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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第189話 ケータソシアの思い付き

 ゴボリュゲンの話によれば、ガス噴出の危険などが皆無であると分かっていたため、全力で掘り進めることができたのだと言う。


 元が階段という空間でもあり、瓦礫は硬くなく簡単に掘り起こすことが出来たのだ。救出対象である三郎達が、ケータソシアの精霊魔法によって十分に補強された部屋にいるとの連絡も受けており、ドワーフ族にとってこれほど簡単な採掘作業は無かったとのことだった。


 地下室を後にする際、トゥームは倒した魔導師二人の亡骸へ向けて騎士の礼を送った。それを見たグレータエルートの三名も、倣うようにして二人の亡骸へ敬礼する。


 三郎は教会の印をむすび、シャポーは頭を下げ、先の四人と同じ行動をとるのだった。


「あの二人、もしかして知ってる人だった・・・とか」


 地上へ向かって歩く途中、三郎はトゥームの傍へ寄ると言葉を選びながら聞いた。トゥームは騎士であり、たちはだかる敵を倒すのは使命と言っても良い。


 中央王都の奪還においても、切り捨てた相手に騎士の礼をとった姿を見たことは無かった。


 ここまで共に戦いをくぐり抜けてきた三郎は、トゥームがわざわざ振り返ってまで敵兵に敬礼したのに、何らかの理由があったのではと考えたのだ。


「慰霊の気持ちを相手に表す。中央王都でサブローがやっていたことじゃない。『安らかにお眠りください』だったかしら」


 トゥームが首をわずかに傾けて答える。


 三郎は言われて、トゥームの倒した敵兵に対し、目を瞑って合掌したことがあるのを思い出した。


「完全に同じ気持ちではないのだろうけれど、サブローの中にある『平和』の考え方を少しでも理解できればと思ったのよ」


「ああ、なるほど、そういうことだったのか」


「それにあの二人は、複数の敵を目の前にしても怯むことなく攻撃を仕掛けて来たわ。敬意を払うべき相手だったと言えばいいのかしら」


 三郎の相槌に、トゥームは付け加えるように言った。


「確かに、一対一の戦いであったなら、二手三手と戦いが長引いていたでしょう。我々への反応もそうですが、攻撃対象を見定めるのも素早く優秀な兵士だったかと。手の抜ける相手では無かったですね」


 前を行くケータソシアが、振り返って同意の言葉を口にした。


「セチュバー魔導師団はですね、クレタスの中でも攻撃魔法に精通した魔導師が多く集まっているのです。騎士とも渡り合えるよう訓練されていると言われているのですよ」


 シャポーが三郎の後方から話に混ざってくる。


「何でも、攻撃魔法の天才と魔導研究院で称されたメドアズ・アデューケさんという人がセチュバーに戻ってから、更に顕著になったとの記事を読んだことがあるのです。セチュバー宰相でもある人物だったかと記憶しているのです」


 文献を検索でもするかのように、シャポーは空中へ視線を巡らせて説明した。


「若い魔導師のほうも、私と刺し違える覚悟で正確な軌道の魔法を放ってきていたものね。訓練されているなら頷けるわ」


 シャポーの話を聞き、トゥームは戦闘の場面を思い返して言った。


「そっか、そんな人達が味方だったら、さぞ心強かっただろうにな」


 三郎が深いため息とともに吐き出した言葉に、トゥームが少なからぬ驚きの表情を浮かべて見せた。


 守衛国家セチュバーという敵対勢力に加担し、命を奪って当たり前である相手を『味方だったなら』などと仮定する思考は、トゥームの中にみじんも浮かんでいなかったのだ。


(そんなふうに考えられるのね。サブローや最初の勇者の思う『平和』・・・か)


 まだまだ理解が及ばないのだなとトゥームは実感するのだった。


「サブローらしい言葉ですね。命の奪い合いが避けられなかったと理解しつつも、本心から敵でなければとも思っている。倒した安心感と敵として出会ってしまったという無念の感情が複雑に入り混じった響きをしていますよ」


「俺に深い考えがあるみたいに、高尚な言い方をされるアレではないんだけどね」


 シトスの評価するような言い方に、三郎は苦笑い混じりに答えた。


「この場で倒せておいて有利になったと考えるでなく、仲間だったならばと考え命を惜しむか。ケータソシアよ、エルート族は面白い男を気に入ったものだな」


 三郎達『解析班』を先導するゴボリュゲンが、歩みを進めながら豪快な笑いとともに言うのだった。


***


 三郎が地上へ出てすぐ、グレータエルートやドワーフ軍の主だった面々が招集された。


 グレータエルート軍の指揮官であるケータソシアは、休む間もなくその作戦会議へとおもむく。


 残された三郎達は、医療班に診察を受ける程度の休憩を挟み、会議の場へと向かうのだった。


 門要塞の中央にある広場に、グレータエルートの天幕が設置されており、作戦会議はそこで行われていた。


(要塞の一室とか使わないんだなぁ)


 精霊魔法の弱まってしまう要塞内部にいるより、外に居る方が安全なのだろうとも三郎は考えるのだった。


 制圧した要塞では、戦後の処理に兵達が走り回っていた。捕虜となったセチュバー兵は、門要塞の牢へと連れていかれている。


 天幕の入口をくぐると、五名の人物が敷物の上に座って三郎達を出迎えた。


 ドワーフ軍として、ゴボリュゲンをはさみ二名の男が並んでいる。グレータエルートからは、ケータソシアと副官の女性が参加していた。


 三郎達は勧められるまま、思い思いに腰を下ろす。敷物は厚みのある生地で、要塞広場に敷き詰められた石畳の硬さを感じさせないものだった。


「早速だが、次の行動として進んだところまで説明させてもらおうかの」


 全員が席に着いたのを確認すると、ゴボリュゲンが口を開いた。両隣りに座る副官のドワーフ達が、物珍しそうな目をゴボリュゲンに向ける。


 それもそのはず、このような他種族の集まる場で、寡黙なドワーフが酒も入っていないのに自ら話し出すのは珍しいことなのだ。


「わしはこ奴らを仲間と認めたのだ。特にサブロー、武器も持たずに戦場に入る馬鹿者だ。頼りになるのかならんのか、分からんところがまた面白い」


 副官達の視線に、ゴボリュゲンは豪快に笑って答えるのだった。


(うわぁ、言われてみれば俺って手ぶらで、ふらふらと戦場に行ってたじゃん。でも、剣持ってても使えないし、重くて足が遅くなるだけだから、いいのかなぁ)


 三郎が複雑な思いに駆られる中、ケータソシアが段取りを引き継いで、初めて顔を合わせる者達の紹介を簡単に済ませる。


 そして、三郎達が加わる前に行われた話し合いについて、簡潔に説明をするのだった。


「我々の受けた損害は想定よりも軽微なもので済みました。現時刻から判断し、本日中に次の要塞近くまで陣を移し、可能であれば攻撃を仕掛けたいと考えています」


 三郎達が頷くのを見届け、ケータソシアは静かな声で話を続ける。


「しかし、我々の今回の作戦行動が敵方に知れている可能性が高いと考えられます。次なる要塞にも同型の破壊魔法が設置されていれば、攻め込むと同時に発動される恐れがあります。よって、グレータエルート偵察部隊により情報収集を行い、攻撃の可否を判断する材料にしたいと思っています」


 ケータソシアの提案を聞き、三郎はふむと一つ唸った。


「サブロー殿、腑に落ちない点でもありましたか」


 声の響きから、承服しかねる雰囲気を聴き取ったケータソシアが質問する。


「次の要塞前まで移動せねばならないのは理解しました。しかし、同じ作戦をとる場合、今作戦における消耗を考慮すると、格段に危険度が高くなると危惧しています」


 偵察の情報次第でこのまま攻め込むというのは、性急にすぎるのではないかと三郎は言いたいのだ。


「ケータソシアさんは上位の精霊魔法を使われましたし。シトスやムリューも疲弊するまで風と大気の精霊に呼びかけを行いました。それに、解除魔法を行使したシャポーの消耗についても気にせねばならないと考えています」


 三郎の言葉に、天幕の中が一瞬の沈黙に支配される。作戦失敗の可能性を示唆しているのだから、沈黙するのも仕方ないことだった。


 しかし、指揮官であるケータソシアはにこにこと笑顔を浮かべていた。


「サブロー殿の優しさが染み入るように声から響いて聞こえ、嬉しい限りです。でも大丈夫です、次に同行するのは我が信頼あつき副官ですので」


「ええー、それは初耳なんですけれど」


 ケータソシアは隣の副官の背中をどんと叩いた。副官の女性は驚きに目を見開いてケータソシアを見つめ返す。


「我々も問題ないですよ。地下に閉じ込められた際に休憩は取れましたからね」


 シトスが言うと、その隣でムリューが頷いた。


「シャポーも問題ないのです。魔法解除について、特に魔力消費をしたわけではありませんでしたので。元気いっぱいなのです」


「ぱぁぁぁぱぁぱぁ」


 シャポーが元気なポーズをとると、頭の上のほのかも真似をして元気をアピールする。


「であれば、問題は無さそうだのう。我々もシュターヘッド達も、戦える準備は出来ておるわ」


 実に愉快と、豪快に笑いながらゴボリュゲンは大きな声で言った。


「ちょ、ケータソシア、アンタ今の思い付きで言ったよね。『敬愛』って言ったのをからかった仕返し?そうでしょ・・・もが」


 小声でケータソシアに抗議する副官の口を、ケータソシアは優しく手で押さえて「信頼ですよ」と笑顔で返すのだった。


 皆の様子に、三郎は心配が杞憂だったかと肩をすぼめてトゥームに視線を送る。


「偵察の情報次第って話でもあるし、ケータソシアは無理を通すような指揮官ではないのだから、私達は安心していいんじゃない」


 トゥームはそう言うと、三郎の肩を手で軽く叩いた。


「あっ!偵察で思い出したのです。はい、はいなのですよ!」


 その時、シャポーが右手をぴんと伸ばす挙手とともに大きな声を上げる。


「シャポーさん、何かありましたか」


 ケータソシアが聞くと、皆の注目がシャポーに集まった。


「ありましたのです。偵察の際に、試みたい方法があるのです」


「ぱぁぁ」


 右手を上げたまま真剣な表情で言う魔導師少女の頭の上で、小さな始原精霊も右手を高々と伸ばすのだった。

次回投稿は4月25日(日曜日)の夜に予定しています。

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