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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第181話 おっさんの不安

 第一門要塞攻略についての作戦会議は、夕食をとった後でということになった。


 ドワーフ軍の団長であるゴボリュゲンは「作戦が決まったら教えてくれ」と言い残して天幕を後にしていた。


 一緒に食事をとケータソシアが誘いはしたのだが「エルート族の食料をたいらげてしまうわい」と豪快に笑って断ると、三郎の背中を力強く叩くのだった。


「ドワーフ族が怪力の持ち主だってことは、痛いほど理解できたなぁ」


 食事の席に着いた三郎が、まだじんじんとした感覚を残している背中を手でさすっていた。


「ゴボリュゲンさんに相当気に入られたみたいでしたね。サブローの抑揚の少ない『ドワーフ』という種族名が、人族から呼ばれたい理想とする発音だったようですよ」


 向かいに座ったシトスが、穏やかな笑顔をたたえて言った。


「サブローのクレタス語も、抑揚に欠ける部分が時々あるもの。母国語の喋り方の癖が出ちゃってるとでも言えば解りやすいかしら」


「うぇえ、そうだったかぁ。自分ではうまく話せてるつもりだったのに。まだまだ、馴染むには時間がかかるってところかねぇ」


 右隣の席からかけられたトゥームの言葉に、三郎は不満気な声で返した。


「サブローさまがクレタスに来てから時間も浅いのですから、意思疎通が可能というだけで素晴らしいとシャポーは思うのです」


 シャポーがトゥームの隣から顔だけをぴょこりと出して、三郎をフォローするように言う。


 三郎が気遣いに感謝しつつ「だよな、ありがとう」と返事をすると、シャポーは「えへへ」と嬉しそうに笑って返すのだった。


「甘やかしたことを言ってあげちゃうと、今後の上達が遅れるかもよ。時には厳しくするのも愛なんだからね」


「ふおお、愛なのですか。ではサブローさま、前言撤回しますから今後も頑張ってください。弱点を知ってからが本当の勝負なのだと、師匠が言っていましたので」


「ぱぁぱぁぱぁ」


 ムリューがシトスの横に腰をおろしながら言うと、シャポーは鼻息も荒く握り拳を作って三郎へのフォローを無かったことにする。テーブルの上では、シャポーの真似をしたほのかも、険しい顔つきになって握り拳を振り回していた。


 三郎は苦笑い混じりに「褒められると伸びるタイプなんだけどねぇ」と背もたれに身体を預ける。横目でちらりと見やったトゥームが「そうね、すごいすごい」と軽口で返した。


 三郎の左手、上座の位置に腰を下ろしていたケータソシアが、皆のやりとりを見てくすりと笑った。


「ははは、お恥ずかしい。私の扱いが日に日に軽くなっているのが、ケータソシアさんにばれてしまいましたね」


 気付いた三郎が、姿勢を正してケータソシアに愛想笑いを浮かべて頭を下げる。


「そのような意味で笑ったのではないのです。気兼ねすることなく語らう皆さんを見ていて、楽しそうだなと思い。羨ましくも感じていたんですよ」


「気兼ねしない仲間だと思っているのは、確かですね。しかし、羨ましいというのは」


 三郎は素直な気持ちを言った後に、ケータソシアへ疑問の声で続けて聞いた。


「そのままの意味です。私はグレータエルートの指揮官として、立場上行動を共にすることができませんでしたから。仲間としての絆を深めた様子に、羨ましさを感じたんですよ」


 首を少し傾けたケータソシアが、微笑みながら素直な胸中を吐露する。


(おお、さすがグレータエルート。マイナスな感情なしに、気持ちをストレートに口にするんだな。「羨ましい」の単語に負の感情が微塵も感じられないのは、種族的な違いってやつなんだろうなぁ)


 と、理知的な分析をしながら(美人に正面から微笑まれると照れるなぁ)などとも考えつつ三郎は口を開いた。


「んー、失礼な言い方だったら申し訳ないんですが、ケータソシアさんも絆の深い仲間だと思ってますよ。そうでもなきゃ、こんな雑談なんて目の前でできませんからね」


 三郎の言葉に、ケータソシアがきょとんとした顔をする。


 ケータソシアは、三郎達が丁寧な言葉遣いになるため、気持ち的に一線を引かれているのだと考えていた。その声からも、気持ちを改めるような響きが聞こえていたからだ。


 だがそれは、あくまで敬意を表現しているのであって、シトスやムリューと同様に仲間だと思っているとの気持ちが、今の三郎の声に含まれて聞こえてきたのだった。


「サブローの言う通りです。そうでもなければ、私も秘書官としての仮面を維持してると思いますから。それに、死線を越えた戦友だとも考えていますので」


 同様の考えであると伝えるように、トゥームがケータソシアに表情を崩して言う。


 三郎が「仮面、何だか語弊があるように聞こえるな」と呟くと、トゥームは事も無げに「例えよ、たとえ」と軽く返した。


「ふふ、お二人の気持ち、とても嬉しいです。ありがとうございます」


 透き通るような笑顔となり、ケータソシアは三郎とトゥームへ感謝のことばを送る。


「あ、いや、そんな、礼を言われるアレでは無いと言いますか」


「耳まで赤くしちゃって、綺麗な人の笑顔に弱すぎじゃない」


 三郎が狼狽するのをからかって、トゥームが三郎の耳を指でつつくのだった。


「しゃ、シャポーも同じといいますか、仲間にしてくださいと言いたいのですけれども。三人にしてくださいなのですよぉ」


「ぱっぱっぱっぱぁ~ぱぁぱぁぱぁ」


 しゅぴっと挙手して、シャポーも仲間に入りたいと騒ぎたてると、ほのかも真似をして挙手をしてみせた。


 ケータソシアは「当然、お仲間です」と笑って返事をする。


 だが、魔導師少女の声から、三郎やトゥームとは違い緊張感が抜け切れていないのを、ケータソシアの耳はしっかりと聴き取ってしまっているのだった。


***


 夕食の時間も早々に終えると、門要塞をどう攻めるかとの会議を始めた。


「道すがら、皆と話し合っていた内容なのですが、先に話しても良いですか」


「はい、お願いします」


 神妙な顔となった三郎が言うと、ケータソシアが先を促がした。


「グレータエルートの偵察隊によって、要塞内に魔法が仕掛けられているのが分かっています。魔法の種類を判別するため、シャポーを主軸とした解析班として、攻撃の際に私達を先行させてほしいのです」


「別部隊として行動すると」


「そうです。グレータエルート軍やドワーフ軍には、要塞の制圧に動いてもらい、罠だと考えられる魔法を我々が解析しに行く。解除できない危険な物であれば、早急に全軍へ撤退命令を出してもらいたいと考えています」


「要塞内部へ敵に気取られずに侵入するのは不可能なようですからね。内部に仕掛けられた魔法がどんな種類であるか、判断するには突入するしかないのですが」


 三郎の提案に、ケータソシアが顔を曇らせた。


「問題でも」


 表情を読み取った三郎が、ケータソシアに質問する。


「侵入する手立てが見つけられていないのは事実ですが、サブローさん達を危険度の高い場所へと先行させるというのは、指揮官として快諾はできませんね。グレータエルート軍が安全を確保した上で魔法の解析をと、私は考えていたのですけれど」


 ケータソシアの意見はもっともだ。三郎が、グレータエルートやドワーフに『制圧』を優先させ、少人数で魔法の解析に向かおうとしている理由がはっきりとしていない。


「それについてはですね、シャポーから説明をさせてもらいます。セチュバーは軍事魔法に精通しているというのが、これまでの戦闘や接触で判明しているのです」


 シャポーが引き継ぐように話始める。


「要塞に仕掛ける法陣ということで、色々な可能性を考えた結果なのですが、全軍が要塞内部に突入する前に、母体と考えられる魔法陣にアクセスしなければならないと判断したのです。最悪の場合、魔法が起動すれば全滅も考えられると思うのです」


「可能性ですか。高いものからいくつか教えてもらっても」


 シャポーの声色から、膨大な種類の魔法が考えられるのだと聴き取り、ケータソシアは聞き返す。


「まずは偵察隊の調べた『兵が多くいる』と誤認させるためだけの魔法である可能性があるのです。他には、侵入者に対する攻撃性のあるトラップの魔法、効果範囲に踏み込んだ者に眠りや混乱を与える魔法などが考えられます。しかしですね、軍事魔法として一番危険だと考えられるのは、侵入者共々要塞を破壊してしまう魔法なのです。発想としては単純なのですが、被害は最も大きいのです」


 何百と思いつく細かなものは排除し、シャポーは大まかに分かりやすいものを列挙した。


「最後に言われた『破壊の軍事魔法』であることを考慮し、先ほどサブローさんが言われた作戦が有効であると」


 ケータソシアは、思考を整理するために瞑目し、眉間に指を押し当てる。


「偵察部隊さんのおかげで、要塞内の大まかな構造が把握できていますので、母体となる法陣へと直行すれば最悪の事態は防げると思うのです」


 シャポーの言う最悪の事態とは、門要塞ごとグレータエルートとドワーフの軍が全滅するという意味だ。


「もう少し詳細な内部構造が得られれば良かったのですが、遠隔視認の魔法を防ぐ術式で精霊魔法も影響を受けてしまい、完全な構造図が提供できずに申し訳ないところです」


「いえいえ、要塞に仕掛けられた阻害魔法をかいくぐり、基軸らしき魔法陣の位置まで割り出せているのですから、とても素晴らしいと感心するばかりなのですよ」


 謝罪を口にするケータソシアに、シャポーは尊敬の込められた言葉で返した。


「ふふ、では『偉大なる小さき魔導師』様に、そう評価されていたと偵察隊に伝えさせてもらいますね。間違いなく喜ぶことでしょうから」


「い、偉大だなんて。そ、そうなのでしょうか。えへへ」


 さっきまでの真剣な表情を崩すと、シャポーはもじもじしながら頬を赤らめるのだった。


 そして、作戦について考えのまとまったケータソシアは、自分の理解を確認するように次の言葉を口にする。


「入口を破壊して少人数で先行してしまうと、伏兵のある場合に危険であるという分けですね。そして、魔法の解析を後回しにして制圧だけを行えば、全軍に被害が出る恐れがあると・・・よって、同時に行うのが重要だということで間違いありませんか」


「間違いありません」


 三郎は答えると、その場に居る全員の表情を確認した。


「では、最短の時間で解析班が地下室へ行けるよう『作戦を立案しました』ので伝えさせてもらいます」


(ふぁ?)


 おっさんが心の中で絶句してしまっているのを横に置いて、優秀な指揮官の考えた作戦が皆に共有されて行く。


(ケータソシアさん、さっきちょっとだけ考える素振りを見せた間に、作戦立てちゃったのね。優秀な指揮官とは聞いてたけどさ。ってか、皆も普通に受け入れてるよ。もしや、俺が一番頭の回転遅いんじゃ・・・)


 おっさんの不安は、鋭いまでに的中しているのだった。

次回投稿は2月28日(日曜日)の夜に予定しています。

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