山賊だ
荷台でうたた寝をしていた俺は唐突に目を覚ました。
時刻は日の高い時間帯。
山道に入ってからはもう暫く経つが、出口はまだ随分先である。
起き上がった俺は、御者をしているエマの側に来た。
「どうしました?御者を代わってくれるんですか?」
「何を悠長な事を言っている。……来たぞ」
「……?何がですか?」
「山賊だ」
「へ?」
エマが間抜けな返事をするのと、森から放たれた矢が到達するのは同時だった。
俺は素早くエマに向かって飛来する矢を剣で払った。
「ひぃぃ!!」
エマが悲鳴をあげている間に、状況を確認する。
「射手は三人。飛来した矢も三つ。だが、当たったのは一つか……下手くそだな」
矢が飛来した方向は確認したが、今は放っておく。
何故なら左右の森から山賊が飛び出して来たからだ。
「おらぁぁぁ!!」
「行け行け!奪え奪え!」
「ぎゃははは!!久しぶりの獲物だぜ!」
左右三人ずつ、計六人の山賊がこちらに飛び掛かってきた。
飛び出してきた山賊に驚き、馬がその足を止める。
通常二方向から襲われたら対応なんて取れるわけがない。片方に対応している間にもう片方から攻められるからだ。
――だが、生憎俺は普通ではない。
まず左側の三人に向かって……動く。
「はぇ?」
一息で距離を詰めた俺は、何が起こったかわからない顔をしている山賊達に、剣を一閃する。
……一閃だ。一振である。一振で三人同時に切られた山賊は、呻き声もあげられず地面に倒れ伏す。
「なぁ!!」
その状況を見ていた反対側の山賊の足が止まる。
尋常ではないこの事態に対し、攻めるのを躊躇したのだろう。
しかし遅い。もう遅い。
俺は素早く体を切り返すと、助走をつけて飛び上がった。
そのまま馬車を飛び越えると、残り三人の山賊の目の前に着地した。
「う、うそ……だろ……」
こちらでも一閃。三人を一瞬で無力化する。……残るは三人。
矢を放った山賊は森の中におり、距離が少しある。……走って詰めても良いんだが。
「……ふぅ」
俺は足を止め、剣を構える。
そして森の中にいる山賊に向かって、その場て剣を振るう。
すると――
「ぎゃぁぁぁ!!」
山賊の悲鳴と同時に……森が切れた。
――斬撃を飛ばしたのだ。
俺と山賊の直線上にあった木々が時間をおいて倒れる。
「は……?……はぇ?」
ようやく事態を飲み込んだエマが、困惑ともつかない声をあげる。
……まあ、もう片付いた後だしな。
俺はこの惨状を見て一言感想をこぼす。
「……やり過ぎたな。環境に良くない」
襲い来る山賊を返り討ちにした俺は、全員の手足を縛って一ヶ所に集める。
「くそっ!!放せこらぁ!!」
「何で……何でだ……!」
「頼む……赦してくれ……赦してくれ!」
……うるさいな、口も縛るべきか?
「しかし、流石2スキルですね。私には何が起きたかわかりませんでしたよ」
混乱から立ち直ったエマが話し掛けてくる。
「言っておくが、この程度なら1スキルでも同じことが出来るからな」
先の戦闘は、2スキルしか出来ない……訳ではない。
それどころか大抵の争い事では2スキルなど戦力過剰なのだ。
故に手加減……というか本気の出し様がない。
エマにしてみたら、差がわからないだろうが。
……しかし、妙だな。この程度の相手に騎士団がてこずったのか?
「尋問でもするべきなんだろうが、時間も惜しい。何も起こらない内にこの場を離れるぞ」
するとエマが、おずおずと話掛けてくる。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「……殺していかないのですか?」
「………………」
エマの発言に体か固まる。
この女が物騒な発言をしたからではない。
何故ならこの世界において、盗賊、山賊はその場で殺していくのか常識だからだ。
考えてみれば当然である。
例えばこの山賊も、縄がほどければ活動を再開するだろう。そうすれば、次の通行人が被害に遭うことになる。
こいつらを町まで連れていくことだって出来やしない。
そもそも騎士団に突き出した時点で死刑確定だ。
裁判とか更正とか、そんな余裕も常識もこの世界にはない。
放置する……その考え自体が異端なのだ。
俺に殺しの経験がない……という訳でもない。それでも――
「俺の仕事は、おまえの護衛だ。山賊の討伐じゃない」
「……まあ、貴方がそう言うなら、別に構いま――」
――誰も反応出来なかった。
気配も予兆もない。
エマも山賊も、俺ですらも何も認識出来なかった。
……ただ、俺のスキルだけが反応した。
「――ぐうぅっっ!」
ふっ飛ばされて初めて俺が攻撃を受け、それをかろうじて防いだことに気が付く。
一体……一体何が!?
――そこに、いた。
犬だ。灰色の体毛をした、長くて細い足のドーベルマンの様な狩猟犬。
ただし、全長三メートル以上の体躯を持った犬。
そいつが今まで俺がいた所に忽然と現れ、獲物を見つけた顔で真っ直ぐこちらを見つめている。
………………見間違え様がない。こいつは――
「――怪物」




