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収奪の復讐者 ~奪われた全てを取り戻す悪魔の眼~  作者: 冬野 ヨル


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第29話 覚悟が刃になるとき

今回はエリシアの遺跡探索回です。

観光気分……かと思いきや、少しずつ空気が変わっていきます。

翌朝、陽が昇るのとほぼ同時に、俺とレインは目を覚ました。

レインは、まだ布団に埋もれたままのセラに声をかける。

「セラ、起きて。もう朝だぞ」

「ん〜……もう朝なの……?」

眠たげに目をこすりながら、セラが身を起こす。

「準備したら、そろそろ出発だ」

「はーい……」

もぞもぞと支度を始めるセラを見て、思わず頬が緩む。

その様子を横目に、俺も装備を整えた。


準備を終えた俺たちは宿を出る。

目指すは、エリシアの遺跡。

どうしても気になって仕方なかった俺は、自然と足取りが軽くなっていた。

まずは“エリシアの玄関口”と呼ばれるエントラ島へ戻り、そこからカタラ湖を経由して遺跡へ向かう。

湖から先は徒歩らしい。

船でエントラ島へ向かう道中、セラは何度か船の揺れに身を任せ、そのまま眠りに落ちていた。

(島に着くまで寝かせておくか)

そうして到着後、セラを起こし、カタラ湖へ向かう。


ほどなくして、カタラ湖に辿り着いた。

正確にはここはエリシア領ではない。

王都リオナの南、サウスリオナと呼ばれるオリントス王直轄地だ。

湖畔には説明書きのある看板が立っている。


――

かつてこの地は、アマツカ山脈から流れる水が

そのまま海へと注ぐ流路にすぎなかった。

しかし大昔、巨大な蛇が出現し暴れ回ったことで

大地に深い穴が穿たれ、そこに水が溜まり湖となった。

蛇はその後姿を消し、

現在は湖の奥深くで眠っていると伝えられている。

――


最後に、小さく「ポイ捨て禁止」と書かれている。

(琵琶湖ほどじゃないが……それにしても、でかい)

誇張ではなく、“巨大”という言葉がしっくりくる湖だった。

「ねえ……落ちたら、どうなっちゃうんだろ」

セラが覗き込みながら呟く。

「巨大な蛇、ほんとにいると思うか?

話を盛ってるだけな気がするんだけどな」

レインが肩をすくめる。

「どうだろう……。いたら、ちょっと見てみたい気もする」

そう答えながら、俺も湖面を眺める。

「でも、こんな湖を作るほどなんだよ?

 いたら、普通に怖くない?」

「……まあ、それは確かに」

(某映画のバジリスク級か)

そんなことを考えつつ、俺は歩き出す。

「行こう。遺跡はこっちだ」


湖から先は、獣道のような足場の悪い下り道だった。

「足元、気をつけろよ」

言ったそばから、レインが滑りかける。

「うわ、危ねぇ……!」

「ちょっと、レイン!ちゃんと前見て!」

注意するセラと苦笑いするレインを横目に進み、

再びエリシア領へ入ったあたりで、朽ちた遺跡が姿を現した。


「ここが遺跡か……雰囲気あるな」

山中、森に囲まれた場所に、

コンクリート造りのような建物が孤立して建っている。

風化して崩れかけた箇所も多く、整備された道もない。

「こんな奥まった場所にあるなんてな。

入っていいのか、逆に不安になる」

レインが呟く。

「……ちょっと、不気味じゃない?」

セラはやや気圧された様子だった。

「大丈夫だ。観光スポットとして登録されてる。

めったなことは起きないはずだ。

行こう」

俺はそう言って、二人を促した。


内部は思ったほど広くはないが、老朽化が進んでいる。

「念のため、はぐれないように行こう」

開けた空間の先に、廊下のような一本道が続いている。

「俺が後ろに付くから、セラはヨウの後ろを歩くんだ」

「うん」

レインに任せておけば問題ないだろう。

所々に灯りが設置されており、最低限の管理はされているようだった。


いくつかの部屋と廊下を抜けた先で、

さらに広い空間に出た。

苔むした岩、流れる水、天井から差し込む光。

左右には分岐路があり、左には看板が立っている。


――

危険

発掘途中のため関係者以外立入禁止

――


右には矢印。

(順路か)

俺たちは右へ進んだ。


似た構造の部屋を3つほど抜けた先で、正面に下り階段が現れる。

だが、その先は浸水しており、潜らなければ進めない。

「なあ、これって……」

「ここまで、ってことだな」

「どうするの?」

セラが不安そうに聞く。

俺は周囲を見渡し――

1箇所、不自然に魔法陣が張られた壁に気づいた。

近づいた瞬間、アルティエルンを得たときと同じ感覚が走る。

魔法陣が解け、壁が割れ、通路が現れた。

「おい、マジかよ……!」

「すごい……!」

(ほんと、便利な眼だな)

通路の先は行き止まり。


通路の奥、箱へ手を伸ばしかけた、その瞬間だった。

「――おい。何をしてる」

低く、抑えた声。

背中に、ひやりとした感覚が走る。

振り返ると、通路の入口に一人の男が立っていた。

短剣を逆手に持ち、いつでも踏み込める距離を保っている。

「……誰だ?」

「それはこっちの台詞だ。

どうやって、そこを見つけた?」

男の視線は、俺ではなく――

開いた通路と、箱に注がれていた。

「美術館から来た追手か?」

その言葉に、レインが一瞬だけ眉を動かす。

「美術館?」

「盗まれたって言ってたろ。

……あれのことじゃないのか?」

男の表情が、わずかに揺れた。

「……違うのか?」

張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。

「なら、ここは見逃してやる。

その代わり、このことは黙っていろ」

短剣は下がらない。

信用しているわけじゃない――ただ、警戒を解いていないだけだ。

(盗品だよな……)

俺は箱から視線を外さずに聞いた。

「中身は?」

男は一瞬迷い、それから口角を上げる。

「透明ローブだ」

その言葉に、レインが息を呑む。

「……透明?」

「羽織るだけで姿を消せる。

完全にな」

(某映画出てきたものと同じか)

俺はそんなことをふと思いつく。


「なるほど、美術館が物々しくなるわけだ」

レインの声は低い。

興奮よりも、事態の重さを測っている声音だった。

その横で、セラが小さく俺の袖を引く。

「……取り返す?」

その一言に、男の視線が鋭くなる。

「おい。黙ってろ。

それ以上踏み込むなら――」

「……そのローブ、どうするつもりだ?」

俺の問いに、男は答えなかった。

「それは話せねぇ。

で、黙っててくれるのか?」

沈黙が落ちる。

「見返り次第だな」

俺の言葉に、レインが小さく目を見開く。

(……交渉する気か?)

男は短く舌打ちし、それから低く言った。

「この遺跡には、 “隠された宝”があってな。

場所を教えてやる。それでどうだ?」

「……どこだ?」


条件は、成立した。


俺たちはその場を離れ、男に教えてもらった通りに来た道を引き返す。

廊下は静かだった。

水音と、足音だけがやけに大きく響く。

(……)

部屋に入ると俺たちは怪しそうなところがないか確認を始める。

ふと、視界の端で“引っかかり”を覚えた。

何気なく壁に目を向ける。

苔に覆われ、他と何も変わらない石壁――

だが、“眼”を通すと、そこだけ魔力の流れが歪んで見えた。

「本当にあった」

俺はそう呟き、さりげなく周囲を確認する。

「どうした?」

レインが振り返る。

「いや……気になるところがあってな」

俺は壁に近づき、指先でなぞる。

魔法陣を解除すると、低い音を立てて、壁の一部が静かに開いた。

「……隠し扉?」

セラが小さく声を上げる。

「本当にあったのか……」

レインも驚いていた。


(男の言っていた“宝”はこの先ってことか)

同時に、頭の中で一つの考えが形になる。


――なら、あいつは。


ここまで案内役としては十分。

盗みを働くような男だ。

(この先あいつと関係があることが、もし漏れたら厄介なことになるかもしれないな)



俺は振り返らずに言った。

「レイン、セラ。聞いてくれ。

宝は、確かにここにあると思う。」

一拍、間を置く。

「それと――さっきの男だが、このまま見逃す気はない」

空気が、ぴんと張りつめた。

「……ヨウ」

レインの声は低い。

怒りとも、戸惑いともつかない。

「お前……。

最初から、そのつもりだったのか?」

俺は少しだけ考えてから答えた。

「途中で決めた。

でも、ここに来た時点で、そうなる可能性は高かった。

 それに、あの男と関係があるとどこかで漏れたら俺たちも怪しまれてしまうだろう」

沈黙。

レインは拳を握り、歯を食いしばる。

(あの男は確かに盗人だ。悪党だ。倒しても構わない――)

理屈では分かっている。

だが、それでも。

(……あまりにも、迷いがなさすぎる)

「ヨウ。お前、変わった気がする」

その言葉に、俺は振り返る。

「帝国が相手なんだ、力はあるに越したことはない。

 それに…

 復讐を果たすなら、冷酷にならなきゃいけない場面も、きっと出てくると思うんだ」

そう返すと、レインは一瞬言葉を失う。

隣で、セラが小さく口を開いた。

「……私は、ヨウに賛成するよ。

強くならなきゃ、意味がないと思う。

優しいだけじゃ……何も守れないって思うの」

その声は震えていたが、目は真っ直ぐだった。

(……二人とも、もう覚悟を決めてる)


レインは視線を落とし、深く息を吐いた。

(……俺だけが、まだ“線”を引こうとしてるのか)

一歩、引くべきか。

それとも――。


「……わかった」

ゆっくりと顔を上げ、レインは小さく頷く。

「俺は止めない。

ただし――俺にやらせてくれないか?」

思わず、言葉を失った。

まさか、レインの口からそんな申し出が出てくるとは思っていなかった。

「……いいのか?」

「ああ。

どうせ、非情にならなきゃいけない場面は、これから何度も出てくる。

その時に、迷って失敗するくらいなら……今、覚悟を固めておきたい」

その声は、静かだった。

だが、逃げはなかった。


――そして、俺たちは引き返した。

男は、箱の前で何かを確認しているところだった。

無防備な背中が、そこに晒されている。

「おい、宝は――」

最後まで言わせなかった。

レインが、一歩踏み込む。

剣閃が走った。

迷いはない。

血が床に落ちる音だけが、遺跡に低く響いた。

レインは振り返ることもなく、透明ローブを回収して戻ってくる。

俺はそれを受け取り、静かにポーチへと収めた。

「……ありがとう、レイン」

「いや」

レインは小さく苦笑する。

「殺意を向けられてない相手への攻撃は……やっぱり、慣れないな」

「……すまない」

俺はそう言って、レインの肩にそっと手を置いた。

「気にするな。

セラも覚悟を決めてる。

なら、俺だけ何もしないわけにはいかないだろ」

その言葉に、俺は黙って頷く。

(……ここまで覚悟を決めたレインに失望は絶対にさせない)

レインが背負ってくれたものの重さを、俺ははっきりと理解していた。


3人で、再び隠し扉の前へと戻ると、その先にはまだ闇が続いている。

だが――

もう、引き返すつもりはなかった。


ご覧いただきありがとございます。

今回は遺跡探索回でした。

特に、レインの決断は大きい決断でした。

それと、透明ローブ。

こういう“便利だけど危険なアイテム”って、やっぱりロマンがありますね。

次回は、隠し扉の先へ。

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