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第七節.張り込み

       ――18:30張り込み開始――

   霞坂市 東区 霞坂第二高校 通学路 担当.御門玲奈


 潮の匂いが、微かに風に乗って流れてくる。

 霞坂市東区の海辺に存在する、霞坂第二高校。東区の商業施設、駅からは少し離れている。それに加え、失踪事件も相まって人通りはそこまで多くない。


「やっぱり、人通りはそこまで多くないか。」


 東区にある高校は二つ。霞坂市を上空から見た時に東区は中心に駅、大型商業施設、歓楽街等が集中しておりそれらを挟むように高校が設置されている。

 東区の中央に一番近いのが、霞坂第一高校。赤城くんの担当だ。中央からは少し離れているが、海に近く霞坂市内で一番人気の霞坂第二高校が私の担当。

 そして、東区と西区の境にある坂に設置されている、楓が通っている高校。霞坂第三高校は楓と葵ちゃんの担当だ。


 通信は魔術ではなく、トランシーバを用いている。相手は魔術師。魔術による通信だと解析されてしまう可能性がある。そのため、今回に張り込み捜査では、トランシーバを使用している。


 通学路を進んで行く。怪しい人影はいないが、異変は音もなく現れる。淡く発光する体躯。

 闇の中で、それは静かにこちらを見ていた。


「いいね、そうこなくっちゃ。」


 思わず笑みを浮かべる。

 まずは一体目。薄暗い通学路、二つの光が交わる。



   霞坂市 東区 霞坂第一高校通学路 担当.赤城晃一


 やはりこの時間は人通りが多いな。

 駅や商業施設、学校が集中し、通学路とはいえ様々な人が行き交っている。執行官は、時に人が密集した際に戦闘する可能性も秘めている。

 そうなれば、魔術の秘匿は守られない。それを考慮し自身やその他の執行官と任務の対象を一般人や、外界を一般人の認識から隔離する結界、通称亜界を使用する。


 亜界内であれば、建物を破壊しようとそれが現実世界に反映されることはない。ただし、亜界内にいる魔術師は別だ。怪我や、死等は結界を解いた後もその状態は変わらない。


 行き交う人に、特筆すべき特徴は無い。挙動不審な人物も、魔力を感じる人物もいない。ただ、視界の両端で影が三つ動く。


「……いるな。亜界、展開。」


 自身を中心に半径500m、亜界を展開する。結界の対象は自身と視界の端で捉えた霊獣三体。やはり、人が密集するほど、多くなるな。


 世界の色は褪せ、喧騒は消える。無機質な街には四つの影。黒いコートに身を包む三白眼。そして、褪せた世界で色を放つ、三体の霊獣。

 この世界唯一の獲物を喰らうため、霊獣は駆け出した。


「……殺す。」


 魔力強化は淀みなく。カグヤから剣を引き出す。

 流れるように一体、顎から胴を一閃。対象を袈裟斬りにする。緑色の体液を撒き散らしながら、灰になっていく。


「まずは、一体目。」


 術式は使わない。この程度であれば、魔力強化のみで十分だ。残り二体、剣に絡みつく体液を払い剣を構える。駆け出す獣よりも速く、跳躍し上から胴体ごと霊獣の核――心臓を貫く。

 格の違いを認めたのか、最後の一体は背を向け逃げ出す。しかし、遅い。投擲された剣は獣の胴体と地面を繋ぎ止めた。

 再びカグヤからもう一本剣を取り出し、獣の首を跳ね飛ばす。全ての亡骸が消えるのを待ち、亜界を解く。

 褪せた世界に色と喧騒が回帰する。何事も無かったかのように、人々の流れが続いている。


 一般人に被害はない。


   ―――19:00 張り込み開始から一時間経過―――

  霞坂市 西区 霞坂第三高校通学路 担当.東雲楓 三輪 葵


「東雲くん、全然出ないねー。霊獣も、それっぽい人も。」


「そうですね。一体くらい出てくると思っていたのでちょっと拍子抜けです。」


 周囲に気配はない。街灯に照らされた通学路。人通りもまばらで、風の音だけがやけに響く。


「まあでも、平和なのはいいことだよねー。あ、あと東雲くんって魔術師じゃないっしょ。」


「え、なんで……」


「うーん、勘かな。私、結構勘が鋭いんだよね。でも、なんでわざわざこんな危険なことに関わるの?元々一般人なら、分からないことだらけで怖いでしょ。」


「確かに、怖いですよ。でも、見逃せないんです。俺は、一回霊獣に襲われてる人と遭遇しました。それでも、体が動かなかったんです。助けなきゃいけないってわかっていたのに……」


 三輪さんは静かに俺の話を聞いている。


「もう、目の前で誰かが死ぬのは嫌なんです。……いやいや、それ以上にもう助けられないのは、動けない自分が嫌なんですよ。」


 一瞬の沈黙が流れ、三輪さんは俺をじっと見つめていた。引き込まれるような綺麗な瞳だ。


「……そっか、結構ちゃんとした理由なんだね。じゃあ、次は助けられるように頑張ろっか」


「……はい。ところで三輪さんは何で執行官になったんですか。」


「え、私!?私かあ……」



―十年前―


 私の家は、魔術師の家系としてはもう没落していたことに加えかなりの貧困家族だった。連盟に所属してはいたけど、血脈至上主義の魔術師達からは蔑みの目を向けられ、同族からは哀れみを向けられる。


 そんな中、十二歳の私に術式が宿っている事が判明する。今の時代、術式が宿っている子供は珍しい。だから私はオークションに出された。珍しいとはいえど、術式を持っている子供は探せばいる。大した値段は付かない、そんな事は両親も理解はしていた。


 それなのに、何故私をオークションに出したか。答えは単純だ。一瞬でも暮らしが楽になるから、と。そんな中突如オークション会場の扉が蹴破られる。

 重い鋼鉄の扉が爆音とともに内側へ飛来した。


『公安だ。国際魔術法に基づき、現時刻を以って貴様らを取り締まる。是非は無い。逆らえば殺す。』


 有無を言わせない淡々とした口調。スラッとした長身に黒いスーツを纏う男性。右手には長剣。左手には戦闘許可証――魔術師の殺害すら正当化する、公安の権限証明を携えている。


 周囲では、次々と魔術師達が制圧されていく。 その喧騒の中、一人だけ、違う空気を纏った男がいた。

 その時の執行官の名前は今でも覚えている。城崎玄、公安最上位階級、特務執行官の男だ。あの時彼に助けられ、同時に憧れた。


『もう大丈夫だぞ、そこの女の子。ここからは我々が何とかするからな。もう、心配しなくて大丈夫だ。絶対に守ってやるからな!』


 低く、よく通る声。両親よりも、人生で出会ってきたどんな人物よりも大きく、そして頼もしい背中。そんな人物に、私もなりたいと。私も、誰かを助けられるような強い人間になりたいと心の底から願った。


 気付けば競りに掛けられていた者達は保護され一部の魔術師は拘束。あるいはその場で殺害された。公安が制圧を完了する頃には、両親は死んでいた。



「まあ、そんなところかな。結構正反対だね私達。」


 三輪さんはそういい、さっきまでの明るい笑顔を向ける。その笑みはどこか力強く感じた。


「ですね、でも魔術師のオークションがあるだなんて驚きです。」


「まあ、魔術は裏社会では有名だし。結構そういうの多いよ。それを取り締まるための公安でもあるしね。」


「……そう、なんですね。」


 知らなかった世界の話なのに、不思議と遠い話には聞こえなかった。少し前までの自分なら、きっと実感なんて湧かなかったはずなのに。


「ま、東雲くんもそのうち慣れるよ。嫌でもね。」


 三輪さんは軽く笑うがその笑みは、すぐに陰り始める。


「東雲くん、まって……いる。」


 声のトーンが変わる。さっきまでの柔らかさが嘘みたいに、鋭い。


「どこに……というか何も感じませんけど。」


 感覚を尖らせ、周囲を警戒する。これといった違和感は何も見つからない。しかし、三輪さんは依然として守りの姿勢を構えている。


「……!?東雲くん、上!!」


 その声が響いた瞬間、三輪さんの姿が消えた。咄嗟に見上げる。街灯の光を裂くように、上空から落ちてくる影。牙を剥き出しにした霊獣――

 その軌道に、割り込む細い光。

 甲高い金属音。三輪さんの細剣が霊獣の顎を弾き上げ、そのまま勢いを殺す。


「三輪さん!」


「私は大丈夫。それより――」


 三輪さんは空中で体勢を整え、そのまま軽やかに着地する。だが、その視線は俺には向いていなかった。


「東雲くん、後ろ。」


「え――」


 振り向くよりも早く、背後で何かが空気を裂いた。カグヤから短剣を引きずり出し、防御の構えをする。


「……ぐっ!」


 受けた瞬間、腕が痺れる。骨ごと砕かれたかと思うほどの衝撃が、短剣越しに叩き込まれた。

 足が地面を滑り、強引に数歩後退させられる。


「東雲くん、背中は任せたよ。……亜界。」


 三輪さんを中心として辺り一辺を包むように影が降りてくる。世界の光は鈍く沈み、色がゆっくりと抜けていく。

 取り残された世界に残るのは二つの影と二つの獣。


「東雲くん、この中だったら家とかいくら壊しても大丈夫だから。」


「……え、わかりました。」


 仕組みは後で聞けばいい。今は現状を受け入れ戦うしかない。魔力強化は完璧。もう迷わない。

 獣はこちらの様子を伺うように見つめている。


――来る。


 動き出すのは互いに同時。地面を蹴る感覚が、普段とはまるで違う。魔力強化の影響により身体機能は通常時よりも向上していた。間合いを一気に詰める。振りかぶることなく、そのまま顳かみへ短剣を突き立てた。

 しかし、霊獣は身を翻し短剣の間合いから外れる。次の瞬間、衝撃が脇腹に叩き込まれた。呼吸が潰れる。


「っ……!!」


 やはり、術式を使わないと一筋縄ではいかない。霊獣は先程と同様に、俺の隙を狙っている。

 勝負は一瞬。霊獣が動く瞬間、牙が俺に到達するよりも早く術式、変速の減速を展開する。勝機を見出し薄らと笑みを浮かべる。

 額の汗を拭い、ナイフを構える。


 交錯する眼光。

 滞留する殺気。

 テンポの異なる呼吸音。


3…………2………1……


「今!術式、展開!」


 目を見開き唱える。体を満たす熱は術印を経て空間へと侵食する。霊獣が、侵食する魔力を感知した時には既に――俺の間合いだ。


 術式を解く。霊獣の、停滞していた速度が戻っていく。だが、それよりも速く。右肩を起点に、全身の力を一点へと叩き込む。宙へと漂う霊獣の心臓部へ短剣を滑り込ませた。

 霊獣が元の速度を取り戻すころには、その肉体は灰になって消えていった。


 息をつく暇もなく、三輪さんの元へと駆け出す。視界に移るのは拮抗した攻防。細剣と牙が火花を散らすように何度もぶつかり合う。

 その均衡を壊す、一つの異分子。

 霊獣が認識するよりも早く三輪さんと霊獣の間へ、術式を展開する。


「ないす、東雲くん!」


 霊獣が三輪さんよりも一拍早く結界に触れる。その一瞬の隙。小さな針穴に通すように細剣が霊獣を貫いた。


「三輪さんも、ナイスです!」


「いやいや、東雲くんがいなかったらこのまま決め手に欠けて持久戦だったから。ありがとね!」


 三輪さんはそう言って、ぱっと笑う。

 その笑顔は、さっきまでよりもずっと明るかった。

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― 新着の感想 ―
一気に読み進めてしまいました! 臨場感も半端ないし、事件が気になりすぎる……そして、■■という伏せられた人物の存在……どれも気になる事ばかりで続きがめっちゃ読みたい! ブクマも☆も入れさせて頂きました…
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