表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第9章『きょうも、なんでもない一日。』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/195

『小鳥と自転車とおせっかい』

春の朝は、ちょっとだけ冷たい。


みなとは駅までの通学路を、自転車でゆっくり走っていた。

いつもの道。変わり映えのない住宅街。

けれど、今日は少し違った。


「あ……」


アスファルトのすみに、ちょこんとしゃがみ込んでいる小さな生き物。

黄緑の羽根。細い足。

一羽のスズメだった。


「……怪我、してるの?」


慌ててブレーキをかけ、地面にしゃがみ込む。

スズメは飛ぶことも鳴くこともせず、じっと彼女を見上げていた。


自転車を倒して、ハンカチでそっと包む。

羽根の端が、少し傷ついていた。


「大丈夫、大丈夫だよ。びっくりさせないから……」


自分の声が少し震えていた。


リュックから小さなペットボトルを取り出し、ふたに水を注ぐ。

ほんの少しだけ、小鳥がくちばしを動かした。


(よかった……生きてる)


そのまま10分ほど、しゃがんだ姿勢で様子を見守る。


でも、ふと気づく。


「あれ……やばい、時間……!」


時計を見ると、始業まであと15分。

駅まで行っても、もう間に合わない。


(でも……置いて行けない)


どうしよう。

胸の奥がざわざわしてくる。


そのときだった。


「……真白さん?」


聞き慣れた低音の声に振り向くと、そこには天城コウが立っていた。


「こんなとこで、どうしたの?」


「えっ、あ……あの、スズメが……怪我してて……」


みなとの声が、少し上ずっていた。

まさか、こんな姿を見られるとは。


彼は一歩近づいてしゃがみ込み、小鳥を見下ろす。


「……羽根、やられてるな。とりあえず保護できそう?」


「うん。わたし、学校、ちょっと……遅刻しても、いいから」


そう言ったとき、コウは小さく笑った。


「乗れよ。後ろ」


「え?」


「自転車。送ってく。学校、方向同じだし」


言葉がうまく返せないまま、みなとは頷いていた。


◇ ◇ ◇


二人乗りは、違反だってわかってる。

でも、今はそれを考える余裕がなかった。


自転車の後ろ、コウの背に軽く触れる位置で、みなとは小さくつぶやく。


「……なんか、ごめんね。迷惑かけて」


「ん? 別に。おせっかいって、案外悪くないだろ?」


その言葉が、どこか優しくて。

顔が勝手に熱くなった。


「……でも、重くない?」


「軽い軽い。るるより軽いかも」


「それ、褒めてる?」


「もちろん」


自然に出てくる会話。

不思議と、落ち着く。


(背中、あったかいな……)


(……なんか、だめだ。距離、近すぎて)


胸がドキドキしているのを、必死で押さえる。


だけど、風が優しくて、日差しが眩しくて、

この時間がずっと続けばいいのにと、少しだけ思った。


◇ ◇ ◇


学校の門が見えてきた頃、

コウがペダルをゆるめて言った。


「ほら、見えてきたぞ。ギリ、セーフだな」


「ほんと……助かった……!」


みなとは笑いながら降りる。


リュックのポケットから顔を覗かせるスズメも、ほんの少しだけ元気そうだった。


「……ありがとう、ね」


「おう。あと、気をつけて。保健室とかに相談すれば、多分預かってくれる」


「うん……!」


一歩歩き出して、ふと振り返る。


「ねえ、コウくん」


「ん?」


「わたし、今日――いいことした、かな?」


その問いに、彼は少しだけ照れたように、けれどしっかり頷いた。


「うん。めっちゃ、いいことした」


みなとは、もう一度笑った。


「そっか……よかった」


◇ ◇ ◇


その日の夜。


部屋で小鳥を思い返しながら、ふと自分の頬を触れる。


「……あれ? ずっと、熱いな……」


もしかしたら、風邪かも。


もしかしたら、違うかも。


その理由を、まだ言葉にする勇気はなかったけれど。


「……なんか今日、いい日かも」


そう呟いて、みなとは目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ