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アカシック・テイル 第1部.Phantom Veil  作者: 水月
第一章.霊獣事件
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第二節.魔術の世界

「大体こんなもんか.....」

「センパイ、いくら何でも多すぎませんか?」

 月明かりが、二つの烏の影を地に落としていた。

「そうだな、いくらなんでも想像以上だ.....」

 蔓延る獣は数知れず。今日だけでも既に5体葬っている。魔術師、特に執行官は仕事柄霊獣の案件に携わることも少なくない。

しかし、それでも一生涯で相手にする霊獣は多くて二十体ほどである。その四分の一に当たる数と一夜にして対峙した。

「三輪高等、痕跡はなんかあるか」

 死体を調べる少女に語りかける。

「いや、なんも無いっすよセンパイ。やっぱ人為的に作られてる説は低いんじゃないっすかー。霊獣が出やすいのは土地も影響するって聞いたことありますし。何より、こんなん作るメリットなんて皆無っすよー。」

 珍しくまともな返答が帰ってきた。

 確かに、結論を急ぐ必要はない。しかし、このペースだと一般人に被害が出てしまうのも時間の問題であるのも事実だ。

 腕時計は既に夜中の一時を回っている。

「三輪高等、一旦今日はもう休め。本部からわざわざこっちまで足を運んだんだ。疲れているだろう。」

「そりゃもうめっちゃ疲れてますよ、センパイ。今日はあの魔術師と話つけるためにわざわざ長い階段歩かされたのに私だけ話せないし。もうホテル戻ります、お疲れ様でーす。」

 少女は手を振り、笑顔で去っていった。

 血塗られた剣を静かに格納する。

誰も居ないことを確認しライターで火をつける。

吐き出した煙が、背けたい現実を淡く包み込んだ。

「人為的、か。」

 


「それで、何から話そうか。」

 御門玲奈と名乗った魔術師は手頃な椅子とテーブルを用意し、席に着く。俺は、彼女に促されるまま椅子に腰を下ろした。

「聞きたいことは、まあ沢山ありますよ。この世界のこととかもそうですし、魔術についても。」

「うーん、そしたらこの世界のことから話そうかな」

 彼女は、穏やかにこの世界の仕組みについて話し始めた。

「そもそも、この世界で魔術の存在は秘匿され、管理されている。

その、魔術を保存し、子孫へ継承している組織、それが――"魔術連盟"。

もう一つが"公安"。魔術テロや、さっきみたいな霊獣の処理。そういう"表に出せない問題"を片付けてる組織だね。」

 どうやら、俺が思っていたよりも魔術世界のスケールは大きいらしい。

魔術という技術を守る"魔術連盟"、魔術を隠匿し一般人を守る"公安"。

知らないままで生きていたのが信じられないくらい規模が大きい。俺が見てきた世界は、生きてきた現実は全て表層に過ぎなかった。

「ここまで聞いてなにか感想は?」

「スケールが大きすぎるな、としか言えません.....自分、とんでもないものに関わっちゃったんですね。」

「ははははははは、まあそうだよね。一週間前まで一般人だったんだし仕方ないか。次は、魔術についてだったね。」

 相当ツボに入ったのか、彼女は一息ついてから再び話し始める。

「魔術っていうのは、簡単に言えば、神に至れなかった人が、その在り方を模倣する技術だよ。」


 わけがわからない。


「神ってほら、全知全能で何でもできるでしょう。だから、それを限りなく再現できるように体系化したのが魔術。でも、再現できるものにもそれなりに限度があってね、時間遡行とか死者の復活とかは出来ないよ。魔術っていうのはイメージが大事だから、イメージできないものは再現できないんだ。」

 御門さんは、突然テーブルを両手で叩いた。

勢いよく立ち上がり、俺の顔を覗き込んでこう言った。

「よし、魔術やろっか。」

「.....は。」

「楓は一般人上がりだし、魔術も使ったことないと思う。」

「当たり前じゃないですか。」

「魔力を流れる感じとか、分からないと思うから一度体験させてあげる。」

そう言い、俺を顔に人差し指を突きつけ向け万円の笑みで、

「服、脱いで。」

「―――帰っていいですか。」

「いや、全然そんな変な意味じゃなくて、魔力を流すからそれを一旦感じて欲しいというかなんというか」

さっきまでの溢れるような余裕はどこへ行ったのか。

彼女曰く、脱ぐのは上だけでいいとの事。また、しっかり集中して、魔力が全身に駆け巡るのを感じろとも伝えられた。

「楓、結構がっしりしてるね。細マッチョはモテるぞ。」

「まあ、部活やってるので。」

「それじゃあ、始めるよ。」

「はい。」

 彼女のひんやりとした手が背中に触れる。反射的に身を引きそうになるのを堪え、全意識を手が触れている背中へ集中させる。

―――何かが、体の中に入っていく。

 今まで感じたことの無い、言葉では言い表せない不思議な感覚だった。背中から心臓へ、心臓を中心に胴体、両手足、首から頭に至るまで熱が一気に全身を駆け巡るのを感じる。

「どうだった?」

 背中から手を離し儀式は中断する。

「不思議な、感覚.....ですかね。言葉では難しいですが何かが全身を駆け巡るように感じました。」

 彼女は腕を組みうんうんと頷き、一言重大な事実をあっさり、軽く、重要では無いと切り捨てるかの如くいつもノリで言い放った。

「楓、魔術の才能ないよ。」

 一言で言うならショックだった。今から、魔術を学び事件を一緒に解決しようとしている中で、そんな事を言われるのは普通に効く。

「でも安心して、普通の魔術は無理ってだけで1つの魔術には適正あるから。」

「.......なんですか、それ。」

「―――術式、変速だよ。」

「.......なんですか、それ。」

「簡単に言ったら、物体の速度を自由自在に変えるって感じかな。というかそれしかない。」

 速度を変える、か。

自分がどれだけ追い求めても、手にできなかったもの。それに適性があるなんて――

皮肉にも、ほどがあるだろう。

「その、術式?ってやつはなんですか。」

「あれ、説明し忘れちゃった?」

「そう、ですね。」

 「あちゃー」と頭を抱え、彼女は説明を始めた。

「説明が難しいんだけど、簡単に言えばスマホとかのアプリみたいなものかな。スマホが私たちの体、アプリが術式。スマホの電力が魔力」

 今までの説明の中でいちばんわかりやすい。そう思う間もなく、彼女は話を続ける。

「スマホのアプリによってもできることが違うでしょう。それが術式ごとの差だね。でも、楓は変速っていう一つのアプリしか使えない特異体質なんだ。普通はね、適性のある術式で100点。それ以外でも70点くらいは出る。でも楓は変速が200点、その代わり他は10点くらい。」

「……それって、ほぼ使えないのと同じじゃないですか。」

「だから面白いんだよ。」

 クスクスと愉しそうに微笑む魔術師。

「まあ一旦術式は後ででいいや。最初は基礎の魔力強化からやっていこうか。」

 そう言って、魔術師は俺の背中を強く叩いた。

「立って。」

 普通に痛かった。



 薄暗い倉庫の中、白衣に身を包む二つの影が佇んでいた。倉庫の中には薄緑色に淡く発光する液体で満たされた巨大な培養槽が無機質に並んでいる。培養槽の中で黒い影が蠢く。まるで、自身の本能を解放する瞬間を待ち侘びているかのように。

「おい久遠、首尾はどうだ。」

 白い影の間に、黒い王が静かに顕現する。

「まあまあだな。理論は合ってる筈だが成功例は未だにゼロだ。」

「烏が、公安の執行官が最近嗅ぎ回っているらしい。二人のみだが特等と高等だ。幸い特務は居ないが用心しろ。オレは一旦この街から離れる。」

「王サマ、その執行官やべえよ。特等でも、実力は准特務と同じくらい。私が放ったヤツ全部そいつにやられてる。」

「久遠、金城も気をつけろ。」

 と言い残し、王は倉庫を去る。

「金城、サンプルは」

「もう、無くなったよ。また回収しないと。」

「わかった、とりあえず核はまだあるから1週間後くらいに回収しに行く。」

「りょうかーい。」



 服を整えた後、廃ビルの後ろにある少し開けた場所に出た。

「さっきので、自分の魔力が全身に巡る感覚は掴めた?」

「まあ、なんとなくですけど......正直自信無いです。」

「それじゃあ、一回やってみて。」

「.......わかりました。」

 先程の感覚を思い出す。心臓から一気に全身に熱が巡る感覚。

力を込めるが、何も起きない。さっき、確かに感じたはずの流れが見当たらない。

「……あれ、できない。」

 もう一度、イメージは熱。さっきよりも強く、より確かに全身に張り巡らせる感覚を。

 結果は同じ、再現はできなかった。

「すいません、全然できないです。」

 目を開けると、御門さんは腕を組みながらこちらをじっと見つめていた。

「いいよ、最初はそんなもんだと思う。」

 帰ってきた返答は思ったよりも軽いものだった。

「むしろ今まで一般人だった人間がいきなり魔力扱えるだなんて、珍しいから安心して。魔力強化さえ覚えてしまえばあとは簡単だから。」

気のせいかもしれないが、御門さんの視線はどこかを探るようにこちらを向いている感じがした。

「そしたら、もう一回やってみて。」

「わかりました。」

 言われるがまま、再び意識を内側に向け集中する。

 その時だった、一瞬体の奥で何かが駆け巡る感覚がよぎった。

 同時に、あの時の感覚を思い出す。もう一度集中し全神経を研ぎ澄ます。

 しかし、先程の感覚を取り戻すことは出来なかった。

「すごい、でも惜しかったね。あともう少しだったよ。この感じだったらあと2、3日あったら習得できそうだね。」

 確かに、一瞬ではあったがあの時の感覚を取り戻した気がした。今ので、自身の魔力を"動かす"ことはできた。

「あとは、全身に魔力を巡らせるだけ.....」

「そう、よくわかったね。そこがまた難しいんだよ、でも一日でここまでできたら上出来。あとは明日に持ち越そう。」

 その時、微かに空気が揺らいだ。直後、忘れもしない生暖かい風が全身を包む。

「……楓。」

 御門さんの声が微かに低くなる。

「これって、また……」

「ああ、霊獣だ。下がってて、私がやる。」

 木々の隙間、俺たちの視線を掻い潜りヤツは迷わず一直線に俺の方へ接近する。

「楓、走れ!!」

 獣の本能は優秀だ。自分より強いやつは一瞬で理解できるのだろう。御門さんを無視し獣は加速していく。

 (間に合わない、いくらなんでもはやすぎる。このままだと楓が殺される。) 

 加速してくる獣から逃げることは不可能。かと言って止まっていても殺されるなら、一か八かここで成功させるしかない。

 思い出せ、感覚を。

 意識を内側へ、右手の拳を握り目を開く。

 目標を見据え一歩前へ。

「あ、」

 獣は跳躍し、一気に距離を詰める。俺に牙が刺さる刹那。

 心臓から全身へ、全神経が鼓動しそれに呼応するかのごとく筋繊維は躍動する。炸裂するは拳。砕けるは獣の顎。制御しきれない魔力が暴発し獣は宙を舞う。

「え、」

「やんじゃん、楓。あとはまかせて。」

 自身の理解よりも速く、勝負は決した。

 直後、この前とは少し違う無数の光が獣の身体を貫き獣は地に落ちる。

「まさか、この土壇場で成功させるとは。」

「自分も、びっくりです。」

 御門さんは、俺の右腕へと視線を移す。それを習うように視線を右腕へ。

「大丈夫?その腕。」

 時間差で、激痛が右腕を襲う。腕が爆発しそうな鋭い痛みが駆け巡る。

「がっ、あ.....ゔっ」

「大丈夫、今治すから。」

 そう言い、激痛に悶える俺へ駆け寄り腕に触れる。    

 温かい魔力が俺の腕を包み込んだ。ほど無くして、腕の傷は癒えた。しかしまだ、痛みは残っている。

「ありがとうございます。」

「ごめん、無理させた。痛みは多分明日には消えてるから大丈夫。そしたら、今日はもう解散だ。疲れただろう、次は明後日だ。明日は休め。」

「わかりました、ありがとうございます。また、今度。」

 と言い、残留する腕の痛みに顔を歪めながら去っていった。



 誰も居ない空間。灰になっていく獣の骸。

「楓、すごいな。想像以上だ。」

 誰も居ない空間に賞賛を吐露する。その空間を埋めるように二つの烏が舞い降りた。

「近くで魔力を感知し駆けつけたら貴様か、御門」

「あーごめんごめん、」

「あ、御門サン初めましてー三輪っス。赤城センパイの後輩っス!!」

「よろしくね。」

「あまり目立つなよ。さっきも来る途中に一般人がいたから。」

 無駄足だったかと愚痴を零し、青年は去る。しかし、誤魔化しきれない違和感がその空間には残っていた。

「魔力の気配がひとつ多い、」

「どうしました?センパイ。」

 青年は振り返り、魔術師を睨みつける。元々感じていた違和感はそれだけじゃない。ここに来る前にいたあの一般人。あいつは、廃ビルへと続く道を歩いていた。

「御門、お前以外に誰かいたか。お前とも、霊獣とも違う魔力の残穢がある。」

「あー、多分魔導具かな。霊獣倒す時に使ったんだよね。」

 と魔術師は言い、ナイフを取り出す。

「そう、か。ならいい、何度も言うが一般人だけは巻き込むなよ。」

「わかってるよー」

 軽く手を振る魔術師。その瞳は、僅かに細くなっていた。

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