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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第179話 力士達の酒盛り

 セルクニルバの町を迂回し、速度を緩めることもなく突き進んだ三郎達一行は、エルート軍の野営地を目前としていた。


 宿場の町中を通らないと判断したのは、クウィンスと御者の二人だ。


 そのおかげもあって、日が沈むより先にグレータエルートの軍との合流をはたせそうであった。


「シトスさん、前方を確認してもらえませんか。エルート族とは違う軍がいるようなんです」


 荷台前方の幌を上げ、ミケッタが進む先へと視線を向けたまま声をかける。


 既にクウィンスは速度を抑えはじめており、警戒心を現すように首を低くしながら歩みを進めていた。


「確かに、我々の軍とは違いますね。石で造られた野営地といった所でしょうか」


 御者台から身を乗り出したシトスが、目と耳に意識を集中して呟く。


 傾きかけた日の光の中に、グレータエルート軍の倍以上の軍勢が陣を張っているのが見て取れた。


 森を彷彿とさせるグレータエルート軍の野営地とは違い、簡易的ではあるがごつごつとした頑丈な壁を組み合わせた建物で構成されている陣がしかれている。


「遠いね。軍旗が風に揺れてるけど、光のせいで色とか模様がはっきり見えないし」


 目を細めたムリューが、シトスの横から顔を出して言った。


 トゥームも同じように確認しているが、判断が付かないといった表情を浮かべている。


「んーっとですね。あれは土ぞ・・・ドワーフ族の軍隊なのではないでしょうか。色相補正して旗を視てみたので間違いないのです。それにシュターヘッド種と思われる獣も見られますので」


 馬車の窓から顔を出していたシャポーが、両目を青白く発光させながら言った。


(なんだかシャポーさんの目は、どんどん性能が良くなってないですかね。そう言えば、アップデートしてるとか言ってたもんなぁ)


 三郎はそんなのんびりとした考えを浮かべると、トゥームやシトスが遠いと感じるなら、自分が見ても何もわからないだろうとは思いながらも、シャポーの横から顔を出して前方に目を向けた。


「って、遠いっ!石造りだの旗だののまえに、皆さん目良すぎでしょ」


 三郎が声を上げるのも仕方ない。遥か彼方に見えるドワーフ軍のものだという野営地は、旗や人影の見分けもつかないほど遠く小さく見えるのだった。


***


 クウィンスは警戒を解くと、ドワーフの野営地へ向かって意気揚々と駆けて行く。


 グレータエルート軍が、その野営地の先に陣を構えているからだ。


 三郎の目にもドワーフ陣営の様子が分かる程度に近づいた時、一人の騎士が教会馬車へ向かってシュターヘッドを走らせて来るのが見えた。


「私は土の一族、ゴボリュゲン軽騎兵団の騎士です。教会理事殿の馬車とお見受けいたしますが、間違いありませんか」


 兜でくぐもってはいるものの、大きく響く野太い声がかけられる。


「はい、グレータエルート軍へ合流するため、向かっているところです」


 御者台から顔を出したシトスが、ドワーフの騎士に答えた。


「エルート側より連絡は受けています。案内いたしますので、我らの陣営を真っ直ぐ抜けてください。その方が早いでしょう」


「陣営の外を回ろうかと思っていましたので助かります。よろしくおねがいします」


 騎士の申し出に、シトスが丁寧に礼の言葉を返す。


 三郎は、そんな二人のやり取りを馬車の中で聞いていた。


 三郎の思い描いているドワーフは、どちらかといえば粗野なイメージだ。だが、案内してくれるという騎士は、そんなイメージとは違い人族に近い印象を受けた。


(ドワーフと言えば、酒好きで口数が少ない感じかなって考えてたんだけど。拍子抜けするくらい丁寧だな)


 加えるなら、手先が器用で気難しい職人気質の種族なのではとさえ思っていたのだ。


 興味の沸いた三郎は、窓からそろっと顔を出して騎士の姿を確かめる。


「っ!?」


 クウィンスと並走するように走る爬虫類の獣に跨り、寸胴な人型の種族が手綱を操っている後ろ姿があった。三郎が驚いたのは、何を隠そうそのいで立ちだった。


(さっき軽騎兵団って聞こえたんだけどもさ、これは重騎兵の間違いじゃないですかね。武器もごついハンマーみたいなのを背負ってるし)


 三郎の目はドワーフの騎士に釘付けとなってしまった。


 全身を重厚な金属の鎧が覆っており、その上に大きな兜が乗っかっていたのだ。


 背にかつがれた武器は、握りの部分も太ければ柄も太く、先端には鉄塊と言うに相応しいヘッドが付いている。


 シュターヘッド種と呼ばれる友獣は、背に乗る騎手の重量など気にもしていないかのように、太い二本足で軽やかに駆けていた。


「息なんか飲んで、どしたの」


 ムリューに話しかけられて、三郎ははっと我に返る。


 恐竜に跨った寸胴の重騎士。圧倒的な重量の絵面が、三郎のファンタジック興味を大きく揺さぶったのだった。


「騎士、強そうだな。軽騎兵って言ってたけど、すごい重装備だよな。恐竜みたいなのに乗っててさ、何か知らんけど、俺今すごい感動してるわ」


 興奮しながらも小さな声で言う三郎に、皆が顔を寄せて話を聞いた。


「いえいえ、土ぞ・・・ドワーフ族の歩兵は、もっともっと重厚な装備をしているとの記述を読んだことがあるのです。紛れもなく、彼等にとっての軽騎兵なのだと思うのです」


「シャポーさんの言う通りです。土族はクレタスで最も頑強な兵団だと言われていますからね」


 シャポーに同意を示すように、シトスが言葉を続けた。


「はぁ~、あれ以上の重鎧か・・・着てる人はどれだけマッチョなんだろ」


 三郎は感心の溜め息を漏らして言う。頭の中には筋肉達磨な種族が浮かんでいた。


「マッチョって言うけれど、重い物を持つのに必要なのは筋力だけじゃないのよ。三郎の理論にあてはめたら、修道の槍を片手で扱う私が、筋肉もりもりになっちゃうじゃない」


「あー、体内魔力の操作ってやつね」


 トゥームの流すような視線に、三郎が両手をぽんと打ち鳴らして答えた。


「しかしながら、土族が筋肉質な体型であることには間違いないですよ。体内エネルギーの操作だけでは、さすがに限界もありますからね」


 シトスは笑いながら付け加えた。


 確かに、体内魔力の操作だけで重たい装備がいくらでも着けれるのなら、修道騎士やグレータエルート族がもっと様々な装備を身に着けていてもおかしくはない。


「ドワーフ族はですね、巧みな金属加工技術を持っていまして、体内魔力を通しやすい装備にすることで、その重量をある程度緩和できるのですよ」


「物作りは得意なんだ。その点は、俺のイメージに当てはまってたかも」


 シャポーが得意気に知識を披露すると、三郎は納得した声で返した。


「サブローさまは、ドワーフ族が金属加工の得意な種族だと知っていたのですね。流石なのですよ」


 素直に感心するシャポーに、三郎は苦笑い混じりに「たまたまだよ」と言う。


「土族は我々エルート族と近い種族ですから、体内魔力というよりも精霊力と言った方がより正確かと思います。金属加工についても、鉱物などの精霊と親しい間柄であるが故でもあります。エルート族の木工技術に近いと言えるかもしれませんね」


 シトスは「より正確に言うならですが」と最後に注釈をつけた。


「近い種族ってことは、仲間みたいな感じなのかな」


 三郎が疑問の響きをはらんだ口調でシトスに聞き返す。三郎のファンタジック知識においては、エルフとドワーフはそんなに仲の良い種族ではなかったと記憶していたからだ。その関係に、エルート族とドワーフ族を当てはめて考えてしまっていた。


「サブローさんが危惧しているような関係では無いですよ。精霊と親交を持つ種族同士なのですから、人族との関係よりも近しいかと」


 シトスが声の響きから三郎の考えを察して、安心させるような穏やかな表情で答えるのだった。


 ちょうどその時、馬車の中へと賑やかな笑い声が流れ込んできた。


 三郎が窓外に目をやると、鎧装備を外したドワーフたちが、ジョッキ酒を片手に夕餉ゆうげをそこかしこで囲んでいる姿が目に映る。


「えっと、戦の最前線で酒盛りだなんて。サブローじゃなくても驚く光景かもしれないわね」


 目を疑うような顔をして、トゥームが感想を口にした。


 三郎の受けた印象を短く言えば『陽気に酒盛りする、背の低いお相撲さん達』だ。


「た、楽しそうだな」


 三郎もそう答えるしかできなかった。

次回投稿は2月14日(日曜日)の夜に予定しています。

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