沈黙の山に、照明を灯すー[3]
作戦会議。宿の一室。
「《黙劇》の拠点はヴォルフスベルク山頂の廃修道院。能力は存在の完全消去。弱点は強い光源。——以上が前提だ」
壁に貼った山の地図を指しながら、俺は計画を説明した。
「普通に攻め込めば、暗闘になる。闇の中で、見えない相手と戦う。——これは最悪の展開だ。こちらが圧倒的に不利になる」
「でしたら、明るくすればいいのでは?」
リゼットが言った。
「廃修道院の中を照らす。松明でも魔石灯でも何でも使って、逃げ場のないほど明るくする。そうすれば《無言の帳》の効果が薄れて——」
「リゼット。それは相手も分かっている。光に弱い自覚があるなら、光源を潰しに来る。松明は消される。魔石灯は壊される。——持ち込んだ光源を維持する方法がなければ、無意味だ」
「うっ……確かに」
「だから」
俺はフィーネに視線を向けた。
「フィーネ。お前のスキル《陽だまりの残像》。あれは——光るか」
「え? 光る……ですか?」
「お前の残像。あれは〝陽だまり〟の名の通り、暖かい光を帯びているだろう。あの光は——消せるか? 《黙劇》に」
フィーネが目を丸くした。
「あ……そうか。わたしの残像は、わたしのスキルが作り出した〝光〟です。外部の光源じゃないから——相手が松明を消すみたいには、消せない……!」
「その通りだ。《無言の帳》は外部の〝認識〟を操作するスキルだ。だがお前の残像は、お前自身のスキルが生み出した光。他者のスキルで消去するのは——少なくとも、簡単ではないはずだ」
「お師匠様! つまり、わたしが残像をいっぱい出せば——廃修道院の中を、わたしの光で照らせる!」
「ああ。お前が今回の〝照明〟だ。——文字通りの」
フィーネが拳を握りしめた。
「……やります! 絶対やります! お師匠様の照明係、ここで本物になります!」
……この子は良い弟子だ。涙が出そうだ。出ないけど。芸術家は人前で泣かない。
「計画はこうだ」
俺は地図に線を引いた。
「まず、セレスティーヌが〝移動する無音空間〟を追跡し、《黙劇》が廃修道院に戻るタイミングを特定する。——セレスティーヌ、できるか」
「できます。あの〝沈黙の穴〟は、一度掴めば追えます!」
「次に。俺とフィーネが廃修道院に先に潜入し、内部にフィーネの残像を事前配置する。いわば……照明の仕込みだ」
「おおー! 舞台の照明セットですね!」
「そうだ。《黙劇》が帰還した時、一斉に残像を点灯させる。廃修道院の内部が突然フィーネの光で満たされれば——」
「《無言の帳》の効果が弱まって、姿が見える!」
「その瞬間を、ニーカが仕留める」
ニーカが頷いた。
「承知しました。姿さえ見えれば——わたしが」
「ニーカ。お前の《無音行進》と《無言の帳》は同系統のスキルだ。同系統だからこそ——お前が最も効果的にこいつと戦える」
「……はい。わたしも、そう思っています」
「リゼットは、長老への工作を頼む。《黙劇》が排除された後、村の住民が安全であることを保証する体制を整えてくれ。——衣装は」
「山岳修道会の修道女、ですね。この地域の人々は修道会への信仰が厚い。修道女の姿なら、長老も心を開きやすいでしょう」
「完璧だ」
「……褒められると、まだ慣れませんね」
リゼットが苦笑いした。初期に比べて、ずいぶん柔らかくなったもんだ。劇団に馴染んだ証拠だろう。
は? とか、なに? とか……俺にも、けっこう突っ込んでくるし。別に嫌じゃないけど。
「実行は——三日後の深夜。新月の夜だ」
「新月……闇が最も深い夜、ですね。《黙劇》が最も油断する夜でもある」
「ああ。闇の王者が最も安心している瞬間に——舞台の照明を点ける」
俺は手帳にタイトルを書いた。
『第六作——「沈黙破り」。ジャンル:……何だろう。黙劇の反対は何だ。騒劇? そんなジャンルはない。とにかく、光と闇の対決だ。照明の全てを賭ける一作』
「お師匠様、ニヤニヤしてますよ」
「……構想中は笑みが溢れるものだ。芸術家として健全な反応だ」
「はいはい」
フィーネの「はいはい」が最近ちょっと雑になってきている。弟子の態度が緩んでいるのか、距離が縮まったのか。……後者だと思いたい。




