究明
「全員、揃ってるわね。」
魔法で全体を照らした、焼け焦げた研究室。私と他の三人がそこに集まっていた。私は、それらを確認していく。
「マルキス・リオン。」
壁に凭れて、仏頂面でペンダントの蓋の中を覗くマルキス。私の声で俯いた顔を上げると、おう、と返された。
「リ……」
「すみません、リーロディヴ様にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
遮るようにツェルが入った。私は話を譲るように、ええ、どうぞ、とツェルに渡した。
「リーロディヴ様、なぜ名を偽っているのでしょうか?」
私は、驚きで目を見開く。リーロディヴに目を向けてみるが、特にこれといった反応を見せない。黒いフードの奥で、変わらず大胆不敵にニヤけているだけだった。
口に含んでいたバーガーを飲み下すと、さらにニヤけ始める。
「別に。名前なんてオレにとっちゃあ興味も関心ないモノだしな。……あったところでオレの存在が明確になるワケじゃねぇし。」
そう言ってだんまりした影族は、無言でバーガーを再び食べ始める。
「何か後ろめたいことでもあるのかしら。」
「さぁな。」
私が呟いた言葉を、リーロディヴは曖昧に返した。身も心も影色で、この人のことは相変わらず分からない。
分かろうと思っていないが。
私は、最後の一人の名を呼ぶ。
「ツェル……バッツェル・カッサム。」
「……そう呼ばれるのは久方ぶりですね。」
ツェルとは、つまるところ愛称である。マルキスと同じように前々から面識があるが故に、そっちで呼ぶ間柄になっているわけであった。本人曰く、常に愛称の方で呼んでほしいらしい。
黒スーツを着ているツェルは、そのまま私に会釈をした。
マルキス。
リーロディヴ。
ツェル。
私、もとい、アリア。
私達四人は、全ての元凶に目を向ける。
謎を解き明かし、究明する。
*
といったものの、まずは何から始めれば良いのだろう。
「四人か……」
右から聞こえたマルキスの声。ため息混じりに放った言葉に、私は疑問を抱く。
「そうね、ここにいるのは四人よ。それがどうかしたのかしら。」
「いやな……」
マルキスは私達を見つめ、眉を顰める。
「このメンバーで装置に詳しいやつなんているか?装置を直したのはメイとオリヴィオだし、あいつらが事細かに装置を知っている。この状況であれを解明するのは厳しいと思う。」
「……言われてみればそうね。」
無知は困難をさらに極める。あの二人、どちらかがいれば装置を適切に操作させられるだろうが、残念ながらここにいない。
「その二人さんがいないんなら、とりあえずイジってみようぜ。」
リーロディヴが適当に提案する。しかしながら、本人は椅子に腰を据えたまま動かない。
その様子を、マルキスは呆れながらも提案自体には否定はしない。
「そう思うんならまずは椅子から立ち上がってくれないとな……まあ、その提案は最後に回そう。」
「……他になにか良い案はありますか?」
ツェルの疑問に、マルキスは眉を顰めたまま顎に手を添える。普段は動いていない長い耳が動き、黙考している。
私も腕を組み、最善の案を練る。
ふと、白衣の胸ポケットに写真を入れていたことを思い出す。なぜここで思い出したかは分からない。記憶というものは気まぐれなのだ。
取り出して見ると、集合写真だった。
懐かしい。確かこれは、研究チームを結成してからかなり経ってから撮ったものだ。
左から、
私。
オリヴィオ。
マルキス。
クラッフル。
バッツェル。
フィルイオ。
アンディー。
メイ。
あの装置で皆が別れてしまう前の、最後の集合写真。一人ひとりの個性が溢れ出た一枚だ。
「アリア、それはなんですか?」
ツェルが近寄りながら聞いた。私は、ツェルがよく見えるように胸のあたりに持っていた写真を顔の下まで上げる。
「確か、二人が装置を直している時期に撮った集合写真よ。」
「お前、それって……」
私の言葉に反応を示したマルキス。凭れた壁から背を突き離すと、足早に来て、写真を横から覗き込む。
マルキスは、私の横で険しい表情のまま写真を見ている。その赤い瞳に映ったのは、研究チームではなくその背景、研究室だった。
「ここをよく見てみろ。」
白い被毛に包まれた指先が、ツェルとフィルイオの間に向けられる。そこにあるのは、例の装置が。
「写ってるわね。」
「……おや。」
目の前のそれと比べていたツェルが何かに気づいた。
「写真に映っている装置と眼前にある装置、多少の相違が窺えますね。」
何回か顔を上げて目の前の装置と比べる。だが、どうにも違いに気づくことができず、徒に頭を上下する結果に終わってしまった。
するとリーロディヴは、写真を見ていないのにもかかわらず、分かったように得意げな顔になる。
「二人が装置を直してるってんなら、違ってて当たりめぇだろ。」
「言っておくが、メイとオリヴィオが直していたのは装置自体じゃなくて、そのシステムだからな。だから……見た目だけで違うのはたった一つだ。」
マルキスは装置の前まで歩く。そして、片腕を挙げたかと思うと、台座に乗った輪の上部の中心を指さす。
「ここだ。」
指先を辿ってみると、そこに穴があった。小指が入るくらいの小さな円形が、その奥の暗闇を晒している。
写真の装置と比べてみると、どうやら写真のはその窪みの奥が紫色に光っていた。
紫色。
心当たりがある。
「まさか……」
そう思うと手が自然に動き、ポケットに入った石を取る。
それは、紫色に光る石。マナ……所謂、魔力の原石だ。
「これ……?」
「かもしれない。」
小石程度に小さいそれは穴に入りそうだが、入れてもいいのかと迷ってしまう。入れたことによって、もう一度暴走、なんて可能性も捨てきれない。
が、他に何かあるのかと言われればそれまでだ。
「それを、あの穴に入れるという事ですね。」
「……これを入れて、暴走でもしたらどうしましょう?」
思ったことを率直に述べると、マルキスは首を振る。
「写真の通りなら、入れただけで暴走はしないだろ。……もうこれしか方法は無いだろうし、まずは入れてみよう。」
「……そうね。わかったわ。」
言い方は良くないが、上手く丸め込まれたように、私は納得する。ツェルやリーロディヴから異議が聞こえないことから、二人も否定はしない様子だった。
装置まで歩き、背伸びをして穴へ石を入れる。穴が紫色に光ったかと思えば、急に装置の中から機械的な音が鳴り始める。
装置の様々な箇所が青白く輝く。やがて、その光が辿り着いたところは、装置に接続された一台のパソコンだった。
今まで真っ暗だった画面が、途端に緑色に光る。
不可解な文字列が下から上へ、目に見えない速さで流れていく。それがいきなり止まった瞬間、文字列が消える。
変わりに表示されたのは、思いがけない文章だった。
【信号ヲ受信シマシタ。
送信先〈メイ・ミスミ〉
只今、世界ヲ接続シマス。】




