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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第208話 もやっとする心

「お前さんらが言っておる諸国の軍というのは、臆病者ばかりなのだろう。我らが全要塞を落とした後、合流する気だったかもしれんよな」


 第五要塞へと進軍するなか、三郎の横に来たゴボリュゲンが「お前さんらは別物だがな」と付け加えつつ豪快に笑って言う。


 トゥームのゲージへと報告が入ったのは、第四要塞を出発する直前である早朝の事だった。諸国軍と行動を供にしている修道騎士団から、トームとカーリアに現状報告が送られてきたのだ。


 内容はゴボリュゲンの言葉通り、人族の軍勢がもたもたとしている状況を伝えるものであった。


 なんでも、第一門要塞の守備に就く国の選定と、捕虜としているセチュバー兵の扱いについて軍議が開かれたと言う。


 第一門要塞は、セチュバーの入口に位置付けられる要所だ。現段階において守備兵を配備することで、後々の領有権に繋がってゆく各国の思惑が見え隠れする。加えて、セチュバーを領地にできれば、天然エネルギー結晶の採掘場を手中におさめられるとの考えも水面下で動いてさえいた。


 民の生活は、人工的に造られるエネルギー結晶で十分に賄われてはいるが、魔導の研究や開発そして希少価値においても天然の結晶は魅力的な資源なのだ。


 捕虜の扱いに至っては「死罪である」との決議が、議論も浅く早々にとられようとしていた。


 幸いなことに、テスニス軍を率いるカムライエが、もたついていた諸国軍に第一の要塞で追いつけたことで、捕虜たちの命は延命されることとなる。


 彼らの身柄は、一時的にテスニス軍の預かりとされたのだ。カムライエは、教会評価理事の名の下、罪人であろうと法に照らして裁くべしとして頑なに譲らなかったらしい。


 ドートやカルバリに加えて中央王都軍幹部から、内戦における重要な判断は諸国含む政府の管轄とするところであるとの反発を受けはした。だが、今後のセチュバー領について「教会主導で復興を行うか、人族以外の種族が治めるべきか」とカムライエが提案し、捕虜の処罰もその統治者が判断すべしとテスニス国ジェスーレ王の名代として論じたところで決着がつく。トリア要塞国が、テスニスの案に異議なしとの意思をあらわにしたのも後押しとなった。


 各要塞には中央王都が守備の兵を割くこととされ、後々の諸王国会議にて討議すべしと一転して議決されたのだった。


 結論を言い争っているよりも、戦いに貢献したという実績を上げねばならないと人族の幹部連中がやっと気付いたともいえる。


「人族の一員として、謝罪の言葉も見つかりません。お恥ずかしい限りです」


 馬を並べていたカーリアが、ゴボリュゲンに深く頭を下げて詫びた。


「カーリア殿が、私達に謝られることはありません。種族は違えど目的を同じくする仲間なのですから」


 少し前で馬を進めていたケータソシアは、振り返ると笑顔で答えた。ゴボリュゲンは、ふむと同意を示しながらも「同じ種族でありながら『国』という単位を作り、利を争うのは理解できんがな」と嫌みを一つ付け加えるのだった。


(エルート族の誰かも、同じこと言ってたよなぁ。人族と彼らの考え方の違いは大きいのかもしれないな)


 三郎は、馬車の窓から顔を出して、彼らのやり取りを聞きながらぼんやりと考えていた。


「さてと、わしは軍の指揮に戻る。互いに死なず再会したいものだ」


 がははという笑い声とともに巨大なハンマーを高らかと掲げ、ゴボリュゲンは軍の先頭へむけてシュターヘッドを走らせる。


「サブロー理事殿、失礼でなければ、守護戦闘の許可をお与えください」


 修道の槍を立て、すっと伸ばされた美しい姿勢で馬を駆るカーリアが、馬車の傍まで寄って三郎に願い出た。


 一瞬何のことだか分らなかった三郎だったが、助けを求めるようにトゥームへ視線を送ったところで思い出されるものがあった。


(そういえば、ソルジで魔獣が来た時、トゥームがスルクロークさんに守護戦闘の許可をもらってたっけか)


 だがそれは、トゥームが修練兵であったがため、司祭の許可が必要だったのではなかったかとも思い至る。


 三郎に向けて、トゥームが真剣な瞳で強く頷き返したことで、何らかの深い意味があるのだと三郎は気づくのだった。


「教会評価理事サブローの名において、剣となり護ることを許します」


 スルクロークが切っていた印の形は覚えていなかったが、三郎は右手を軽く上げて守護戦闘の許可をカーリアへと言い渡した。


 目を伏せて一礼したカーリアは、馬に拍車をかけてゴボリュゲンの後を追うのだった。


「カーリアさん、すっきりとした表情になった・・・のかな」


 背中を見送った三郎は、車中のトゥームへと問うように言った。


「魔人族の侵略に備えるため、私達は剣を磨いてきているのだもの。同じ人族と剣を交えるのは、少なくとも望むところではないのよ」


 答えるトゥームを見れば、彼女もカーリアと同じ真剣な顔をしている。


「修道騎士って、自分の判断で守護戦闘を行えるんじゃなかったっけか」


 ふとわいた疑問を、三郎は口にする。


「人族に対し剣を向ける、迷っているところが有ったのかもしれないわ。それを振り払ってほしかったんじゃない。私だって正しいか正しくないか、考える部分はあるもの」


 三郎は「そうか」と答えて、セチュバーが内乱を起こす方へと進んでしまった経緯を改めて考えるのだった。


 悩んだ風な三郎を見たトゥームは、気を使うように彼の肩にそっと手を置いた。


「思いつめることは無いわ。修道騎士とはいえ、信頼できる人に背中を押してほしい時もあるものよ」


 トゥームの優しさからかけられた言葉は、三郎の心に意外と重くのしかかる。


(要するにだ、優秀な修道騎士様であるカーリアさんが、俺の一言で決意を固めたってことですよね。言い換えれば、若い子の責任を取るってことですか。嬉しいやら重すぎるやら。トゥーム一人でも、責任重大だと思ってるのになぁ)


 おっさんは複雑な思いにさいなまれる。カーリアとてトゥームに負けず劣らす、三郎から見れば若い子になるのだから。


 だがおじさんの横で、同じように複雑な心境になっている者がいた。


(カーリアがサブローを信頼?私が言ったのだけれど・・・なんだかもやっとしたわ。修道騎士として、理事をってことでいいのよね。違うのよ、今はそんなことを考えている場合じゃないの。って、そんな事って何よ)


 深い悩みを抱えてしまった表情の二人を、仲間がそっと見守り続ける馬車は、第五要塞の戦場へと足を踏み入れて行くのだった。

次回投稿は9月5日(日曜日)の夜に予定しています。

戦闘に突入するはずが、行き着けませんでした。次回は戦いの場面となる予定です。

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