第十二節.鉄拳制裁
久遠織との初面会から約一週間が経過した。
あの後、二度面会に赴き聞き出した情報はどれも衝撃的なものだ。
一つ、組織の王は十八歳。
二つ、拠点は一つではなく、日本全国に及び六つ存在する。
それだけではない、幹部級のメンバーは基本的に第一階梯である。それ以外にも聞きだした情報は山ほどあった。
依然として、俺ははその資料の整理と事実の照合、久遠織が所属していた組織の調査に追われている。
『赤城さん、前久遠から聞き出した場所に魔術師がいた痕跡がありました。あいつだけじゃない、恐らく幹部級の実力の痕跡が多数あります。今は三輪上等と有馬と周辺の状態から、正確な人数を把握している途中です。また、何か分かったら連絡します。』
電話越しに聞こえる赤城班、新メンバーの古宮高等執行官の声。一時間前に入っていた留守番電話からは、簡潔に現状とこれからの行動について説明されている。
深いため息をつき、赤城はゆっくりと携帯を自身のデスクの上に置いた。
「部下にばかり無理をさせて、これじゃあ班長として情けないな……」
班員は赤城を含めて六名、内三名は三輪を中心に久遠の情報から得た場所の捜査。そして、残りの二名は多班と協力し捜査をしてもらっている。
昼の十二時、赤城はコンビニで買ってきたゼリー飲料で済ませ眠りについた。
◇一週間前
「魔人歴を、取り戻すだと……」
「あぁ、そうだ。まあ、厳密にはちょっと違うけどね」
無機質な蛍光灯が、チカチカと点滅している独房。赤城晃一と、魔術強化ガラス越しに不気味な笑みを浮かべる久遠織の会話だけが響いていた。
「厳密には違う、どういう意味だ。はっきりしろ」
「そうだね。既存の魔術社会を破壊し、たった一人の王の下新たな世界秩序を作るんだ」
「そんなこと、可能なのか」
久遠織は何も言わない。ただただ、笑みを浮かべているだけである。
はっきりしない態度の久遠織に、苛立ちを見せる赤城。独房の空気はまさに一触即発、強化ガラスがなければ今にでも戦闘が始まっていただろう。
一触即発の空気を変えたのは、事前に設定されたタイマーの音だった。気づけば、面会から三十分が経過しており赤城の退出時間になっていた
「それじゃあ、一旦今日はここまでだ。近いうちにまた来る」
「うん、それじゃあね」
久遠織を背景に、鋼鉄の二重扉のその一枚目が閉じる刹那——
「そうだそうだ、忘れてた。敵は何も外だけとは限らないからね」
◇
白黎修練院に入ってから一週間が経過した。まだぎこちないものの、クラスはまとまりつつありグループもでき始めている。不安だった新生活も、蓋を開けてみると魔術を学ぶということを除いたら普通の高校生活のように感じた。
魔術については、まだまだ発展途上だということも感じる毎日だ。何せ、人生の大半を魔術と共に過ごしてきた人たちと肩を並べようとしているのだから。
しかし、体術訓練ではミッシェル先生曰く今年のAクラスの中でも上位に入るという。それも、中高時代のトレーニングの賜物だろう。
そんな感じで、今日もいつもの日常が始まる。
◇一限目.座学
「魔術師、主に魔導連盟に所属している者は公安でいうところの執行官階級と同じような階級がある。第五階梯から第一階梯、そして冠位階梯だ。そして、この階級は魔術師は強さだけじゃなく、家柄や新たな術式の開発など魔術の発展に関与するなどして上がっていく」
また新しい用語だ。この一週間で新しく覚えた単語は数え切れない。正直、俺が修練院で落とされるならそれは座学か魔術演習のどちらかだ。いや、両方かもしれない。
ふと、隣の席を見ると突っ伏して寝ている慎也が目に入った。全て理解しているためか、はたまた理解できずに諦めたのか、起きる気配も無く熟睡している。
「そしてこの冠位階梯だが……結城、答えられるか?」
「えっ!?」
自分に当てられなくて安心したと同時に、次は俺に当たるかもしれないという緊張感で思わず身震いしてしまう。
「え、えっと……確か神様を倒せる、でしたっけ」
「あぁ、そうだ。この冠位階梯に家柄は全く関係無い。神が存在すると仮定して、その神を殺せるかが評価基準だ。任務で、コイツらと遭遇したら基本的に死亡するものと考えろ。公安内でも、冠位と相対した時に勝利できる者は片手で数えられるくらいだろうな…..」
冠位階梯、神を殺せる、本当にめちゃくちゃだ。
「そしたら、今日はここまでだ。各自、次の魔術演習の準備をしろ」
そう言い、芹沢教官は教室を出る。
程なくして、一限の授業が終わる鐘が鳴った。
体を揺さぶっても睡眠を続けようとする慎也に呆れながらも、準備を続けた。
◇二限.魔術演習
「はい、魔術演習の授業を始めるわよっ!」
明朗快活、その四字熟語を体現したような教官——朝利教官が演習場の扉を蹴り破るが如く入ってきた。アサリ先生の授業スタイルは、実践メインだ。理屈よりも、まずは身体で覚えそれを繰り返し再現性を高めていく。
「それじゃあ、二人一組でやってくよ!今日も魔力強化を維持しながら術式の発動ね!」
俺は慎也と、結城さんは別の女子生徒とやっている。
「楓、あまり無理するなよ。お前は、まだ歴が浅いんだから」
「いやいや、そんなこと言ってられないよ。俺も、早く慎也たちに並べるようにならないと」
慎也は、ふっと微笑み一言。
「それじゃあ、ちゃんとついてこいよ」
「オーケー、任せろ!」
とは言ったものの、やはり慎也との差は激しくついていくどころか俺が助けられるばかりだった。
◇三限.体術訓練
いつもの三人で、昼食を終え三限が始まった。
「ミッシェル先生、こんにちは」
「いらっしゃい、カエデくん♡」
ミッシェル先生、完全に染み付いてきている。かと言って、安藤教官と呼ぶとあり得ないくらい不機嫌になるためそう呼ばざるを得ない。
「とりあえず、一ヶ月は短剣メインでやっていくわよっ♪投擲ナイフは、二ヶ月目からねっ♪」
「わかりましたっ!」
二限の魔術演習を経て、身体の熱は十分だ。
右手に握られているハヤテの重さを噛み締め、術式を発動する。
もっと速く、あの時の俺を超えて前へ——
「っんふ♡いいわね、その眼。興奮しちゃうワ♡」
◇interlude.滾る情熱の鉄拳
羽崎慎也。選択教科は、魔銃。しかし、その戦闘スタイルは術式《焔凝発》と八極拳を交えた徒手空拳の前衛。
それなのに、彼がこの科目を選択した理由。それは——
「それじゃあ今週の授業の締めだ。テストやっていくぞ。一番目はお前らだ、羽崎と湊」
魔銃選択者六名。その内、教官が選出した二名の生徒。
「それじゃあ、はじめっ!」
「羽崎くんだっけ、キミ近接戦闘向きなんでしょう?それが、魔銃を選択ってすごいね。アタシならそんなことできないよ、二兎追う者はってことわざ知らないかな〜?」
湊——湊雪菜の嘲笑は止まらない。
「それに、羽崎ってあれでしょ?魔術界ではそこそこ有名な家系だったのに、今じゃ…ぷっ……ぷふふっ」
ぱん、と一発。
湊の右頬を確かに、放たれた弾丸が掠めた。
「おしゃべりに夢中で、俺の不意打ち気づかない。これじゃあ命が何個あっても足りねえな、湊家末代の死因は『おしゃべりに夢中なところを脳天ぶち抜かれる』魔術名門家系の最後にしちゃあギャグみてえだな」
露骨になる、湊の苛立ち。それに対し、薄ら笑いを浮かべる慎也。
二人の間の空気は最悪、死者が出てもおかしくない空気だった。
「チッ、うざ。大体さあ、そんな偶然当たっただけで一喜一憂して嬉しいの?……そいっ」
ぱん、ぱん、と二発の銃声が鳴り響く。
「これでも偶然か?」
一つは、湊の銃口から。そして、もう一つは慎也の銃口から放たれた弾丸だった。湊が引き金を引いてからコンマの一秒もズレがなく、ほぼ同時。
その事実は、湊の油断を崩すには十分すぎるものだった。
「あーもう、うっぜえな!没落家系のくせにしゃしゃり出てくんな、脳髄撒き散らして死ねや!」
魔力で生成された弾丸が幾度となく、湊の銃口から発する。
それに対し慎也は——
「は、素手で……?」
鍛え抜かれた肉体と、澱みなく魔力で強化された拳に弾丸は為す術無く弾かれる。
そして気が動転し生まれた一瞬の隙に踏み込み、粉砕する。
「うっ、ごふぅっ!?」
容赦なく叩き込まれたその鉄拳は、鳩尾を一閃する。湊の身体はいとも簡単に宙へと舞い、慎也の背後に落ちていく。
「没落した魔術の家系は関係ない、ここでは実力が全てだ。爪の研ぎ方を間違えるなよ、湊雪菜」
「っぐ、クソッ……!」
「テストを続ける、羽崎と湊は下がれ。そして、そこの二人前へ出ろ」




