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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第八章 正しき教え
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第141話 おっさんの嘆きは続く

 シャポーの師匠である魔導幻講師ラーネに見送られ、三郎達を乗せた馬車が教会前を出発してから、さほど時間も経たぬうちにカムライエは、皆に注意を促していた。


「首都の北西地区にはすぐに入ります。高教位ギレイルとの対談が約束されているので何事も無いとは思われますが、十分に注意して行きましょう」


 馬車はちょうど、テスニス政府側の兵士が警備に立っている場所を通り過ぎるところだ。テスニスの兵士達は、防衛用に置いていた柵を移動させ、三郎達の乗る馬車を敬礼をもって見送った。


 警備兵が防衛柵を戻す姿が遠ざかって行くと、一番にそわそわし出したのはシャポーだった。


 幌に開いている窓から半分顔を出し、外を眺めては反対側の窓に行って同じような行動を見せる。


「ちょっとシャポー、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。シトスやムリューもいるんだし、私だって周囲の気配に注意を払っているんだから。それに、ミケッタとホルニが、前方で何かあれば知らせてくれるわよ」


 シャポーの背中を安心させるように叩きながら、トゥームは窓と窓を行き来しているシャポーに声をかけた。


「あ、いえ、これはですね、落ち着きをなくしてしまい申し訳ないのです。そろそろ師匠の魔法の発動場所かと思ったらですね、見ずにはいられない弟子心とでも言いましょうか。お恥ずかしい限りなのです」


 座りなおしたシャポーは、それでも外に気を取られている様子でちらりちらりと目を窓に向けていた。


「ラーネさんが地図で指さしてたの、ちょうど道の真上っぽかったもんな。でも、路上に魔法陣とか、騒ぎになりそうなことはしてないんじゃないか」


 三郎も興味を引かれたのか、窓に顔を寄せて言った。


 今は、テスニス政府と正しき教えの睨み合う中間地帯ということもあって、町に人通りは無い。だが、ラーネが魔法を使ったのは、正しき教えも身を潜めている時期であり、町にも日常の活気があったはずだ。


「そうなのですよ。どの様に行使されているか気になってしまうのです。それに、師匠は魔法をできるだけ使わないようにしているので、実践的な状態にある師匠の魔法を見られる、絶好の機会かと思いまして」


 三郎に並んで顔を出したシャポーが、馬車前方に視線を向けて答える。


 窓外を見ている二人の後ろから、カムライエの声が諜報機関にも道端に魔法陣があるといった情報は入っていなかったことを付け加えた。


「ラーネさんって、魔法使わないようにしてるんだ。そういえば、環境が壊れるとか魔力溜まりが出来ちゃうとか、そんな感じのこと言ってたもんな」


 ラーネの言葉を思い出し、三郎は納得した口ぶりで言う。だが、シャポーからは恐ろしいともとれる答えが返ってきた。


「師匠は、日頃から『面倒だから使わない』と言っていましたが、お酒を呑んで酔った時にぽろっとですね、重なり合う次元との因果律が壊れるとか、魔人族が師匠の魔力を察知して、人族が攻めてきたと勘違いしても困るだろうだとか、そのようなことを言ってたのですよ」


 シャポーは前方に注意を向けたまま、さらっと口にした。


 ずぶの素人である三郎が聞いても『ただ事ではなさそうだ』と感じるのだ、専門知識のある魔導師が聞いたなら恐々としたことだろう。


「えーっと、何と言うか、力はあるけど迂闊に使えないってことなんだな」


「ですねですね。壊れた律の調整は難しいですし、魔人族が攻めて来る原因を作ったら大変なのです」


 日常会話の口ぶりで返すシャポーに、三郎は『この子も少し、感覚が一般人とずれちゃってるみたいだな』と思いながら「そうだねぇ」と返事をするしか出来なかった。


 そんな話のやりとりをしていると、突然シャポーが窓から身を乗り出し前方を見つめた。


「サブロー様、見えたのです。巧妙に隠してありますが、大気中に大きな魔法陣が浮いてるのです。はわー、芸術的ともいえるほど、深度の深い魔法が一つにまとめ上げられているのです。勉強になるのですよー」


 感嘆の声を上げるシャポーにつられ、三郎も進行方向に目を向ける。


 しかし、そこには馬車の通る幅広の道が続いているだけで、魔法陣の欠片すら見えなかった。


「大きな魔法陣?いや、全く見えないんですけど」


 目を擦って見直してみるが、三郎には変わらぬ街の景色しか目に入って来ない。


 シャポーは、独り言のように行使されている魔法の種類をあれやこれやと並べ立てて、瞳を輝かせている。


 三郎が、見えていないのは自分だけなのかと馬車の中に視線を向けると、反対側の窓から前方を確認したシトスとムリューが「見えない」と言って肩をすくめてきた。


 御者台の方へ顔を出しているカムライエも、首をひねっていた。


「トゥームは、シャポーの言ってる魔法陣、見える?」


 三郎は、助けを求めるような表情でトゥームに言った。


「シトスやムリューが確認できないなら、私にも無理だと思うけれど」


 そう言うとトゥームは、三郎の頭の上から窓の外へと顔を出し、シャポーの視線の先を追う。


「んー、それらしいものは、私にも見えないわね。魔力を見定める視力強化をしても、有るのかどうかすらわからないわ」


 トゥームは目を細めながら言った。


「とても美しい魔法なので、皆さんが見られなくて残念なのです。シャポーはですね、先日トゥームさん達が訓練していた時に改良していた、視力強化の魔法を、魔力検知の魔法に組み合わせているので見えてるのかもしれないのです。一般の魔力検知の視力魔法では、見破れないほど巧妙な隠蔽や認識拡散の術式も組み込まれてるのですよ」


 シャポーは、本当に残念だといった口調で言う。どうやら、シャポーの瞳がらんらんと輝きを放っているのは、魔力による視力強化が原因のようだ。


 シャポーが口にする様々な魔法の種類を聴き、三郎は魔法の深度について、以前シャポーから説明されたなと思い出していた。三郎の頭では確か、深き大森林にかけられた魔法を解析・解除するために旅をした時だったと記憶している。


(火の玉の魔法を使う時に『火球』の魔法一つだけだと深度は浅いんだっけか。火を発生させる魔法、火を丸くする大気の魔法、相手に投げつける移動の魔法を組み合わせると、深度が深くなって解除されにくくなるとか言ってたような。複数使うと、見破られにくくもなるのかねぇ・・・)


 と言う真面目な思考の片隅で、三郎はとある事柄に気付いてしまい『どうしたものか』と考えてもいた。


(このやわらかな押し付けられてる二つの感触は、トゥームさんのアレですよね。普段、ゆったりとした服装してるから意識しないけれども、コレは大魔導師ラーネにも引けを取らぬ・・・って、俺は思春期か!)


 三郎は、声を出したらグレータなエルートの二人にバレるんだろうなとか、トゥームさんもう少し女の子としての意識をとか、色々と考えた結果『気付かなかったことにしよう、ソウシヨウ』との結論を出すのだった。


 三郎がくだらない考えに浸っていると、シャポーがいきいきとした声を上げる。


「魔法を通過しますよ、もう目の前なのです」


 見上げるようにシャポーが首を動かしたその時だった。


「うわっと、何だ、蜘蛛の巣?うへ、口にも入った」


 三郎が、顔や手を払う仕草をしながら窓から離れた。


「ぱぁぁ?ぱぱぱぱぁ」


 シャポーのフードの中で眠っていたほのかも飛び出し、三郎にしがみつくと、懸命に何かを払うような同じ行動をとった。


「サブロー!?どうしたの、大丈夫」


 突然のことに、トゥームが三郎の傍へとすぐさま寄ると、体に異常が無いか確認する。


 外傷の類は一切なく、蜘蛛の巣の糸すら見あたらない。


 シャポーは、驚いた表情で大きな目を見開き、三郎とほのかを交互に見ていた。


「サブロー、何があったのです」


 シトスが姿勢を低くして三郎へと近付き、声を小さくして状況を問う。


 ムリューは、三郎が顔を出していた窓の横へと移動すると外の様子をうかがった。そして、呆然としてるシャポーを窓からそっと離れさせた。


「いや、蜘蛛の巣みたいなのが、突然引っかかって来た感じが、って、あれ?・・・無くなっ・・・た」


「ぱぁぁ?」


 体中を手で確かめるように触りながら、三郎はほのかと顔を見合わせて首をかしげるのだった。


「はぁ~、サブローさまとほのかちゃんは、師匠の魔法を通過した部分だけでしたが解除してしまったのですよ。あんな緻密で高度な魔法を、いともたやすく破損させるなんて、さすがなのです」


 びっくりした表情のまま、シャポーが感嘆の声を上げた。


「えっ、ちょっ、それって魔力素を止めてるフィルタリング魔法だろ。破損とか、まずいんじゃないか」


 単に感動の声を上げているだけのシャポーに、三郎が焦って聞き返す。


「魔法陣は、地上から二階建ての高さ位にありますので問題ないのです。自動修復も術式に組み込まれてましたから、多分問題無いと思うのです」


 シャポーは、馬車の後方へと移動すると、フィルタリング魔法の状態を目視で確認した。


 シャポーの眼には、薄い膜を形成している魔法の光にぽっかりと空いてしまった人の大きさの穴が、徐々に修復されて行く様子が映っていた。


「どうかなさいましたか。馬車を一度とめたほうがいいですか」


「いや、大丈夫です。問題なさそうですから、そのまま進んでください」


 ミケッタが、車内の異変に気付いて声をかけてくる。三郎が問題ないことを伝えると、ミケッタから了解の言葉が返され馬車はそのまま進むのだった。


***


「サブロー理事、前方に簡易の門みたいな物と数名の兵士が見えました」


 馬車の中で、シャポーによるラーネの魔法の説明や、三郎とほのかに起こったことについての推察などが行われていると、御者のミケッタから声がかけられた。


 カムライエが、御者台の方へと顔を出して確認する。


「あの門の前で一度とめてください。私が話をしましょう」


 馬車が停車すると、カムライエは高教位ギレイルからの書簡を手に馬車を降りた。


 警戒のため、トゥームとシトスも車外へと出て、カムライエが戻るのを待つ。


 馬車前方、門のある方向からカムライエの声と数人の男の声が、馬車の中で待っている三郎のもとまで聞こえてきた。交わされている声は事務的ではあったが穏やかで、すんなりと門を通される雰囲気が伝わってくる。


 しばらくすると、一人の足音が馬車へと近付いてきた。ムリューが「カムライエね」と、小声で三郎に教えてくれる。


「サブロー理事様、天啓騎士団に所属するとの三名が、高教位ギレイル殿の配慮で、我々の旅の安全のため同道を申し出ているのですが、いかがいたしましょう」


 ふむと考えるように一呼吸置くと、三郎はムリューに小声で話しかけた。


「彼らの話し声って聞こえた?嘘偽りの響きとか問題なさそうかな」


「当然聴こえてた。彼らの声には、高い忠誠心と安全を保障するという決意の響きがあるわ。ね、シトス」


「ええ。少し気になるとすれば、その響きが強すぎると感じる所でしょうか。言うなれば『命に代えても』と聞き取れるほどです」


 馬車後方にいるシトスが、車内に背を向けたまま言葉を返す。


 三郎がトゥームに視線を向けると、それに気づいたトゥームが首を動かし頷いて見せた。


「では、お言葉に甘えることにしましょう。私もご挨拶せねばなりませんね」


 三郎は、カムライエに向けて言った言葉ではあったが、教会の理事という立場上、丁寧でゆくっりとした口調を心掛けた。


 なぜなら、目と鼻の先に正しき教えの、それも天啓騎士だという者がいるのだ。気を付けるに越したことは無い。


 三郎が馬車から降りると、トゥームやシトス、それにシャポーまでもが三郎を護るように付き従い、天啓騎士だという者のもとへと向かった。


 カムライエが先導し、天啓騎士達に三郎を引き合わせる。


「こちらは、教会評価理事をお勤めになられているサブロー様です。旅の同道のご挨拶をと申されましたので、お連れしました」


(カムライエさん、何その紹介。めっちゃ堅苦しいんですけど。この乗りでずっと行くの?もう少しフランクでも良くないかね。いや、まぁ、なめられても困るんだけども。それでも、ねぇ)


 カムライエのかしこまった口調に、三郎はいささか冷や汗が背筋を流れるのを感じながらも、手で教会シンボルを形作ると天啓騎士の三人に頭を下げた。


「教会評価理事を任されておりますサブローと申します。旅の安全をとのご配慮、有難くお受けさせていただきます」


 顔を上げた三郎を、天啓騎士の三人は彫像のように固まったまま食い入るように見ていた。


「・・・どうかなさいましたか?」


 あまりのの長さに、三郎は営業スマイルを張りつかせたまま、何か不味まずったかなと思いながら声をかけた。


 その声が合図だったかのように、三人の天啓騎士は片膝を着いて首を垂れる。そして、三人の代表と思しき騎士が声を張り上げて言った。


「失礼いたしました。直接のご挨拶を頂けるとは、栄誉の極み。命に代えましても護衛の任務を遂行いたします故、ご安心ください」


(うわぁ)


 天啓騎士達としては、諸国の王にも値する立場の人物を前にしているのだから、当たり前といえる態度ではあるのだ。


 だが、三郎は、これほどに古風な天啓騎士を有する『正しき教え』の高教位ギレイルとの対談に、頭の痛くなる思いがしてしまった。


(ああ、この雰囲気でキャスールまで行くと、精神的に参っちゃうかも。カムライエさんの『様』付けも、やめてもらおうとしてたのに・・・うあー)


 おっさんの嘆きは、キャスールまでの三日間続くこととなる。


次回投稿は5月24日(日曜日)の夜に予定しています。

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