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10話

 葉花は仕事の休憩時間に、左手でリムで作る箱の練習をしていた。


 「この前、リムルに襲われた時、とっさに箱って叫んだら、リムを集めるとか考えなくても、ポンって出たのよね」

 「そういえばケンタロウも、リムを使う時左手に必ず辞書を出していたが、辞書を出す時、『ライブラ』といつも言っていたな。そうすると何も考えていなくても辞書が現れて、そのあと使う言葉のにもリムが勝手にこもると」

 「へえ。ライブラね。ライブラリーの略かなあ?図書館、書庫みたいな意味よね?」

 「さあ、よくわからんが、言葉にすることによって、リムがイメージ道理になるのだろう」

 「じゃあ、私のもそうだったのかもね。ケンタロウさんが『ライブラ』なら、私は『ボックス』かな?」

 「好きにしたらいい。言葉と作りたいものが一致すればよいのだろう」


 葉花は試しに、『ボックス』と言って、指をL字にする。

 すぐに小さなリムの箱が出現した。


 「あ、出来た。いいかも!」

 「あとは慣れだな」

 「うん」


 葉花はしばらく『ボックス』と口にしながら、色々なサイズや強度の箱をイメージしながら、リムの箱を作って練習する。

 しばらくやるとだいぶ慣れてきた。


 「練習はこのくらいにしておくかな。お腹空いても困るし」


 葉花は椅子に深く身を沈めて、ふとテーブルの上の雑誌に目を止めた。なんとなくパラパラと開いてみる。他の従業員が休憩室に置きっぱなしにしたものだろう。ファッション雑誌なのだが、表紙に花火大会浴衣特集と書いてあったので、なんとなく気になってしまった。

 隅田川の花火大会まであと五日である。

 床に座っている四葉をちらりとみると、四葉は『どうした?』とでもいうような目で、首をかしげる。

 葉花は、軽く首を振ると、雑誌に目を戻した。

 浴衣や着物は、柄が綺麗で好きだ。だが、上手く着付けができる自信がない。買ったところで、一人で着るのは無理そうだ。


 「葉花はそういう服は着ないのだな」

 「ん?浴衣」

 「そうだ。帯とやらで長い布を羽織るやつだ」

 「普通の人は、浴衣なんてお祭りとか、花火大会の時ぐらいしか着ないよ。まあ、私は持ってすらいないけどね」

 「そうなのか。ケンタロウは仕事以外では、ほとんどそういう服だったが、そういえば、ケンタロウ以外ではあまり見ないな」

 「そうなんだ。私はテレビのイメージで、健太郎さんはスーツを着ているのしか想像できないな」

 「よく分からんが、ケンタロウはそのユカタとかいう服が気に入っていたみたいだ」

 「ふうん、そっかあ。じゃあ私も買ってみようかな」

 「いいんじゃないか。ヨーカも似合うと思う」

 「え!?そう?」

 「ああ」


 四葉の思いがけない発言に、葉花は雑誌の浴衣のページを四葉に見せる。


 「どの色がいいと思う?」

 「そうだな、この中ならこれだな」


 四葉が前足で示したのは、白地に大きな赤いあでやかな金魚が描かれている浴衣だ。金魚の尾びれから、流れるように透けるような紅色のラインが川のように流れている。帯は黒で引き締められて、金色の帯留めが美しかった。


 「これ?確かに綺麗だけど、自分じゃ絶対選ばないなあ。なんとなく青とか紺とかが似合うかなと思ってて」

 「そうか?ヨーカには絶対これが似合う。これを買え」

 「そう……?」


 葉花がその浴衣の値段を見ると、浴衣と帯、小物をふくめて、およそ四万円だった。


 「浴衣高っ!!」

 「買えないのか?」

 「いや、買えない事は全然ないけど、思っていたより高くてびっくりした」

 

 葉花が、うーんとうなっていると、ノックと共に休憩室の扉が開いた。


 「お疲れ様でーす!あ、葉花さん、休憩ですか?あ、その雑誌!」

 「莉子ちゃん、これ莉子ちゃんのだったの?ごめんね、勝手に見ちゃって」

 「いえいえ!全然かまわないですよ。葉花さんも浴衣買うんですか?」


 後輩の莉子が、葉花が開いているページをのぞき込んできた。


 「あ、う、うん。浴衣もいいかなあって見てたんだけど、意外と高くてびっくりしたよ」

 「そうなんですよね。でもほら、来月ボーナス出るじゃないですか!」

 「あ、そうか。そうだね!」

 「で、葉花さんはどんなの買おうとしてるんですかー?」


 莉子がぐいぐいと間を詰めて来る。葉花より三つ年下の彼女は、とにかく明るくて話し好きだ。時々うっとおしいと思う時もあるが、基本素直で、話す内容も愚痴や誰かの悪口などほとんどなく、遊びや趣味の事が多いので、葉花は割と彼女を気に入っている。


 「これとかどうかな?」


 葉花はおそるおそる、金魚柄の浴衣を指さす。

 莉子は意外そうに、葉花の顔を見る。


 「やっぱ私には派手だよね!はははっ!」


 慌てて葉花が言いつくろうと、莉子は、ぱっと顔を輝かせる。


 「そんなことないですよ!葉花さんがこういうの選ぶと思わなかったから、ちょっと驚いたけど、これ絶対葉花さんに似合いますよ!めっちゃいいです!ぜひこれにしましょう!」


 莉子はぶんぶんと手を振り回すと、なぜか目を輝かせる。


 「葉花さん、いつも私服地味だから、絶対、紺とか青とか選ぶと思っていました!ジーンズにTシャツばっかなんですもん!だからこそ、浴衣はこのぐらい派手なのがいいです!葉花さん、美人なのに私服でだいぶ損してます!」


 なにやら、けなされているような気がしないでもない、と葉花は思いつつも莉子が金魚の浴衣を似合うと言ってくれたことが嬉しかった。四葉は、いやにパワフルな莉子を見てぽかんと口を開けている。もちろん莉子には四葉は見えていない。


 「葉花さん!今日早番ですよね!私もなので終わってから一緒に浴衣買いに行きませんか?この浴衣のお店、わりと近いですよ!?私の浴衣も選んで欲しいし、ね?行きましょうよ!」

 「え?今日?」

 「こうゆうのは思い立った時に買わないと、葉花さんの場合、ま、いっか、って言って花火大会すらジーンズにTシャツで行きそうですからね!」

 「……確かに。その雑誌に書いてあるお店も知らないし」

 「でしょう?じゃあ決まり!よし!そうと決まれば午後も頑張るぞ!」


 莉子が拳を天井に向けて意気込む。葉花はふっと笑うと、真似して拳を上げた。


 仕事が終わると、葉花は莉子に引っ張られながら、目当ての店に来た。四葉は莉子がいるので黙って後ろからついてきている。

 浴衣売り場に行くと、そこには色とりどりの浴衣が並べられて、若い女性でにぎわっていた。

 莉子は、例の雑誌を手にすると、葉花の手を引っ張ったまま、店員の元へと行く。


 「すいません!この浴衣、試着したいんですけど」


 莉子は金魚の浴衣を指さして、店員に見せる。おっとりとした美人の店員はにっこりと微笑むと、すぐに目当ての浴衣を持って来た。


 「こちらが試着室です。ごゆっくりどうぞ」

 「葉花さん!ほら、着てみてください」

 「え!でも着方が分からないんだけど!?」

 「それでしたら、わたくしがお手伝いしますよ。服を脱いで、横にかけてある白い襦袢を着たらお呼びください」


 店員は、満面の笑顔で葉花を試着室に押し込む。そこは、普通の試着室よりかなり広かった。葉花は靴を脱いで下着になると、横にかけてある真っ白な薄い布でできた襦袢を着る。


 「あの……、着ました」


 葉花が頼りなさげな声で、カーテンの向こうに声をかけると、さっきの店員が、カーテンの隙間から顔をのぞかせて、『失礼します』と言うと、さっと身体を滑り込ませて、試着室に入って来た。店員は葉花の襦袢を軽く直すと、金魚の浴衣を手に取ってにっこりと笑う。


 「はい、では羽織ってください」

 「は、はい」

 「着付けの仕方を説明していきますね。まず、こう肩から真っすぐ浴衣が落ちるように整えて、襟は左前です」


 店員は、説明をしながら、鮮やかな手つきで着つけていく。ふと葉花が鏡に映った後ろのカーテンを見ると、莉子がにやにやしながら、顔だけカーテンの中に入れて覗いていた。そして、莉子の顔の下には、四葉が同じように顔だけカーテンの中に入れて、葉花をじっと見ている。


 「莉子!よっ……」

 

 四葉と言いそうになって、思わず口をつぐむ。


 「まあ、お友達もよろしければ着付けの仕方を見ていきますか?」


 店員がくすくすと笑いながら尋ねると、莉子は喜んで試着室に入る。四葉もカーテンをすり抜けて入ってくる。このために試着室が広いのかと、葉花は納得した。

 店員は、丁寧に着付けを説明しながら、着々と浴衣を着せていく。


 「はい、これで浴衣は出来上がりです。次は帯ですね。このセットの帯でよろしいですか?値段は上がってしまいますが、他の帯もお選びいただけますよ?」

 「いえ、黒がいいと思うので、セットので」

 「はい。かしこまりました。では、帯の結び方ですが……」


 店員が手際よく帯をしめていくの見ながら、葉花はこれを自分ができるのかと不安になる。


 「はい、完成です。とてもよくお似合いですよ」

 

 帯の結び方を忘れないようにと、ぶつぶつ言いながら、手を動かしていた葉花は、店員の声に顔を上げた。鏡に赤い金魚に黒い帯の葉花が立っていた。葉花は自分でもその姿に驚いた。思っていたよりも似合うように見えたからだ。


 「葉花さん!めちゃくちゃ素敵!すごくすごく似合う!」

 「ええ、線が細くて、色白ですし、染めていない黒髪なので、白と赤が映えますねえ」


 店員はそういうと、下駄を準備して、葉花を促す。


 「ささ、履いてみてください」


 そう言って、下駄を履かせて、試着室の外に連れ出すと、より明るい場所で、葉花を鏡の前に立たせて、『失礼』と言って、葉花の髪をさっと後ろで団子状にまとめると、赤い金魚柄のかんざしをそこに挿した。


 「葉花さん!素敵すぎる!!!」


 莉子が大声で言うので、葉花は恥ずかしくなり、わたわたと周りを見わたす。

 何人かの女性が葉花を見て、ぼうっとした顔をしていた。思わず足元の四葉を見る。


 「だから言っただろう。それが一番似合うと」


 まるで表情を変えずにそんな事をいう金色の豹に、葉花はくすりと微笑んだ。

 その表情を見て、店員と莉子も思わず葉花に見とれていた事を、本人気づきもしなかった。


 浴衣を脱ぐと、今度は莉子の浴衣選びに付き合った。莉子は散々迷った挙句、黒地に濃いピンクと淡いピンクのバラが豪華な浴衣を選んだ。

 葉花が、取り置きしてもらっていた浴衣の会計をしに行くと、先ほどの店員が笑顔で対応してくれた。葉花が金魚のかんざしも一緒にと頼むと、店員はますます笑顔になる。


 「一緒に行く彼氏がうらやましいですわ」


 葉花は引きつった笑いを浮かべると、大きな紙袋を受け取って、莉子と共に店を出た。

 莉子は充実した足取りで大通りを進んで行って、『また明日』と言って駅で別れた。

 葉花はその駅より少し離れた地下鉄に乗ろうと、路地に入ってから、横の公園を突っ切る。

 公園に入って周りに人がいなくなると、四葉が話しかけてきた。


 「ヨーカ、随分騒がしい人間だったな」

 「莉子の事?」

 「そうだ」

 「ごめんね、うるさかった?」

 「なぜヨーカがあやまる?それに騒がしいだけで、嫌いではない。奴のおかげでその服も買えたのだからな」

 「本当だね。一人じゃ買いに行かなかったかも」

 「そうだな。それに……」


 言いかけて、四葉は話すのをやめて立ち止まる。耳がピンと立って、何かの気配を感じとるように、視線をさまよわせている。


 「四葉、どうしたの?まさか、またリムル……?」


 葉花は四葉の様子に、緊張して辺りを見わたす。


 「リムルだが、知ってる気配だ」


 四葉はそう言って駆けだす。葉花も大きな紙袋を抱えて後を追った。四葉はどんどん公園の奥へと入って行く。夜中の公園は街灯があるにしても薄暗く、いつ変質者がでてもおかしくないような場所だ。公園の入り口にも、痴漢に注意と立て看板があった。葉花はびくびくしながらも、ますます奥へと入って行く四葉を追う。

 四葉は公園の端の茂みまで来ると、足を緩めて、警戒しながら、茂みの奥へと入って行った。

 葉花は、立ち止まって四葉の様子をみていた。すると、すぐに四葉の呼ぶ声がした。


 「ヨーカ、こっちに来い」

 「何かいたの……」


 葉花はおそるおそる、茂みの奥に足を踏み入れる。


 「え?翡翠?」


 そこには、翡翠がうずくまるように座っていた。


 「ヨーカ、こいつ随分消耗しているぞ」


 よく見ると、翡翠の身体がだいぶ薄くなっている。翡翠は目を瞑ったまま動かない。葉花は翡翠の横に座ると、翡翠の顔をのぞき込みながら名前を呼ぶ。


 「翡翠!翡翠!大丈夫!?」

 「一気にリムを消耗して意識が飛んでいるのだろう」

 「どうしよう!あ!柴垣さんに電話してみる!」


 葉花は柴垣に電話をするが、すぐに留守番サービスになってしまい繋がらない。葉花は仕方なく伝言だけ入れて切った。


 「四葉どうしよう!このままじゃまずいよね!?」

 「じっとしている分には今すぐどうこうなることはないが、何日も放っておけば消滅するな」

 「すぐに消滅することはないんだね!良かった」

 「だが、シガキがリムを与えんことには回復はしないぞ」

 「私のリムをあげられないかな?」

 「前も言っただろう。契約していないリムに触れてリムを与える事はできないと。与えようとするなら、奴にお前の血液を飲ませてから与えるか、肉ごとくわせるしかない」

 「怖い事言わないでよ!そうか、血を飲ませればいいのね」

 「お人よしめ。私の分は取っておけよ」

 「分かってるわよ」


 葉花はカバンから安全ピンを取り出すと、指先を指した。

 ぷっくりと血が出ると、翡翠の顔を抱えて、指先を口元に向ける。


 「翡翠!起きて!ねえってば!」


 目を覚まさない翡翠に、葉花は口を開けさせようと、ぐっと顎を掴んで頬を押すと、わずかに口が開いた。すかさず指を突っ込んで血を舌の上に乗せる。


 「なんか絵面的に犯罪を犯している気分だわ」

 「そうか?」

 「うん、相手がこうも美少年だとね」


 葉花の指先で舌が動く感触がした。


 「翡翠!?」

 

 翡翠の瞼がぴくりと動き、ゆっくりと目が開く。翡翠は意識がぼんやりしているのか、じっと葉花を見たまま動かない。葉花はもうリムを流せるだろうと、まだ翡翠の口の中にある指先に集中する。リムが集まった感覚がすると、それを翡翠の中に流していく。


 「あ、流れていったかも」

 「少しづつにしろよ。いきなり大量に流すと吐くかもしれんぞ」

 「え……。リムルって吐くの?」

 「冗談だ。だが、ここまで弱っている所にお前のリムは強烈すぎるからな」

 「なんか失礼ね」


 葉花と四葉が言い争っていると、意識が戻ってきたのか、葉花の顔を見ていた翡翠が身じろぎして目を丸くする。

 葉花は慌てて翡翠の口から指を抜こうとすると、翡翠の手がそれを止めた。そして、そのまま、とろんとした目で葉花の指に吸い付く。


 「え、ちょっと、翡翠?」

 「なに?」


 葉花の指から口をしぶしぶ放して、不機嫌そうに返事をする。


 「大丈夫?」

 「大丈夫じゃないよ。早く、リムちょうだい。あんたのリム、すごい。こんなのはじめてかも」


 翡翠はぺろりと葉花の指をなめて口に含む。あまりの色っぽさにリムを流すのも忘れて翡翠を見ていると、翡翠が指を甘噛みする。


 「ヨーカ、早く」

 「あ、う、うん」

 「ヨーカ。私の分を忘れるなよ」

 「分かってるよ」


 しばらく流していると、透けていた翡翠が元の状態に戻ってきた。


 「良かった。治ってきたよ。翡翠どう?」

 「うん、まだ全然足りてないけど、意識ははっきりしてきた」

 「柴垣さんはどうしたの?電話したんだけど、出てくれなくて」


 葉花の問いに、翡翠はがばっと起き上がるが、ふらついて地面に手をつく。


 「ムドウを助けに行かないと!」

 「翡翠!まって!そんなんじゃ無理だよ!何があったの?リムルがでたの?」

 「そうだ。あいつ、一体かと思ったら、二体に分裂しやがった。一体が後ろから不意打ちしてきたんだ。奴らはムドウを狙ってる。早くしないと、いくらムドウでも一人じゃ……」

 「おい、緑の。シガキはどっちに行った?」


 四葉が仕方がなさそうに、ふんと鼻を鳴らす。


 「え?金色が行ってくれるの?」

 「仕方がないだろう。だがお前が来るまでだぞ。さっさと回復して追って来い。私はシガキの為に無理をするつもりはないからな」

 「分かった。頼む。ムドウはあっち、あの高いビルの方に行ったよ」

 「分かった。ヨーカ、行ってくる」

 「絶対に無理しないでね!私もすぐ行くから!」


 四葉はくるりと向きを変えると、一気に夜の空に向かって駆けだして行った。


 四葉が暗闇に消えると、葉花は翡翠を後ろから抱きかかえるように座りなおした。

 相変わらず翡翠は葉花の指を咥えて離さない。


 「ねえ翡翠、指だけじゃなくて触れている部分すべてからリムを流しても平気?四葉はあんまり一気に流すなって言ってたんだけど。翡翠もなるべく早く追いかけたいでしょう?」

 「え?ボクはいいけど、ヨーカは平気なの?もう結構ボクに食われているでしょ?」

 「量は全然まだまだ平気。だから流す量を増やすよ。いい?」

 「え?いいけど」


 葉花は翡翠に触れているいる部分全てから、翡翠の中へとリムを流していく。すでに、葉花の血が翡翠の中全体に回ったのか、スムーズに流れ始める。だが契約をしていないせいか、四葉に流すほど沢山の量を送れない。それでも、指先だけからよりはずっとリム量は増えた。


 「翡翠どう?」

 「……」

 「翡翠!?」


 返事をしない翡翠に、葉花は一旦リムを弱めて、顔をのぞき込む。

 翡翠はとろんとした顔で、まるで酔っているかのように顔を赤らめている。


 「翡翠!やっぱり四葉の言う通りだったのかな……。流しすぎた?」

 「だ、大丈夫……。ヨーカ、おねがい……そのまま、して……」

 「ちょっ!そんな顔でそんな事言われると鼻血出そうなんですけど!」


 葉花は翡翠を直視しないようにしながら、できる限りの量のリムを送る。それなりの量のリムを翡翠に与えた頃、葉花がそっと翡翠を見ると、翡翠は恍惚とした表情はしているものの、先ほどとは違って、目がギラギラと凶悪に光っていた。


 「翡翠?かなり流したと思うけど。どう?」

 「ヨーカ、もう充分。助かった。ムドウの所に行く。お礼は後で」


 翡翠が身体を起き上がらせながら、葉花にそう言うと、翡翠の身から、ゆらりとリムがにじみ出た。その瞬間、ぶわっという風圧と共に、翡翠は消え去った。

 風に舞った葉が、ふわりと葉花の膝に落ちた。


 「ちょっと!置いていかないでよー!」


 葉花は一人薄暗い公園で叫んだ。

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