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202/202

2. 屋上①




 体育祭の振替休日が明けた最初の日。真白がみんなに連絡してくれて、早速久々に《勇者》・《魔王》パーティのみんなでお昼ご飯を食べる運びとなった。残念ながら予定が合わず《吟遊詩人》は来れなかったけど、それ以外のメンツは次々と屋上に集まってきた。



「よかったな、平野」



 最後にやってきた《勇者》が相変わらずの爽やかな笑顔を向けながら開口一番に言う。その言葉の前に私のななめ後ろに視線をやったのはちょっと引っかかるけど、まぁ、今回はスルーしとくべきだろう。それよりも、《勇者》にも言わなきゃいけないことがある。


「うん……、君にも、たくさん迷惑かけて、それなのに助けてもらって、ありがとう」

「……なんかそんな素直に礼言われると、平野じゃないみたいだな」


 半笑いしちゃった《勇者》の反応はもっともだろうねぇ。自分でも、ちょっとらしくないと思ってるもん。まぁ、今回はそんくらい参ってたし、普段そんなに絡まないさっちゃんにまで、わざわざ連絡してくれてたんだから、ちゃんとお礼言いたい気分だったんだよ。


「鬼勢君も、よかったな。やっと小夜時雨君が学校に来てくれて」

「ああ。俺が毎日家に行って説得しても聞く耳持たなかったのにっていうのは、複雑なところだけどな」


 私と《勇者》が話しているのを見ながら、先に来ていた《女騎士》と《魔王》がそんな会話を交わす。私もさっき知ったんだけど、どうやら《魔王》は謹慎期間が終わっても、全く学校に来ようとしないさっちゃんの説得に勤しんでいたらしい。毎日家に行って、ドアの前に張り付いてたんだって。おかげで《魔王》自身も学校に来れてなかったそうだ。

 しかし、毎日家まで通って説得って、《暗殺者》→《魔王》なのは知ってたけど、逆もなのね。両思いで何よりだ。


「ようやく金魚の糞が独り立ちしたんだから、喜ぶべきじゃない?」

「てめぇは黙ってろ」


 《女騎士》と《魔王》の会話に嫌味たっぷりに茶々を入れたのは言わずもがな、《魔術師》だ。ものっすごいたのしそうに悪い笑顔を浮かべてる。そこにすかさずさっちゃんが睨みをきかせてツッコミを入れる。

 ……うん、なんか、ちょっと前まですごく当たり前だった光景なのに、なんかすごく懐かしく感じるや。あー、なんか体育倉庫の一件以来、すごく感情の起伏が激しいというか、すぐに胸がじぃんとなって、目頭が熱くなっちゃう。

 日常的なものほどその大切さに気付けないものだ、なんてよくある文句だけど、これって本当の本当に本当んだよね。失いかけてみないと気付けないなんて、人間はなんて愚かな生き物なんだろうね。



「平野」

「ん?」



 哲学モードに突入して物思いに耽っていたら、《魔王》が声をかけてきた。なんか、申し訳なさそうな顔をしてこっちを見下ろしているのは、多分気のせいじゃないんだろうな。


「悪かったな。何もしてやれなくて」

「何で君が謝るの。君は引きこもった幼馴染を説得するの頑張ってたんでしょ?」

「それはそうだが……俺が辛い時、お前は励ましてくれただろ?なのに、俺は……」


 《魔王》の子犬モード発動。あーあー、そんなしょげた顔して。《魔王》が悪いと思うことなんてこれっぽっちもないのに。この人もこんなナリして、さっちゃんのこと放っておけなかったり、私に謝ってきたり、本当にお人好しなんだよね。


「いいよ、そんなの。それに君がいなかったら、きっと幼馴染君は今頃失踪してたと思うし」

「……」


 ヘラヘラ笑いながら言ったら、なぜか後ろの方から鋭い視線を感じた。《魔王》もそれに気がついたのか、不思議そうな顔をしながら、その視線の持ち主に問いかける。


「ん?どうした?隼人」

「……なんでもない」


 うっ……、すごく不機嫌そうな声。も、もしかして……バレてる?私が、誰かさんの名前が出てこないように、意図的に言葉を選んでるって、バレてる……!?

 いや、バレない方がおかしいんだけどさ。でもさー、できればみんなの前ではねぇ。けどなー、どっちにしろ逃げ道塞がれてるしなー。あーーー、あれ言わなきゃいけないのか……。考えただけで、顔から火が噴き出してきそうだわ。



「でも、本当に嬉しい。またみんなでこうして集まれて」



 私が悶々としていると、真白がひときわ嬉しそうに笑った。さっちゃんが謹慎を受けてたし、私は真白を避けてたし、《魔王》はさっちゃん説得で忙しかったし、《魔術師》も相変わらず色々調べまわってて忙しくて、こうして集まるのはなんだかんだで久々だ。だから、真白はすごく嬉しいんだろう。真白があんな風に笑うと、私も心底幸せな気持ちになるから不思議だ。



「今回はどうしても和澄先生がこれないということだったからな。次は全員集合できるといいな」

「うん。いっその事、毎日みんなで一緒にご飯食べてもいいよね」

「まぁ、悪くないんじゃない?」

「昇も、今回はちゃんと顔出せよ」

「あぁ……そうだな」



 あ、あれ?真白の笑顔に見とれてほんわかした気持ちになっていた間に、何か話が思わぬ方向へと流れていってるような……。そこからそういう話の流れになっちゃうのね?

 え、これって、あのセリフを言う絶好の場面じゃないですか?あー、誰かさんも”さっさと言え”って、思いっきり目配せしてきてるし。

 覚悟はして、たからね。してたんだけどね。でも、いざとなったらほらさ……。って、あーーー!わかったわかった!わかったから、その恐ろしいニッコリ笑顔でこっちに一歩ずつ近づいてこないで!



「あ、あの……!」


「「「「「ん?」」」」」



 突然話を遮るように声を出した私に、みんなちょっと驚いた顔をしてこっちを見る。そ、そんな見ないでほしんだけど……!このメンツから一斉に視線浴びるって、全校生徒の前に立つよりも威圧感というか、場違い感が半端なくていますぐ逃げ出したい気持ちになる……。

 って、私に逃げ道は残されてないんだった。ここは視線を下にずらして、なるべくみんなに見られてることを意識しないようにしながら話すしかない!


「も、盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっと毎日は無理、かも」

「なんだよ、平野ー、ノリ悪りぃなぁ」

「何か用事でもあるのかい?」


 つまらなそうに《勇者》が言って、不思議そうに《女騎士》が首をかしげる。


「えぇぇぇっと…………ゴニョゴニョゴニョ」

「ちょっと、僕がわざわざ耳を傾けてあげてるんだから、ちゃんと人間の言語を話なよ」


 《魔術師》からの的確なツッコミが飛んでくる。覚悟して話し出したつもりだったのに、いざとなったらゴニョゴニョ語になってしまったんだよ。

 ああ、みんな更に不信な目でこっちを見つめてくるし。これは時間をかけるほど羞恥心が増していくやつだ……。うーーーーーーーーー、すっごい嫌だけど、恥ずかしいけど、こうなったらもうヤケだ!!!


「っ、だーかーらぁーーーーー!」



「これから週2で隼人と2人でお昼ご飯食べることにしたから、毎日は無理だって言ったんだよ!!!」



「「「「「……」」」」」」


 はぁ、はぁ……。い、言ってやったぜ……。時には勢いって大事だよね。真白の家の時と同じく、意味なく気合入れすぎて息切れしちゃってるけど、まぁ、ちゃんと言えたんだから大丈夫だよね。今回こそはさっちゃんもご満悦のはず……。

 って、あれ?何でみんなすっごい驚いた顔してこっち見つめてるんだ?そして、気のせいでなければ、真白の目がまたキラキラ輝いてるし、《女騎士》の目も同じ感じだし、何か《魔王》とか泣き出しそうなんですけど、何で???



「小夜時雨君!!!」



 うぇっ!び、びっくりしたー。《女騎士》が突然声をあげて、さっちゃんに駆け寄る。そして、その肩を強く叩きながら嬉しそうに笑った。


「隼人……よかったな」


 《魔王》も目をウルウルさせたまま、さっちゃんに近づく。何か、孫の結婚を喜ぶ祖父のような顔になってるけど。


「ここまで、長かったな……」


 《勇者》、長い長い冒険が終わったかのような雰囲気を醸し出すな。


「本当に、よかったね……!」


 また目をキラキラ輝かせながら笑ってる真白。かわいい。


「《魔王》の次は変脳の金魚の糞なんて、本当いい趣味してるよね」


 残念ながら、今回ばかりは《魔術師》のその言葉に同意します。



 ってーーーーーーー、ちょっと待って。みんなものすごく感慨深く頷いてるんだけど、ただ名前呼びになっただけだし、ただ2人でお昼食べるようにしただけだからね!!!

 って、すごく突っ込みたいけど、真白がものすごく優しい顔して涙ぐんでるから、つっこめないよ~~~!!




 名前呼びを可愛いお願いだなんて一瞬でも思った私が浅はかでした。



 名前呼びって、すごいなぁ。



 心の中では、断固さっちゃん呼びを貫くけどね!!




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― 新着の感想 ―
[一言] すごく、面白いです。202話一気読みしました。真白ちゃんがまさかの冥王様にひっかかてショックでした。主人公がフツーなところが好きです。隼人がかっこよすぎて辛いです。作家を急かしてはいけないと…
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