるから『味方』って考えてもよさそうか)


 これから行われる軍議の場に、どのような面々が揃っているのかまでは知らされていない。だが、会議などに臨む準備として、自分の意見を快く受け入れないであろう人物をピックアップしておくのは、最低限しておかなければならないことだと三郎は考えていた。


 元居た世界において、自社製品を売り込みに行く際には、相手側の誰を説得して誰を味方につけるかによって、契約やその内容にも大きな差が生まれたのを経験しているからだ。


「サブロー」


(あーでもなー、規模が違いすぎるといいますか。こんな俺の話しが通用するんかね。胃が痛くなってきた・・・かも)


 トゥームに名を呼ばれたことにも気付けず、三郎は不安をつのらせる。


「サブローってば」


「うあっはいっ」


 横っ腹をつつかれたことで、三郎は驚きと返事のないまぜになった声を上げた。


「着いたわよ。ぼーっとしていたみたいだけれど、大丈夫」


 心配そうな表情で、トゥームが三郎の顔を覗きこんだ。


「ん、大丈夫。考えごとを・・・ってか、何この天幕。でかっ」


 安心させようと笑って顔を上げた三郎の眼前に、中央王都軍の大きな天幕が立ちはだかっていた。


 幼い頃の記憶にある、祖父母に連れて行ってもらったサーカス団のテントよりも巨大に感じられた。


「進むにしろ引くにしろ、邪魔なだけだわい。我らが陣の真後ろに建ておってからに」


 ゴボリュゲンが鼻で嘲笑うように文句をいうと「ほれ、行くぞ」と先に歩いて行く。


 彼の言葉通り、諸王国軍はこともあろうに、前線基地の後方に陣をかまえたのだ。連戦で傷ついた味方の退路を邪魔するように設営するとは、誰も想像しえない愚行といえる。


「何を考えているのか、問いたださねばなりませんね」


 ケータソシアが呟くと、大気が凍りつくようなピシリッという音が響く。


「ケータ・・・指揮官。どす黒い響きが声に混ざってますから。おほほ、普段はこんな子じゃないんですよ、教会の理事様」


 グレータエルートの副官は、ケータソシアをなだめるようにしながら、なぜか三郎に作り笑いを向けて言い訳けするのだった。


「幸いドワーフ族が設営を見送っているから、退路も確保できそうなものだけれど」


 トゥームが視線を向けた先には、ドワーフ軍が隊列を乱すことなく整列している姿がある。三郎には、これから開かれる軍議の行方を待ち、待機しているかの様にも見えるのだった。


(ゴボリュゲンさんが愚痴程度でそこまで怒ってないのは、仲間であるドワーフ軍の状況あってこそなんだな。おんや、ドワーフ軍の横、見慣れない種族がいる。シュターヘッドとは別の友獣なのかな)


 三郎には、遠目ではっきりとは確認できなかったが、全身毛むくじゃらの兵団がドワーフ族の傍にいるように見えたのだ。


「ほらサブロー、ゴボリュゲンさんはもう中に入っちゃったわよ。私達も早く行かないと」


 目を凝らそうとした三郎をトゥームが促す。


「おっと悪い」


 顔を正面に戻し、三郎は足を前に進め(気になることが多すぎるわ。集中しないとだめだな)と自分に喝を入れた。


「・・・」


 緊張の為か、魔導講師先生であるシャポーは、黙って皆について行くだけで精一杯なのだった。


***


 天幕の中には柱も無く、広々とした空間が開けていた。


(どうやって布をつってるの。魔法的な何かなのかな。あ、中央王都の街で見た浮いてる街灯、あれが要所で支えてるのか。明かりと支えが一体となってて効率が良いんかねぇ。いや、そもそもこんなでかい天幕がいらないですし)


 胸中で突っ込みをいれつつ、三郎が天井から視線を下げると、これまた大きな会議用のテーブルが置かれていた。


(これもデカすぎ、いらないです)


 三郎は小さくため息をつくと、案内された席へと腰を下ろした。


 さてと一度心を落ち着け、三郎は居並ぶ者達に視線を向ける。顔ぶれは勇者や召喚省の長官など、三郎が予想していた出席者に補佐官などが加わった程度であろうと考えていた。


(なんだ、これは)


 だがしかして、そこには目を擦って見直してしまうような光景が待っていた。


 席に着いている者達は、勇者を始め諸国の王や軍のトップが顔をそろえている。目を疑ったのは、勇者の背後に控えている複数の騎士達の姿だった。


 三郎が天幕に足を踏み入れた時、その者達は鎧に身を包み、顔までも覆う兜を装備していて性別すら確認することはできなかった。


 それがまるで、全員の――特筆するならば三郎の――着席を待っていたかのように、兜をぬいでわきに抱えて立ち並んでいたのだ。


「美女軍団・・・だと」


 思わず小声で呟いていた。唖然としたという言葉が、これほどしっくりとくる場面を三郎は経験したことが無かった。


 彼女らの立ち姿もかくたるや、三郎はミス何某コンテストでも観にきたかのような錯覚をくらりと覚える。


 勇者テルキへと目を移せば、どや顔を満面に浮かべて三郎を見ていた。少し上に向けた顎の角度が、なんとも小憎らしい。


 三郎のあっけにとられた表情に、テルキはご満悦の笑顔を返すと口を開いた。


「シュカッハーレ卿、教会の理事殿も『やっと』到着しましたし、軍議を開始しましょうか」


 テルキの言葉を受け、シュカッハーレが真面目腐った顔をして「はっ」と恭しく答える。


 この時、おっさんの頭の中には一つのコトだけが浮かんでいた。


(こいつ、何やってんだ)

次回投稿は2月20日(日曜日)の夜に予定しています。

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