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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第195話 守護戦闘の極意

 偵察部隊から『作戦成功』の連絡が送られてくると、軍全体に出撃準備の命令が飛び交う。


 戦場の緊張高まる空気を感じ取ったのか、馬のいななきがそこかしこで上がり、シュターヘッドが足を踏み鳴らす音が大地を震わせた。


「全軍!突撃!」


 怒号にも似た軽騎兵団長ゴボリュゲンの声を合図に、ドワーフ族の設置していた壁が地面へと吸い込まれるように掻き消えた。


 各所から聞こえる突撃の復唱とともに、ドワーフ軍が一塊となって進撃を開始する。


「我らは偵察部隊のいる右山裾を目指す。後れを取るな」


 カーリアの放った出撃の命令は、進軍の騒音を切り裂いて修道騎士らの耳へと届けられた。普段の優し気な口調とは違い、指揮官としての威厳を感じさせる響きだった。


 三郎達と修道騎士は、偵察部隊のピックアップと身の安全を一つ目の作戦としている。無事完了すれば、ドワーフ軍に続いて挟撃要塞へと攻め込む手筈となっているのだ。


 修道騎士団は、荒々しく進む軍勢の中にあって、騎馬を巧みに操り隊列の右側へと移動してゆく。


「キャスールでのご恩を返し、到着に後れをとった騎士団の汚名を返上する!各々方、命を惜しまれますな」


 先頭を駆けるカーリアの凛とした言葉に、修道騎士達から「おお!」と一斉に返された。


(命を惜しむなとか言っちゃってるよ。皆さんも『おう!』とか返事してるしって、うわっとぉぉ)


 三郎は、カーリアと騎士達のやりとりを聞いて、重々しすぎるのではないかと感じてしまっていた。正しき教えでの一連の件を、恩を着せたなどと思ってもいなかったし、門要塞へ先行したのも三郎達の独断だったのだから。


 命を懸けるような責任が、彼らにあろうはずもない。


 そう考えていた矢先、トゥームが馬の首をくいっと右に巡らせたため危うく振り落とされそうになり、三郎は慌てて腕に力を入れなおしたのだった。


(あぶないあぶない。というか、作戦的には『いのち大事に』って伝えたいっ、おほぅ!・・・んだけど、今喋ると舌噛むわ、これ)


 一難去ってまた一難。馬は眼前に迫った岩を避けるため、軽やかにジャンプをする。


 トゥームは、後ろに乗せた三郎の存在を忘れているかのように、華麗な手綱さばきを披露するのだった。


***


「シャポーちゃん、あんな短時間で、本当に敵の魔法陣を解除しちゃったんすか」


 身をふせていた平地の窪みから脱出し、右手の山裾まで無事に移動すると、ジャンがシャポーに疑問を投げかけていた。


 ジャンの目には、尊敬の二文字がありありと浮かんでいる。


「解除しちゃったのです。門要塞にあったものと法陣の式が同じでしたので、手間取らずに済んだのですよ。完璧でした」


 シャポーは両手を腰に当てて胸を張ると、得意気な表情で答えた。


 偵察部隊の中でジャンが一番若いということもあり、シャポーにとって気兼ねせず話しができる相手になってきていた。


「ジャンはエルートとして若いからあれだけど、私だってそこまで凄腕の魔導師がいるって聞いたことないもんね。グランルートの情報網でも知られてなかったってことだしさ」


「凄腕は褒めすぎなのですよ。監視の隙間を見つけてくださったから、シャポーの魔法も成功したわけですし」


 ヴァナまでもが一緒になって褒めてきたので、シャポーは照れ臭くなり頬を赤くして言うのだった。


「監視の兵には見つかっていないな。要塞の防衛魔法範囲外で合流できるように移動するぞ。作戦成功を喜ぶのは、要塞を落とした後にしておけよ」


 隊長のロドは挟撃要塞をしばらく観察した後、皆の傍まで移動して指示を出した。


「流れ弾に当たったら、冗談にもならないしね」


「そういうことだ」


 ヴァナの軽い相槌にロドがにやりと笑って返す。隊長という立場もあって険しい口調を崩してはいないが、作戦前よりも表情が穏やかになっていた。


「撤収。シャポはヴァナと行動をともに、ルパ後方。ジャンとケイは俺の左右につけ。合流目標は初期観測地点の大岩」


 ロド隊長の命令一下、全員が表情を引き締めて「スィッ」と合図を送り返した。


 偵察部隊は音もなく移動を開始する。


 挟撃要塞のセチュバー兵は、遠くから迫り来る軍勢に目を奪われ、足元で微かに揺らめいた岩場の景色になぞ気付くことはなかった。


***


 半円状にそびえる巨大な壁。


 その中央に位置する要塞の門へ向けて、シュターヘッドを駆るドワーフ兵が先陣を切る。


 第一門要塞を攻めた際には、被害をほとんど出さずに扉を打ち破ったドワーフ軍の破開鎚部隊であったが、挟撃要塞では簡単には行かなかった。


 要塞の防衛圏へと踏み込んだ途端に、突出している左右の壁からの猛攻に晒されたのだ。


 ドワーフ族とシュターヘッドは、前方からの攻撃にはたぐいまれな防御力を発揮する。だが、側面から友獣シュターヘッドの胴を射貫かれ、強い攻撃の圧力で横倒しにされ、軍の先頭をつとめていた者達は次々と足を止められていった。


 だが、破開鎚部隊は猛進を緩める気配すら見せない。倒れた者を避け、時には飛び越えて、挟撃要塞の門だけを目指す。


「突き進めぇ!」


 誰かの上げた声とともに、扉を打ちつける重たい金属音が要塞の壁に響き渡った。


 一人の到達を許してしまえば、ドワーフの勢いを止められる者はクレタスに存在しない。


 要塞の門へと猛攻をかける破開鎚部隊の打撃は、戦場の中に木霊となって鳴り響く。連続する金属音が徐々に変化してゆく中、修道騎士団は偵察部隊との合流を果たしていた。


「シャポー!私の後ろに乗って」


 馬を寄せたムリューがシャポーへと手を伸ばす。シャポーは軽々と引き上げられ、ムリューの後部にすとんと着席するのだった。


「ふわぁ、ムリューさんなのです。最初の解除作戦は無事におわったのですよ」


 ムリューの背中に顔をうずめた後、シャポーは瞳を輝かせて報告した。


「次があったら、私絶対についていく。もう心配でたまらなかったんだから」


「えへへぇ、心配してもらっちゃったのです」


 ムリューの言葉を聞き、その背中へシャポーは再び顔を擦りつける。


 その様子を見て、トゥームと三郎もシャポーの傍に馬を進めて労いの言葉をかけるのだった。


 偵察部隊の五名も、修道騎士団の馬の背に拾い上げられ、すぐさま隊列が整えられて行く。


「門への攻撃は始まってますが、ドワーフ軍の被害が大きくなっているようです。我々も急ぎましょう」


 様子を見るため、馬の背から腰を浮かせていたシトスが皆に声をかける。


「側面からの攻撃による被害が出ているようですね」


 同じく要塞の方を見つめていたカーリアが、戦況を冷静に把握して言った。


「二部隊編成。両翼守護戦闘用意。前方は私が護ります。出撃!」


 カーリアの一言で、九名の二部隊に別れた修道騎士団は、修道の槍を手に移動を再開した。


「私達はカーリアに続くわ」


 トゥームの言葉を受け、シトスとムリューも馬に拍車をかけた。


「両翼守護戦闘って、どういう・・・んぐ!」


「行けば分かるわ。修道騎士は守りに優れた騎士団ってこと」


 馬の揺れで舌を噛みそうになりながら三郎が聞くと、トゥームは馬の速度を上げつつ返事をする。


 三郎の疑問は、要塞の防衛範囲に足を踏み入れた瞬間に解消された。


(修道騎士・・・改めてすげぇな)


 両側に展開した騎士達が、修道の槍を素早く大きく振るい、要塞から飛び来るボルトや攻撃魔法を打ち払って進む。


 味方の隊列に合流する頃には、要塞の門は内部へと歪んで開かれ、ドワーフ軍が突入を開始していた。


 修道騎士団は、開かれた門へと通ずる道を守るように位置どる。半円状の要塞から降り注ぐ攻撃から、仲間を文字通り『護る』ためだ。


 被害の減った軍勢は、勢いもそのままに挟撃要塞に侵攻し、日が完全に沈む前に制圧を成し遂げるのだった。

次回投稿は6月6日(日曜日)の夜に予定しています。

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