目が覚めたら!?ベッドインの答え
王太子がすげ代わっても、婚約者が変わらない、ってありなのか。
その点は深く突っ込みたいところではあったけれども、今は目の前の事態を問いただしたい。
王はすべて終わった、とばかりに王の間にいた者すべてに退室を命じた。
元王太子はわめきながら、暴れていた。
シンデレラストーリーを夢見ていた男爵令嬢のミリアは呆然と、肩を落としていた。
オスカーはクィと顎ひとつで、あたしを庭に連れ出した。
ついていくのもしゃくだったけれど、今は事情を聴きたかった。
「あんたが第1王子ってどういうことよ」
周囲に誰もいないことを確認して、素をさらけ出す。
「そのままの意味だ。側室の腹、しかも使用人だった母の子だ」
「貴族を馬鹿にしておいて、あなたのほうが身分が高いなんてね」
「はっ、1番目に産まれたって、身分なんてあってないようなものだ」
初めての陽の下で見たオスカーの目は、薄茶色がきらめいていた。
「その割には王になるのね」
あたしの苦言も、予想の範囲だったのだろう。
男は声を荒げることもない。
「側室を幾人抱えようが、俺を息子と思っていない親としては最低な人間だろうが、あの男は王だ」
男の目には恨みを抱える闇は見えない。
「忠誠を誓ってもいいと思ったのは父親ではなくて、あの男は1ミリの情も見せず、この国の王だったからだ。少しでも俺に媚び売ったり、悪いなんて頭を下げたら、蹴っ飛ばしてやったけど、国王は俺に王位を継承すると告げたときも、親愛の情の欠片も見せなかった」
「面白いもんだろ」と笑う男は、情というものが縁遠いように見えた。
「だから、あんたのついでに王位ってのをもらってやってもいいと思ったんだよ」
――――――ん?
不信な言葉に、あたしは首を傾げた。
「あたしのついでって?」
「だってあんた、言っただろ? 責任とれって。だから、責任とってやったんだよ」
「はぁ、あんた、そんなことでこの国の王になるっていうの!?」
――――――なんだ。血筋じゃないか。
この男も、元王太子とは種類の違う馬鹿だ。
「まぁ、結果オーライだろ? 最終的にはあんたを選んだことも、加点ポイントだったらしいからな」
「何なのよ、あんた」
あたしは、深く息を漏らした。
秋の匂いが鼻をつく園庭は、少し肌寒く感じる。
「まぁいいわ。あたしの純潔を奪って、王位を継承したんだから、良い王にならなきゃしばき倒すから」
「物騒なやつだな」
「大丈夫よ。あなたが道を踏み外しそうになつたら、縄をかけて、引っ張って連れ帰ってきてあげるから」
「はいはい、ありがとさん。ほら、行くぞ。こっちは急に王城に住まい移すんで、引越しの手が足りないんだ」
「はぁ? 伯爵令嬢のあたしに引越しを手伝えっていうの?」
「有り余った元気は口じゃなくて、労働に変換してくれればいいだけだ」
「あんた、婚約者にもう少し優しくしなさいよね?」
「あー、で、あんたもさっさと引越し準備しろよ?」
「はぁ? 伯爵令嬢が結婚前に引越せるわけがないでしょ?」
「あぁ? あんたのために強引に推し進めたんだ。さっさと俺のところに来いや」
情に疎い人生を歩んできた男は、恥かしげもなく、あたしの腰に触れる。
「うっさい、万年ドS男。乙女の支度ぐらい、男の度量で待っとくもんよ」
「はっ? 乙女って誰のことだか」
鼻で笑う男に、あたしは口をとがらせる。
「乙女かどうかについては、あなたにだけは言われたくないわ」
あたしの言葉がツボだったのか、ククッと偲ぶような笑い声が響く。
まったく、王太子がすげ代わったってあたしの負担は何も変わらない。
腰を引き寄せて歩く男に、あたしはため息をつくしかない。
それでも見上げた男が、たまにあたしを見て優しく笑うから、仕方ないかと思う。
まったく、目が覚めたらベッドインなんて、するもんじゃない。