第8話 格の違い
山賊退治のはずだったんですが、
ちょっと厄介なのがいました。
今回はがっつり戦闘回です。
やがて、山間の奥に開けた場所へと辿り着く。
岩壁に囲まれた簡易的な砦。
木材と布で組まれた粗末な建造物が点在し、明らかに山賊の拠点だった。
そして――
すでに、待ち構えていた。
「待ってたぜぇ」
中央に立つ男が、にやついた笑みを浮かべる。
「まさか、たった2人で来るとはな。
命知らずってやつか?」
この一帯を荒らしている山賊団の頭領だ。
周囲の山賊たちも、下卑た笑い声を上げ始めた。
俺はステータスを確認する。
――ゴメス 山賊頭領
種族:人間
剣術:B
(……思ったより、強くはない)
だが、視線をその背後へ移した瞬間、空気が変わった。
影のように立つ男。
褐色の肌。
長い耳。
鋭く細められた眼。
無駄のない装備と、異様なほど静かな佇まい。
同時に、冥奪の眼が強く反応する。
――エルゼル 用心棒
種族:ダークエルフ
剣術:A+
魔術:S
弓術:S
(……完全に格が違う)
背中に、嫌な汗が伝う。
俺やレインより、はっきりと上。
こいつが本当の“危険枠”だ。
(あいつの剣の動きだけでもコピーできれば……)
冥奪の眼の加護はある。
だが、問題はそれだけじゃない。
俺がエルゼルを抑えに回れば――
残りの山賊の数で、レインが押し潰される可能性が高い。
数的不利。
相手はざっと20人くらいはいる。
真正面からぶつかれば、分が悪すぎる。
「……!」
レインも異変に気付いたようだ。
「ダークエルフが、ここにもいるとはね。
お前ら……何を企んでいる?」
問いかけるが、ゴメスは鼻で笑った。
「そんなこと、これから死ぬ連中に話す必要あるか?」
そして、腕を振り上げる。
「囲め!
数で一気に叩き潰せ!」
合図と同時に、山賊たちが武器を構え、じりじりと距離を詰めてくる。
エルゼルだけは動かない。
ただ、こちらを観察するように静かに立っている。
(……あいつが動く前に決める)
俺は、レインに小さく声をかけた。
「レイン、来るぞ」
「……ああ」
短く頷き、それぞれ武器を構える。
山間を抜ける風が、一瞬だけ静まった。
次の瞬間。
山賊たちが、一斉に踏み込んできた。
戦いが、始まった。
まずは――数を減らす。
接近戦に持ち込まれる前に、できるだけ削る必要がある。
――疾風
俺が詠唱するのと同時に、隣で弓が鳴った。
レインの矢が、空中で淡く光る。
放たれた瞬間、3人の山賊が同時に胸を射抜かれ、地面に崩れ落ちた。
(……一発で3人)
効率が違いすぎる。
だが、負けていられない。
――火炎
生み出された炎を放つと、前列の山賊をまとめて吹き飛ばすことができた。
間を空けずに、さらに魔法を叩き込む。
――暴風砕破
風がうねり、竜巻となって敵陣に突き刺さる。
悲鳴。
金属音。
土煙。
数秒で、8人ほどが地面に転がった。
だが――
それでも、残りが突っ込んでくる。
距離が、一気に詰まった。
剣を構える。
避ける。
受ける。
弾く。
斬る。
ただひたすら、身体を動かす。
反射と経験だけで、剣を振る。
一方、レインは違った。
距離を保ち、位置を変えながら、確実に射抜いていく。
無駄がない。
冷静で的確。
(……やっぱり、強いな)
どれくらい経ったのか。
体感では短いが、実際には十分以上は経っているはずだった。
数は多かったが、個々の実力は低い。
致命的な危険はなく、押し切る形で制圧できた。
最後の一人が倒れ、静寂が場を支配した。
俺は、自然と視線を上げると、ゴメスの顔が歪んでいた。
悔しさを噛み殺すような表情。
それとも、怒りで言葉が出ないのか。
「……なかなか、やるじゃねえか」
低く唸るような声。
「だがな
次は俺たちが相手だ」
その横で、一歩前に出てくる影。
エルゼル。
空気が変わった。
「……」
視線が、真っ直ぐこちらに向けられる。
そして、淡々と告げた。
「剣士は、俺がやる。
お前は、弓使いを始末しろ」
完全に、戦力を把握した上での指示。
ゴメスは短く舌打ちし、レインの方へ視線を向けた。
(……俺がエルゼル、か)
むしろ好都合だ。
だが――どうする。
あいつは、格が違う。
せめて、剣の動きだけでも――
そう思いエルゼルを視た瞬間。
冥奪の眼が、強く反応した。
<剣術A+ コピー>
<剣術: A → A+>
(……?)
一瞬、思考が止まる。
今までは、“技を見て”コピーしていた。
なのに――
今回は、視ただけで。
意識しただけで、情報が流れ込んできた。
(……さっきの)
脳裏に、あの感覚がよぎる。
眼の奥を雷が走った、あの瞬間。
(眼のレベル……Ⅱ)
もしかすると。
あの時、能力が“段階を越えた”のか。
だったら――
「……いける」
小さく、息を吐く。
エルゼルと正面から向き合う。
「レイン、そっちは任せた」
「任せて!
ヨウも、無茶するなよ!」
短い会話。
だが、十分だった。
「行くぞ!!」
ゴメスの怒鳴り声が、山間に響く。
そして…
本当の戦いが、始まった。
(まずは様子見だ……)
いきなり距離を詰めるのは危険だ。
相手はただの用心棒ではない。直感が、そう告げている。
俺は手を構え、魔法を詠唱する。
ーー暴風砕破
無数の風の刃が竜巻となり、エルゼルへ放たれる。
だがエルゼルは、眉一つ動かさずに片手を上げた。
――パンッ。
乾いた音と同時に、俺の攻撃は空中で弾き飛ばされた。
「……っ!」
胸の奥が、ひやりと冷える。
(今のが、通じない……?)
俺の現時点の魔法では、あの男には歯が立たない。
それを、一撃で理解させられた。
「そんなものか、
次はこちらの番だな」
淡々とした声。
エルゼルは掌をこちらへ向ける。
空気が歪み、収束していく。
ーー暴風砕破
無数の風の刃が集まり、ヨウの暴風砕破を遥かに凌ぐ竜巻となる。
「…すごい…」
そう呟くと同時にそれは放たれた。
(単調な軌道ではあるが当たったら……)
俺は軌道から逸れるようにできる限り横へ跳ぶ。
直撃は免れた。
――だが。
背後の岩壁に命中した瞬間、轟音と共に爆ぜ、無数の鋭利な風刃が周囲を切り裂いた。
岩が砕け、粉塵が舞い上がる。
(……危なかった)
もし、少しでも判断が遅れていれば。
身体がどうなっていたか、想像するまでもない。
「ふむ、なるほど」
エルゼルが小さく頷く。
「では、これはどうかな?」
次の魔法陣が、空中に展開される。
ーー雷撃裂壊
エルゼルから溢れ出す膨大な魔力が、空気を裂いて雷へと変わる。
手が振り降ろされると同時に数発の雷撃がヨウを襲う。
――速い。
さっきとは比べ物にならない。
冥奪の眼の補正を限界まで引き上げ、反射的に身体をひねる。
避けた――はずだった。
焼けるような痛みが、腕を走る。
視線を落とすと、血が滲んでいた。
かすめた雷撃は、そのまま背後の岩壁を貫通し、遥か先まで突き抜けて消えていく。
(……雷そのものだ)
眼の能力がなければ、今ので終わっていた。
背筋を、冷たい汗が流れる。
「これも避けるか。大したものだ」
エルゼルが、愉しげに口元を歪めた。
明らかに、次元が違う。
(なら……近接戦しかない)
俺は一呼吸置き、地面を蹴った。
全力で、エルゼルへ突進する。
「――っ!」
彼は即座に弓へ持ち替えた。
矢が放たれる。
速度はあるが、魔法ほどではなかった。
俺は身を低くし、紙一重で回避しながら距離を詰めていく。
「ほう。接近戦に自信があるようだな。
…動きは粗いが……悪くない」
終始、上から目線の声。
「いいだろう。付き合ってやる」
エルゼルが剣を抜いた。
剣と剣が、激突する。
金属音が連続して響き、火花が散る。
常人には目で追えない速度の斬り合い。
俺は眼の力で無理やり動きを捉え、必死についていく。
(くそ……重い……速い……)
受け流すだけで、腕が軋む。
エルゼルの剣が、わずかに角度を変えた。
(――まずい)
そう思った瞬間。
視界が、白く弾けた。
衝撃。
次の瞬間、俺の身体は地面を転がっていた。
「……ぐっ」
剣を支える腕が、痺れて言うことを利かない。
エルゼルは、まだ一歩も下がっていなかった。
むしろ、こちらを見下ろすように立っている。
「それが精一杯か」
淡々とした声。
「――悪くはなかった。だが、ここまでだ」
剣が、ゆっくりと振り上げられる。
俺は歯を食いしばり、再び構え直した。
(……まだ、終わらせる気はない)
その瞬間――
エルゼルが一瞬だけ視線を逸らす。
俺も、反射的にそちらを見た。
(……レイン!?)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
エルゼル、普通に強すぎます。
ヨウはどうやって食らいつくのか。
そしてレインの戦いはどうなっているのか。
続きます。




