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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第八章 正しき教え
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第148話 おっさんのお願い事

(お告げを受けたのが十二人いるから、そのまんま天啓十二騎士なのね。人数増えたり減ったりしたら、その都度呼び名も変えるんかなぁ)


 互いの紹介が終わると、ギレイルが「簡単ではありますが」と前置きし、天啓十二騎士について三郎に説明した。


 ギレイルの話しを聞き、三郎が最初に持った感想が、先のそれであった。


 何でも、ここにいる十二人の騎士達は、三年ほど前に夢の中でお告げを受けたのだという。


 それは、光の中より現れた最初の勇者が『ギレイル・アガユアの下に集え。間違いを正し、クレタスに真の平和を』と語る同じ内容のものであった。


 彼らは、朝目覚めてもなお鮮明に残るその夢を、お告げと信じて『正しき教え』に加わっているのだ。


(同じ時期に同じ内容の夢を十二人も見てたら、そらまぁ、俺でもお告げだって思うかもな。セチュバーの件とか、ラーネさんの話しだとか、知ってなければ尚更だ)


 セチュバー内乱の動きと、高教位ギレイルの動向が偶然にも一致していることなど、彼らは知ってすらいないのだろう。ギレイルがセチュバーへ旅に出ていたと知っていても、内乱と結びつけて考えるとは思えなかった。


 ましてや、大気に含まれる魔力素については、講師クラスの魔導師でも気付けぬほど巧妙な術式だというのだから、知る術があろうはずもない。


「サブロー、騎士達の声からは、偽りも『霞み』の響きも聴こえませんでした。トゥームさんも、修道騎士の名は無かったと言ってます。全員の声と名を我々に聞かせたのは、さすがですよ」


 ギレイルの話が終わろうかという時、三郎の耳元でシトスの声が囁かれる。小さな声を届かせる精霊魔法『精霊のささやき』を行使したのだ。


 声の響きに『霞み』が無いということは、ギレイルだけが大気中にある魔力素に影響を与えられることを意味している。そして、トゥームは修道騎士団に所属する全員の顔までは知らずとも、名前は当然ながら記憶していた。


 時間稼ぎの逃げ口上だったのだが、対談の本題へ入る前に、三郎達は多くの情報を得ることが出来てしまった。


 三郎は、了解の旨をエルート族の使う「スィッ」という合図で送り返した。


(ということは彼らの言葉通り、元テスニス軍所属が十人と元護衛の傭兵をしていたのが二人で間違いないか。カムライエには悪いけど、テスニス軍や傭兵が、剣の腕で修道騎士よりも上ってのはあり得ないから、修道騎士が正しき教えに加わってないのは確定かな)


 彼らは、堅苦しい挨拶でありがちな、元いた自身の所属を挨拶の冒頭につけて名乗ってくれたのだ。三郎は頭の隅で、どの世界でも丁寧な挨拶ってのは変わらないものなんだな、などと関係ないことまで考えるのだった。


 そんなやり取りが目の前で交わされているとは知らず、ギレイルの話しは続いていた。


「彼らは私を先生と呼んでいますが、私は志を同じくする対等な立場であると考えています」


「対等なお立場ですか」


 ギレイルに対し、三郎は肯定とも否定とも受け取られないよう、注意を払って言葉を返していた。


 三郎自身の感情を表に出さず、あくまで傾聴しているという態度に徹しているのだ。


 教会の理事としてこの場に赴いているため、軽はずみに相手の話を肯定するような言葉を口に出すことは出来ない。かといって、否定してしまえば、対談の出足からつまづくことになってしまう。


 特に注意したのは、夢のお告げについてだった。


 現れた者が本当に『最初の勇者』なのか、夢を見た本人でも確認しようがない。長命なエルート族とは違い、最初の勇者に会ったことのある人族など存在しないからだ。


 ――とある魔導師のお師匠様について、三郎は人族の枠から除外することにした。


 それを理由に、否定するような言葉を吐けば、ギレイル含む全員の態度が硬化してしまうのは日の目を見るよりも明らかといえる。彼ら正しき教えの者達は、夢に現れたのが最初の勇者だと信じ切っている様子なのだ。


 その上、シトスが、偽りの響きが聴こえないと言ったのだから、十二人全員が同じ夢を見たというのは真実なのだろう。


「お時間の関係もありますので、そろそろ本題に入らせていただきたいと思うのですが。いかがでしょうか」


 カムライエが、ギレイルの話しにひと段落ついたと見て、対談を本筋に戻す提案をした。


 そして、議事の記録用ですと言って、二回りほど大きめな事務用のゲージを机の上に置く。


 カムライエは、ギレイルと三郎の両名の承諾を得るように交互に視線を向けた。


「ええ、構いません。査察の目的などは、テスニス政府からの書簡で伝えられていますが、確認の意味も含めて直接お聞きしたいですからね。対談の受け入れ以外、返答していない部分が大半ですから」


 ギレイルは、天啓十二騎士の紹介をし、自分達が最初の勇者からお告げを授かった集団なのだと言えたことで、多少なりの満足を得ていた。


 正しき教えは、最初の勇者から啓示を受けた集団。クレタス全土に、そう公表する機会として、三郎との対談を公式に受け入れたとも言える。


 傾聴する三郎の姿勢を見て、この男ならば『話が通じる』のではないかと考えてすらいたのだった。


「午後には、ご厄介になっている修道騎士との面会も控えていますし、時間は限られていましたね。そうそう、お願い事が一つあるのですが、話し合いが終わってからとさせて頂きます」


 ギレイルが、対談の受け入れだけを承諾したかに言うのを、三郎は修道騎士との面会をうやむやにされぬよう、言葉を強めて返した。


 そして、対談中にギレイルや天啓十二騎士達が、あえて気にかかるようなことを最後に付け加えたのだった。


「お願い事。重要なものであれば、先にお伺いしますが」


「いえいえ、キャスールに到着してから考えたことですので、テスニス政府や教会からお伝えしていた諸問題を話しましょう。公人として来訪したため、お願いも私としては大切なのですが」


 三郎の言葉が引っかかったのか、ギレイルは探るような視線で言う。


 だが、三郎はあくまでも最後にと笑顔で返事をするだけで、カムライエから対談を進めるための書類を受け取った。


 ギレイルは、そこまで言われるならばと引き下がるが、三郎の一言を聞き逃していた。


 三郎はこの時、正しき教えという勢力に対して、セチュバー内乱と同様ともいえるクレタスで起きた『諸問題』だと公言したことになる。

次回投稿は7月12日(日曜日)の夜に予定しています。

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