とある名家のお嬢さんの言うことにゃ…
さて、今回の語り部は……
長い黒髪ストレートで憂いを帯びた黒い瞳、
暗い部屋でも淡く光る白いハイネックのサテン生地のドレスを着こなし、
胸元のひだ飾りが彼女の上品さと儚げな雰囲気
を引き立てている、
まだ年若い女性であった。
はてさて、彼女は何を語るだろうか?
『さて、次は私ですわね。』
と、告げた彼女は居住まいを正して、
まるで牡丹のようにストン、と 座り直した。
『私はとある名家の長女でございました。おおらかな父、優しい母。頭が足りない〖と、言われてる〗妹。しがらみは多い家でございましたが、幸せでございました。あの日、父が死ぬまでは…』
潤んだその瞳に増悪を宿し、彼女は続ける。
まるで目の前に憎くて憎くてたまらない誰かが居るかの様に。
『犯人は母に懸想してた叔父でございました。
しかし証拠がなく釈放。
刑事さん達に悔しそうに謝罪されたあの日を私は忘れません…』
滲み出た涙をレースで縁取られたハンカチで拭い、
彼女は気丈に話を続ける。
『悔しさや悲しみに暮れる時間などはありません。』
覚悟を決めた声色で彼女は言う。
それは、蝶よ花よと育てられた女性が出すにはあまりにも静かに、そして決意がこもった声だった。
『あの男は……あの男は!!
四十九日が過ぎたら母を貰い受けると!
そしてそれだけでは飽き足らず私にも……
じょ、情婦になれと……!!
妹は顔だけはいいから売ると!!』
興奮したのか彼女の白い肌は赤く染まり、その表情はまるで鬼女のようになった。
はっと我に返った彼女はひとつ軽い咳払いをし、
冷静さを取り戻した後に話を続けた。
『これではいけないと母と相談し、
妹だけでも魔の手から逃がそうということになりました。
ええ、ええ。
古来より女は愛する者の為に鬼にも仏にもなれると言いますでしょう?
私たちは鬼になることを選んだのでございます。』
強い眼差しで皆を見回し、彼女は続ける。
『まず、親戚皆の素行調査をしました。
ですが絶望的な事に、親族皆が真っ当な人間ではなかったのです。
どうりで先代当主のおじい様が次男の父に後を継がせたのだと納得してしまいましたわ…
また、私も教育を受けていたとはいえ、未成年。
誰かの保護下にいるしかないのです。
なので母と計画を練り直したのです。』
怒りで震える体を自分の両手でそっと抱きしめ、
落ち着いてから彼女は続ける。
『当初の予定では叔父のみを殺すつもりでした。
ですがそうしても他の者達によって妹が危険です。
なので……』
いつの間にか俯いてた顔を上げた彼女は、晴れやかな笑顔で、軽やかに言う。
『四十九日が終わるまで全員殺すことに致しましたの!
だって皆が集まる機会なんてその期間しかございませんもの!』
興奮を抑えきれずに座っていた椅子から立ち上がりながら、両手を上に掲げて彼女は高らかに言った。
『それからは大変でしたわ……
妹を預けるほど信頼出来る探偵役の人達を探し、
脅迫文で呼び出し、母と協力しながら一人、また一人と葬ったのです。
互いのアリバイを作り、複雑怪奇なトリックを考え実行し……
そして四十九日が終わるまでに〖ほぼ〗全員殺すことに成功したのです。残るは〖2人〗。』
喜色満面と言うのだろうか、それまでと打って変わって明るい表情になった彼女。
トリックやらを考えるのが愉しかったのだろう、嬉々として語っていた。
『そして最終日。私は母の部屋にまいりました。
最後の〖2人〗を殺すためにございます。
最後に妹の顔を見たかったのですが…
決心が鈍るのでやめました。』
興奮が覚めたのだろうか、少し恥ずかしそうに頬を染めながら、
また、椅子へ座った。
そして少し寂しげに、そして悲しげに語り続ける。
『ベッドに眠る母。
そっ…と予備の枕を手に持ち…彼女の顔に押付けました。
まだその感覚がこの手に残ります。』
震える両手をじ…っと見つめながら話す彼女。
後悔してるのだろうか…その表情からは何も伺えない。
『息苦しさでか…私を待っていたのか…
目を開けた母は私の頬に手を当て撫でた後…』
話を中断し、少し間を置いてから宙を見つめながら続ける。
『私の首を締め始めたのです。
そうして、最後の2人である私たちが死んで、〖遺産に目が眩んだ母娘が大量殺人の後、互いを殺した。〗というシナリオを持ってして、私たちの計画は終わります。
あとは探偵役の人達が妹を良しなにしてくださいますでしょう。』
そう、幸せそうに彼女は締めくくった。
『死後、母は直ぐに父の元に行きましたが私は少々留まっていたのです。
妹と最後の別れをするために。
私たちの死後、探偵役の人達は私達の計画通りに動き、
妹は屋敷やその他もろもろを売り払い、身一つになりました。
きっとこれからあの子は自由に生きることが出来ますでしょう。』
満足気に、やり切ったとでも言うように彼女は語る。
『そう、彼女自身として。〖頭の足りない妹〗としてではなく、普通の、ただの女の子として。』
そう締めくくり、彼女は自身のロウソクを消し、
扉の方へと向かった。
部屋を出る前にくるりと振り返り、美しいカーテシーを魅せた後、満ち足りた表情で扉を開いた。
そして、まるで踊るかのように軽やかに外に出た。
さて、彼女は知っていたのだろうか?
彼女と母親が互いに殺しあっていた時、妹がドアの外から見ていたことを。
そしてそれはそれは美しい笑みを浮かべていたことを……
そして探偵役の人達が数ヶ月後不審死したことを。
全ては彼女達の心からの行動だったのだろうか?
いや、きっと妹を案ずる心は本物だったのだろう。
だが、妹は?
彼女は本当に〖頭の足りない妹〗だったのだろうか?
今や真実は闇の中。
そう、この森のように。
さて、今日の語りはここまで。
また、次の語り部が話し始めるその時までに、
しばし、お別れしようではないか!
どうでしたか?
少しでもゾクってしてくれたら嬉しいです!
活動報告でも書きましたが、タイトルは百物語をもじってつけました!
それでは、感想お待ちしております!(ぺこり)




