第22話 闇星のカノン
魔導王国テーヴァ編の続きです。
女王アルケイナとの出会いが終わったと思いきや…
さっそく次なる出会いが。
翌朝、目を覚ますと、視界いっぱいに広がるのは城らしい立派な作りの部屋だった。
だが使われている素材の質がまるで違う気がする。
宿屋のそれとは比べ物にならない。
視線を巡らせると、
レインとセラも、それぞれ豪華なベッドで眠っていた。
(……昨日のことが、嫌でも思い出されるな)
魔導女王アルケイナ。
未来、神、そして俺たちの選択。
衝撃的な出会いだった。
だが同時に、迷いを断ち切る覚悟も生まれた。
(今日から、また旅が始まる…。
やってやる!)
気持ちを切り替えるように、心の中でそう呟く。
そしてまだ眠っている2人を横目に、俺は窓際へと歩み寄った。
眼下に広がるのは、魔導王国テーヴァの街並み。
石造りの建物が連なり、朝の光を受けて静かに輝いている。
所々に見えるのは、魔法研究用と思しき施設や、増築途中の建物。
完成された都市、というより――
今まさに作り上げられている途中の国。
遠くには海が見え、その先には別の陸地の影もある。
(この大陸以外にも、世界はまだまだ広いんだな)
いずれ海を渡る日も来るのだろうか。
そんなことを考えると、不思議と胸が躍った。
視線を動かすと、城の左手奥に、
ひときわ目を引く建造物があった。
城に寄り添うように建てられた、五本の塔。
中央にはひときわ高い1本がそびえ立ち、
その周囲を囲むように、4本の塔が配置されている。
分厚い石壁は実用性を重視した造りだが、
よく見れば随所に、控えめながらも意味ありげな装飾が施されていた。
(……塔?
城の一部にしては、妙に独立してるな。
……あれは、なんだろう?)
気になった俺は、散策も兼ねて部屋を出ることにした。
廊下に出ると、左右に長く続く回廊が伸びている。
城内は静かで、人の気配はほとんどない。
俺は先ほど見えた建物の方角を目指して歩き出した。
しばらく進むと、
城とその建物を繋ぐ渡り廊下の入口に辿り着く。
(この先か)
そう思い、足を踏み出そうとした、その時。
「君は誰かな?」
背後から、唐突に声をかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのは――
10代半ばほどに見える少年だった。
城の人間にしては、どこか軽い雰囲気。
だが、ただの子供とも思えない。
「……女王に会いに来た客、ってところだ」
探るように答える。
「ふーん。
ここの人間じゃないね。
でも雰囲気だけは、そこそこ実力者って感じがする」
少年は俺をじっと見つめ、楽しそうに言った。
無邪気な口調だが、観察眼は鋭い。
「君は誰だ?」
俺も聞き返す。
「僕はカノン。
君が行こうとしてた建物で働いてるよ」
「なるほど」
そう言って、俺は“眼”を使った。
――カノン・フェレス《残滓》
魔術:A
(……残滓?)
聞き慣れない表記に、わずかに眉が動く。
(とりあえず魔術だけでも…)
<魔術A コピー>
<魔術:B++ → A>
「カノン、って名前なんだな?」
「うん。そうだよ。
君は?」
(名前を偽ってる感じはない……
でも、やっぱり何かが違う)
「俺はヨウだ」
違和感は拭えないが、嘘ではなさそうだ。
俺もとりあえず名乗る。
「ヨウ……」
カノンは小さく頷き、納得したように言った。
「やっぱり。
昨日、アルケイナ様に会いに来た冒険者だね」
「……なんでそれを?」
「だってさ」
少し身を乗り出して、興味津々といった様子で続ける。
「女王様とあんなに長く話す人なんて、普通いないもん。
城の中、ちょっとした話題になってたよ?」
「それに――
この場所まで来て、僕のことを知らないのも変だしね」
探るような視線。
「一体、どんな話をしてたんだい?」
(……ここは正直に話すべきじゃないな)
一瞬の思考の後、俺は言葉を選んだ。
「城に来る途中で、女王と懇意にしている人物の護衛をした。
その礼で、話をすることになっただけだ」
嘘ではない。
だが、核心は伏せている。
「ふーん……?」
カノンは少しだけ首を傾げる。
「まぁ、いいや」
そう言って、あっさり話題を切り替えた。
「ちなみに、この先は一般人立ち入り禁止。
許可がないと入れない場所だよ」
「そうか。
少し興味が湧いただけなんだが……それなら戻る」
踵を返そうとした、その時。
「ここはね、“魔導評議院”っていう場所なんだ」
カノンの声がかかる。
「“七星”と呼ばれる、各魔法属性のエキスパートたちが管轄してる」
――七星
「どうしても見てみたいなら、また会えた時にでも僕が入れてあげるよ」
悪戯っぽく、笑って言う。
「……わかった。
その時は、頼む」
そう返すと、カノンは建物の方へ歩き出した。
去り際、振り返りもせずぽつりと呟く。
「君とは、また会える気がするんだ」
その言葉を残し、彼は姿を消した。
「……?」
(また会える、か)
ただの勘にしては、不思議な重みがあった。
(残滓……評議院……)
謎は増えるばかりだ。
だが、今は深入りするべきじゃない。
そう判断し、俺は踵を返して部屋へと戻った。
自室へ戻り扉を開けると、すでにレインとセラは起きていて、部屋の中で軽く談笑していた。
「おっ! どこ行ってたんだ?」
レインが、やけに元気な声で振り向く。
「ちょっと城内を散策してただけだよ」
「早起きだね、ヨウは」
セラがくすっと笑う。
「どうも目が覚めちゃってな」
そう返しながら、俺も荷物の確認を始めた、その時だった。
――コンコン。
控えめなノック音。
「皆さん、よく眠れましたか?」
聞き覚えのある声。
扉の向こうに立っていたのは、アルケイナだった。
(……わざわざ女王自ら?)
部屋に入ると、アルケイナは扉を静かに閉め、穏やかな口調で切り出す。
「昨日お話ししたことは、他言無用でお願いしますね。
その方が――お互いにとって、都合が良いでしょうから」
「もちろん。そのつもりだ」
俺たちが頷くと、彼女は軽く微笑んだ。
「もし誰かに聞かれた場合は、
“商業王ロス殿の護衛をした礼として話をしていた”
ということにしておけば問題ありません」
そう言いながら、ちらりと俺を見る。
(……さっきのカノンとのやり取り、どこまで見てたんだ?)
「わかりました」
「そうします」
レインとセラも納得した様子で応じた。
「それと、こちらを」
アルケイナはそう言って、小さなバッジを差し出した。
「これは、テーヴァにおいて信頼できる者にのみ渡されるものです。
王城への出入りが自由になる証でもあります。
普段は姿を隠していますが、意識を向ければ表に現れる仕組みになっています」
「もし疑われた場合は、“護衛の報酬として受け取った”と言えば通るでしょう」
「俺が……女王様から、こんなものを……」
レインは目を丸くする。
「わぁ……!
綺麗なバッジ……ありがとうございます!」
セラも素直に喜んでいた。
「ありがたい報酬だな」
俺も頭を下げる。
「もう、行かれるのですか?」
アルケイナは、どこか名残惜しそうに問いかけた。
「ああ。旅に戻るよ。
色々と世話になった。……また、そのうち会いに来る」
「わかりました。
では、セリーナに外まで送らせましょう」
そう言われたところで、俺はふと思い出し、口を開いた。
「……ひとつ、いいか?」
「なんでしょう?」
最初から聞かれると分かっていたかのような声音だった。
「さっき、魔導評議院を見ようとして入口まで行った時、
カノンっていう子供に会った。
“残滓”って情報が見えたんだが……あの子は?」
アルケイナは、わずかに目を細める。
「そうですね……」
少しだけ間を置いて、静かに告げた。
「カノンは、魔導評議院“七星”の一人です。
闇星のカノン、と呼ばれています。
我が国における闇魔法のスペシャリストで、
“残滓”は、本体には劣る分身を作り出す闇魔法です」
「非常に優秀ですが……少々、危うい魔法使いでもあります。
好奇心が強すぎて、協調性に欠けるところがありまして。
時折、暴走することもあります。
……念のため、注意しておくことをおすすめします」
(……やっぱり、ただ者じゃなかったか)
あの軽さの奥にあった違和感。
今なら納得できる。
「分かった。気を付けるよ」
「それと……これは純粋な疑問なんだが…どうしてあんたの見た目って――」
そこまで言った瞬間。
「そこまでです」
アルケイナは、やんわりと、しかし確実に遮った。
そして苦笑しながら言う。
「私は時間の神による加護を受けています。
歴代の女王は皆、その影響で見た目がほとんど変わらないのです。
未来を観測することで、予知のようなこともできますよ?
もちろん、私以外には女王はそういう血筋なんだとしか理解はしていませんけどね」
「なるほど……さすがは時間の神、か」
そう言った途端、横から声が飛んできた。
「ちょっとヨウ。
女性に見た目や年齢の話を振るのは、さすがにデリカシーがないぞ……」
「そうだよ!
そこは聞かないのが暗黙のルールだからね!
戦いは凄いけど、女心も勉強しましょう!」
レインとセラから突っ込まれてしまった。
「……すまん」
素直に謝ると、アルケイナも含め、部屋に小さな笑いが広がった。
(……たまには、こういうのも悪くないか)
その後、準備を整えた俺たちは、セリーナに見送られて城を後にした。
彼女は、町の外れまで付き添ってくれる。
「この先、街道沿いに進んで関所を抜ければ、
オリントス王国、水都エリシアに到着します。
皆様の旅の無事を、お祈りしております。
どうか、お気をつけて」
深く頭を下げるセリーナに、俺は頷いた。
「ありがとう。気を付けて行くよ」
こうして俺たちは、
魔導王国テーヴァを後にし、
次なる地――エリシアへと歩みを進めるのだった。
――――――――――――――――――――――――――
【陽】
種族:人間
称号:冥奪の眼保持者
加護:憎悪の神エルロキス
眼のレベル:Ⅱ
剣術:S
魔術:A
弓術:E
魔法
火 火炎
疾風 暴風砕破
回復
隷従契約
聖
技能
毒操作
暗殺剣:Ⅱ
隠密:Ⅱ
装備
魔剣アルティエルン
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【レイン・ミスティールス】
種族:人間/エルフ混血
剣術:B
魔術:A++
弓術:A++
魔法
氷 氷結
水 洪水
回復 状態回復
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【セラ・ルクシア】
種族:人間
称号:光の魔術師
魔術:B++
魔法
光の雫 光線
光
聖
ここまで読んでいただきありがとうございます。
カノンが登場。
軽い雰囲気の中にも、ちょっと不穏な感じが漂いますね。
そして物語は次の目的地――エリシアへ。
次回もよろしくお願いします。




