Les gens que je aimais
「ごめんね、睦美ちゃん。巻き込んじゃって」
ベッドに横たわったまま、彼女は謝罪の言葉を口にした。僕の手には、江木さんの私物からくすねてきた注射器が握られている。治療を施す器具で殺人を犯すというのも、なんだか不思議な感じだ。
「何言ってるんです。僕は自分の意思で、貴女に協力してるんですよ。今さら謝罪なんて無用です」
「うん、ありがとう……。睦美ちゃんは優しいわね。本当に何もかもあの人にそっくりなのね。この数年、今でもあの人と一緒にいるみたいで楽しかったわ。ありがとね、睦美ちゃん」
百合子さんの優しい声を聞いて、僕は胸が締め付けられる。今から僕はこの人を手にかけるんだ。そう思うと、恐怖で手が震える。この数日、幾人もの人を殺してきたというのに、慣れることはない。彼らの命を奪う感触が、今でも手に残っている。
百合子さんはそんな僕の心中を察したのか、両手で優しく包み込んでくれた。
「だいじょうぶ。何も怖がることなんてないわ。私たちのしたことは到底許されることじゃないかもしれない。けれど私たちは正義の鉄槌を下しただけなのよ。あの人を殺したこの世界に罰を与えただけだわ。
あなた以外のみんなは、広間に集まってみんなで寝ているみたいね。私を殺した後、睦美ちゃんも広間に行きなさい。そうしてアリバイを作るの。江木藤次郎が死んだ今、正確な死亡時刻はわからないから、誰が怪しいとは言えなくなる。あなたは無実を貫き通すのよ。状況が悪くなったら、さっさとみんなを殺してしまえばいい。元よりそうする予定だったんだから。
睦美ちゃん、あなただけは決して死んじゃだめよ。あなたにはあの人の分まで生きてほしいの。これが、私の最期の願いよ」
そう言って百合子さんは僕の額に優しく口付けた。まるで、母親が子どもを慈しむかのように。
僕は注射器を握る手に力を込めた。できれば苦しまずに死んでもらいたい。そのために自分の腕で何度も練習した。
「ありがとうございます、百合子さん。僕も兄貴も、貴女に会えてしあわせでしたよ。貴女と共に過ごしたこの数年、とても楽しかったです。兄貴が貴女に惚れた理由がよくわかりました。
今まで、ありがとうございました。あいつらに復讐できてよかったです」
僕は溢れそうになる涙をぐっと堪えて、百合子さんの白くて細い腕に針を刺した。ぷつりと紅く血が滲んだ。
すべてが終わった後、僕は独りで静かに涙を零した。
惚れた女性を自らの手で殺した。そのことがただただ辛くて、夜が明けるまで、僕は泣き続けた。