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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第217話 おっさんの繋がる脳細胞

 三種族の指揮官による軍議は、主要な確認事を速やかに終えて解散となった。


 三郎はと言えば、終始『専門家に任せよう』の姿勢を貫くこととなり、最後の最後になってようやく「その方針で良いかと思います」の一言を発するのみの役回りとなるのだった。


 一夜明けても、制圧した第五要塞は慌ただしさを失っていない。


 戦場となった階下の処理はもちろんのこと、怪我人の対応も一昼夜で落ち着くわけもないからだ。当然、第六要塞方面の警戒はつねに高く維持しておく必要があるうえ、セチュバー側に動きがあれば早急に察知せねばならないこともあり、偵察部隊を編成し送り出すこともしなければならなかった。


 捕らえたセチュバー兵の監視や、指揮官への尋問も数えれば、人手が足りないのは幼子おさなごでも分かる状況といえた。


 一時いっときの休憩に入っている者以外は、己の役割を果たすため懸命に駆け回っている。


 そんな中、具合の幾分か回復してきた三郎も、包帯や水に加えて衣類の入った袋を背負い、汚れ物の入れられた袋をもかついで廊下を歩いていた。


 シャポーとトゥームに付き従って、負傷した者達を診てまわっているのだ。


「篭城するということね。第六要塞への進軍は見送り、この状況では賢明な判断だと思うわ」


 三郎と同じような荷物姿のトゥームは、昨晩行われた軍議の内容を三郎から聞くと頷いて返した。


 軍議には出ず、怪我人の手当をしていたトゥームのほうが、三郎よりも軍の現状をよく理解している様子だった。


「偵察部隊の情報と、セチュバーの兵士から聴き出す内容によっては、撤退への変更もあるみたいだけどな」


「背後をつかれる心配がないのなら、諸王国の軍と早急に合流するほうが安全だもの。ドワーフ軍の主力も同道しているというし、第六要塞を攻める際には、合流しておかなければならないでしょうね」


「第六要塞は『洞窟要塞』という通称で呼ばれていて、長いトンネルの中腹を塞ぐように建設された要塞だと、書物で読んだ記憶があるのです。これまでの戦いを参考にするならばですが、ドワーフさん達が居るに越したことはないと思われるのですよ」


 二人の会話に追随して、薬の詰め込まれている袋を大事そうに抱えたシャポーが言った。


「カーリアさんも話し合いの時に洞窟とか言ってたな。罠の有るなしも含めて、偵察部隊が探るみたいだけど」


 肩の荷物を直しつつ、三郎は思い返して言葉を返す。


「シャポーの記憶が正しければですね、洞窟全体に防衛機構を仕掛けられるほど、小さな洞窟ではなかったと思うのです。軍の移動にも邪魔にならないほど幅広で整備された洞窟との記述だった覚えがあるのですよ。岩盤層の成分なども混在していて、エネルギールートを通すのも容易ではない地質だったかと・・・岩盤層がむき出しの大峡谷ほどではないですが、偵察に使う精霊魔法も阻害されるでしょうから、高度な技術が必要になるかと予想できるのです」


 シャポーが昔読んだ書物の内容をたどりながら、三郎とトゥームに説明した。


「洞窟の入口までの道のりで、敵の姿がなければ撤退に移行できるのだけれどね」


 トゥームは、視線を下げて考えるように呟いた。


 第六要塞のある洞窟の入口までは、一日程度の距離だという。セチュバー軍の攻めてくる気配がないのであれば、第四要塞までの撤退も視野にはいってくる。


 敵側がこちらの動きを察知する術は、現状ないのだ。セチュバーの偵察部隊が潜んでいると仮定しても、巨大な第五要塞が目隠しとなって、撤退行動に移ったと気付かれるまでの時間を十二分に稼いでくれる。


 見落としていることは無いかと、トゥームは思考を巡らせていたのだ。


「エルート族の偵察部隊は優秀なのです。シャポー達は報告を待ちつつ、出来ることをやっておきましょう」


 ふんふんと鼻息を吹いて、シャポーが得意気に言った。


「偵察部隊の一員であるシャポーが言うんだから、間違いないわね」


 トゥームは、視線を上げるとくすりと笑ってシャポーに返す。


「ですです」


 嬉しそうに答えるシャポーだが、偵察に同行できなかったのを少しばかり悔やんでもいた。


 今回の作戦行動で重要視されるのは『機動性』であるがため、グレータエルートのみで編成された部隊で出発したのだ。


 敵部隊を発見しようものなら、即座に取って返し、籠城戦に備えて第五要塞の門を封鎖しなければならないのだから。


「報告・・・かぁ。そういえば、報告って何でやりとりするんだ?ここも岩盤層の上に建ってるんだよな」


 ふと湧いた疑問に、三郎は足を止めて首をひねった。


 岩盤層には、ミソナファルタの成分が溶け込んでいて、魔力を寄せ付けない性質があったのではないだろうかと、今更ながらに引っかかったのだ。


「ゲージに決まってるじゃない。他に何があるのよ」


「あれ?ゲージって大地の情報網を利用してるんじゃなかったっけ。確か微弱な魔含まがん物質による情報伝達だったって聞いた覚えが」


 トゥームの当たり前だと言わんばかりの表情を見て、三郎は更に頭を混乱させるのだった。


(魔力が通らない場所の上で、どうやって通信するんだ。ゴボリュゲンさんも『魔力薄き谷』とか言ってたし)


 両手に荷物を持っている為、自分のゲージを確認できない三郎は、疑問ばかりが膨らんでしまう。


 それに答えを返したのは、知恵袋である魔導師少女であった。


「ミソナファルタは魔力に類するエネルギーを通さないのです。でもですね、クレタスを形成する岩盤は、ミソナファルタの成分が溶け込んでできた層なのですよ。確かに他の地層が重なった場所よりかは、含有魔力量の絶対数は少ないのです。けれども、元々の大地と隕石の成分が溶け合ってできた岩盤層なので、ミソナファルタの岩石のようにエネルギー全般を遮断してしまうほどではないのです」


「ゲージのやりとりには問題ない、と」


「ですね」


 理解した様子の三郎に、シャポーはにこりと笑って答えた。


 中央王都にそびえるミソナファルタは、風化すらも受け付けないが、大峡谷は人族によって岩盤層を削られたうえで道として整備されている。


「ああ、だから『魔力薄き谷』なのか。魔力『無き』谷じゃないってことね」


「そーなのです」


 なるほどという表情になった三郎に、シャポーは大変よくできましたという表情をつくって返事をした。


「ちょっと二人とも、立ち止まってないで次の部屋に入るわよ」


 トゥームは、部屋の入口で振り返って三郎とシャポーに声をかける。二人は「はいはい」と言うと、急いで追いつくのだった。

次回投稿は11月7日(日曜日)の夜に予定しています。

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