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「好きな人はいる」

初投稿です。文章が固いのが悩みです。

お手柔らかにお願いします。

「ダメだコイツ、話が通じない…」


 人と会話をしていて、或いは他人の会話を小耳に挟んで、そう思った事はないだろうか。

 お互い間違いなく日本語で会話をしているはずなのに、言葉の意図が正確に伝わらないもどかしさや徒労感。


 日常でそういった出来事に遭遇する度に、私はとあるテレビ番組の一場面を思い出す。



 遥か昔、ようやくガラケーにweb接続機能が搭載されたかどうかという頃の、ある日の話。

 当時学生だった私は一人、自宅で昼ご飯を食べていた。

 なんとなく点けていたテレビで放映されていたのは、お昼休みをウキウキでウォッチングする某バラエティ番組。2014年の番組終了まで実に31年もの永きに渡りお茶の間で愛され、サングラスがトレードマークの某司会者の地位を不動のものとした、伝説のご長寿番組である。



 当時、世の中はギャルブームの変遷期を迎え、コギャルの発展形である『ガングロギャル』が一世を風靡していた。

 若い人のために説明すると、ガングロとは「ガンガン黒」あるいは「顔面が黒」が語源だと言われており、

・小麦色を通り越して真っ黒に焼いた肌。黒ければ黒いほど偉い

・肌の黒さが引き立つような明るい色に染めた髪

・白いアイシャドウ&口紅の色々とやりすぎなメイク

などが特徴のギャルファッションの事である。

 実際のガングロギャルは渋谷等、都市部の繁華街でしか見掛けられない存在であったはずだが、見た目のインパクトの強さから若者向けファッション誌以外の各種メディアでも大きく取り上げられ、良くも悪くも日本中を騒がせていた。


 「黒いギャル」と聞いて、現在アダルト業界において一ジャンルとして定着している『黒ギャル』を思い浮かべる御仁もおられるかもしれない。しかし当時のガングロは今の黒ギャルより遥かにアバンギャルドで、「可愛い」や「綺麗」を目指してのお洒落というよりは傾奇者(かぶきもの)に近い奇抜さがあったように思う。ガングロから男性が引いてしまう要素を除いたものが現在の、殿方の劣情をそそる存在としての黒ギャルなのかもしれない(ガングロに萌えるという男性も存在するのだろうが一般的とは言い難い)。



 さて、このお昼のバラエティは素人を出演させる事が多い番組であった。この時もどこで集めてきたのか数名のガングロギャルをスタジオに呼び、出演者である芸能人達と対面させていた。


 彼女達は皆、制服に身を包んでおり、それを信じるならば全員女子高生のはずである。芸能人からの質問に気ままに答える姿は偏差値の低さを否応なく感じさせ、番組側は明らかに『世間で噂の珍獣を大公開!』というスタンスでガングロJKをイジッていた。


 ギャルファッションとは無縁の地味系陰キャラであった私も珍獣を観賞する気分で、昼ご飯を咀嚼しては「うわー黒いわーケバいわーなんかもう特殊メイクの領域だわー」などと思いつつテレビを眺めていると、彼女達に向かってグラサン司会者が聞いたのだ。


「君たち、彼氏はいるの?」


 この質問に、中でも一際派手なメイクの少女が答えた。

 おそらく頬を染めてはにかんでいるのだが、残念ながら顔面が焦げ茶色なのでサッパリ分からない。そもそもメイクが凄すぎて容姿の美醜すら判別が難しい。


 そんな彼女が、モジモジしながら一言。



「え~っとぉ………好きな人は、いる」



 その瞬間、私は箸を持つ手を止めて画面に見入った。


 は?

 好きな人?

 違う。

 タ◯さんが聞きたいのはそういう事じゃない。



 グラサン司会者は「あ、そう…」とそれ以上突っ込まなかった。そこへお笑い芸人がフォローを入れ、ガングロ達に一人だけ混ざっていた比較的白ギャル寄りの少女に向かって「君はモテるんじゃない?」と話を振り、番組は恙無く進行していった。


 しかし私の胸には、先ほどのはにかみガングロJKへ言いたい言葉が渦巻いていた。



 ちげーよ!

 お前が誰を好きかなんてどうでもいいわ!

 ◯モさんは『お前()好きな奴はいるのか?』って聞いたんだよ!

 明らかに一般受けしない、白黒逆転パンダみたいな奇抜なファッション(みため)のお前を受け入れて『そんな君が好きだ。付き合ってくれ』と言ってくれる男はいるのか?って話だよ!!



 激しく口が悪いのはご容赦いただきたい。陰キャのイキった脳内なんてこんなもんだ。口にさえ出さなきゃいいのだ。



 とにかく私は、自分とは比べ物にならないほど恋愛経験豊富であろうテレビの中のギャルに対して、謎の上から目線で突っ込んでいた。

 テレビでチラ見しただけの相手に何故ここまで熱くなったのか自分でも気持ち悪いが、きっとその時の私には質問と答えが食い違った違和感が不快だったのだと思う。


「『話が通じない』っていうのはこういう事か…」と肌で感じた瞬間だった。


 件のギャルはなんだかんだで素直で悪い子じゃなさそうだったので、きっと同類(ギャル男)の彼氏がすぐ出来ただろうと思う。



 ちなみに世間ではこの直後、ガングロから進化した究極のギャルファッション『ヤマンバ』が爆誕。世界に名を轟かせた。

しかしそれと時同じくして、安室奈美恵に続く第二のギャルのカリスマとして浜崎あゆみが台頭。数年後には揺り戻しのように白肌ブームが到来し、ガングロブームは衰退の一途を辿った。

 しかし、幼少期にブームに触れて憧れを持った女子等を主体として現在も細々とガングロギャルは存在しているらしい(Google先生調べ)。



 あの、話は通じないが人の良さそうなガングロギャルも今ではアラフォーになっている筈。

 彼女の肌が今でも黒い確率は低そうだが、たった一度テレビで見掛けただけの相手なのに、妙に気になるのだ。






お読みいただき、ありがとうございました。

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