12.変わり者のヒロイン
「ええ、あの時の私はやっていることが幼かったのですわ」
だから、次は殺そうと思います♡
「どうして虐めてたんだ?」
「そんなの嫌いだったからじゃないですか? 好きなら虐めないだろうし……」
「何故疑問形なんですか?」
ハインツが会話に割り込んできた。
悪役令嬢だからなんて言えるわけないし……。彼女を虐めてた理由って何!? 虐めに理由なんてあるものだっけ? 虐められたことなんてなかったからよく分からない。
あ、でも教科書をはさみで破られたことあったな~。まぁ、その後、破った犯人見つけ出して、大量の睡眠薬飲ませて木に逆さに吊るし上げたのは覚えている。
「シヴ様? 聞いていますか?」
「よく分からないのよね……。自分と性が合わない人って自然と距離を置くでしょ? それの過激バージョンだったのかも」
「今日はこれくらいにしておこう。話そうと思えばいくらでも話は出来るからのう。エリカ・マーガレットと件はまた今度ということで」
学園長の言葉に私は大きく頷いた。ギルは少し不満そうだったが、仕方ないという表情を浮かべて学園長の言葉に承諾した。
エリカが部屋に入って来ないのは残念だったけど、そんなことよりも今は黒豹警備隊から解放されたい。
「またな、シヴ・バシルス」
「二度と会わないことを願っておきますわ」
私はギルに向かってそう言ってから、学園長にお辞儀をしてその場を立ち去った。
「彼女は随分と雰囲気が変わったのう」
扉を開けたのと同時に学園長の声が微かに耳に響いた。
部屋を出るとエリカが紙を持ちながら立っていた。扉の前には黒豹警備隊のさっき出て行った方たちもいる。
「え? シヴ? ここにいたの?」
「もう入って良いわよ」
私は彼女の持っている紙を横目で見ながら足を進めた。
……学園祭実行委員? そう言えば、そんなイベントも合ったわね。そこで一気に攻略対象との距離を縮めるんだっけ?
「シヴもやらない!? 私達が仲良くなれるチャンスよ!」
エリカと仲良くしたいと思ったことなんて一度もないのだけれど……。
彼女が私の方を振り向いて叫んだのは分かったが、私は無視して足を止めずに歩いた。
「私はシヴと仲良くしたいだけなのに、どうしていつもそんな意地悪するの?」
あ~、きっとこの声って学園長室に丸聞こえなんでしょうね。もしや、エリカさんよ、わざと部屋に自分の声を響かせるように声をそんなに張って喋っているのかい?
早く家に帰らせておくれ、私は心の中でそう呟きながら彼女の方を振り向き、満面の笑みを浮かべた。
「エリカはどうして私と仲良くしたいの? 貴方以外の皆は私のことが嫌いなのよ?」
「私はシヴのことが嫌いじゃないもの」
「……腕のいいお医者様紹介しましょうか?」
私のつぶやきに学園長室から笑い声が聞こえたような気がした。
「今日のギル様はどうしたんだ?」
黒豹警備隊の者が不思議そうな表情を浮かべて、扉の方に目を向けた。エリカは私の言葉に対して目を丸くしているのか、学園長室から聞こえる笑い声に驚いているのか、よく分からない。
……そもそも、自分のことを嫌いだと言っている人間に対して嫌いじゃないって言うなんて逆に信用できないわ。もしかしたらエリカも私のことを殺そうと計画しているのかもしれない。……まぁ、流石にヒロインは人殺しなんてしないか。
「とりあえず、私はこれで失礼いたしますわ」
私はそう言って、彼女達の前から去った。