イケメンに告白されたけど文化祭開始
そんなこんなで文化祭当日。
長かった。大変だった。
何が大変かって、問題や苦情があると実行委員にまで上がってきて処理におわれること。
おかげでクラスの準備にはほとんど顔を出してない。まあ生徒会長になった時点でみんな予想していたし、文句は言われなかったけど。
「……本日は天候にも恵まれ、沢山の……」
そして私はただいま文化祭開催の挨拶中。……女装で。
うん、もう生徒会長として動くときは女装と割りきった。生徒会長=女と思ってる一部の誤解を解くのが恐かったわけではない。
……ゴメン。本当は恐い。
「……各模擬店、バンド演奏や演劇など、今年も様々な催しが開かれます。皆さん、年に一度しかない文化祭、全力で楽しみましょう」
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「お疲れ様でした。後はみんな自由にしてね」
生徒会役員に告げて解散すると、私は大きく背伸びをして溜め息をついた。
疲労がたまっているというか、偽胸でもつけっぱなしだと肩がこる。
本物の脂肪をぶら下げてる世の女性たちは、どれだけ大変なのだろうか。
「古雅さん。レイカ様がメイド姿を見たいらしいんだけど、いつ頃行けば居るの?」
「午後はずっとシフトに入ってるけど、藤絵さんが来るの?」
「察しなさい。初めての男友達だから浮かれてるのよ。……貴方が男と断言していいかは、大いに疑問が残るけど」
失敬な。私は女装趣味はあるけど、混じりけなしの男だ。
……藤絵さんは間違いなく私を男だと認識してないけど。
「じゃあ午後一……は混んでそうだから二時頃に行くわ。レイカ様のために特等席を用意しときなさい」
「教室改造しただけの部屋にそんな上等なものないわ」
しかしモノホンのお嬢様が来店決定か。
三枝さんの付け焼き刃のメイド教育で通用するかなぁ。
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北條さんと別れたあと、私は一人で各模擬店を巡回していた。
準備や調整に動き回ったおかげか、幾つかの模擬店でロハで品をもらえた。
生徒会長万歳。
「あ、生徒会長だ」
焼きそばとお好み焼きのパックを抱えつつ、焼き鳥を食べていると、中庭で女子生徒たちに話しかけられた。
どうやら新生徒会長はそこそこ人気があるらしい。実感わかないけど。
「こんにちは」
「こんにちはー。生徒会長それ全部食べるんですか?」
「全部はきついですね。焼きそばはお昼にいただくつもりです」
無理すれば食べられないこともないけど、下手すれば吐く。
それにお腹が出たらみっともないし。
「会長は何か出し物やらないんですか?」
「出し物はやりませんよ。自分のクラスのメイド喫茶は手伝いますが」
『メイド喫茶!?』
瞬間、話していた女子生徒たちだけでなく、聞き耳をたてていたらしい中庭にいた生徒たちが一斉に振り向いた。
「会長もメイドやるんですか?」
「……やりますけど」
何ですかこの雰囲気は? 女性専用車両にうっかりはいってしまったようないたたまれなさ。
ちなみに私は女装中に何度か痴漢されたことがあるが、例外なく駅員さんにつきだした。
変態という名の紳士ならともかく、人に迷惑をかける変態には容赦しない。
「ラン! ファンクラブ連絡網を使って拡散を!」
「ラジャ!」
「ファンクラブ!?」
誰のだよ!? どう考えても私だよ!?
何故にこの短期間に、組織だって動けるほどのファンクラブができあがってんの!?
「えー……ご来店の際は他のお客様のご迷惑にならないようお願いします」
「当然です!」
「流石生徒会長、話が分かるぅ!」
どうやら午後のメイド喫茶勤務は修羅場になりそうだ。
藤絵さんも来るのにどうしろと。
「……どうしてこうなった」
私はお好み焼きのパックをあけると、現実逃避しながら咀嚼した。