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ローラは伯爵家の五人兄妹の四女だった。
一番上は息子だが下の四人が娘で、この国では男性しか爵位が継げないため、両親がもう一人跡継ぎの保険にと、子供を頑張ったのだが希望通りにはならず、長男の後は四人続けて娘だった。
そもそも伯爵家は子供には恵まれたが代々女系で、伯爵本人も入婿だったし、その前も更にその前もほぼ入婿だった。しかし今代は奇跡的に第一子で息子を授かり「また息子を!」と両親が期待して頑張った結果が四人の娘だった。
恐らくそれ以前の代も息子を希望して、子沢山を繰り返しているのだろうと想像に難くない。
幸い伯爵家の長男は健康に育ち、後継の資質にも大きな問題はなかった為、爵位は長男が継ぐ事になったが問題は下の四人の娘達だった。
娘達は上からローザ、ローズ、ローゼ、ローラと適当に名前を付けられたが、それでも真っ当に育っていた。
長女のローザはしっかり者で、貴族学園に通っている間に自身で、商売で成功していた子爵家嫡男を見付けてきて学園卒業後、結婚して家を出た。
次女のローズは容姿も成績も性格も、全てにおいて普通だったが運だけは良かった。ローズの一学年上の高位貴族の令嬢達が、こぞって平民出身の男爵令息に入れ上げ、卒業式に大規模な婚約破棄事件を起こした。
そのお陰で婚約者を失った侯爵令息の婚約者に急遽納まった。
伯爵家は女系ではあったが、多産でもあった為「娘でもいいから子供が欲しい」という家には多少人気があった。だから三番目のローゼにも婚約破棄事件のお溢れが回って来て無事に伯爵令息と結婚できた。
だが問題は四番目だ。
伯爵家は三人の娘を嫁に出し切り、すでに財政的に息切れを起こしていた。そもそも二番目、三番目も相手の足元を見て、商売上手の家に嫁いだ長女ローザが持参金を値切ったのだ。
それでも四番目の持参金の捻出は難しかった。
幸い末っ子はまだ16歳だ。18歳で学園を卒業するまでには財成を何とかせねば!となったのだが、長男は大事に育てられ過ぎた“温室のモヤシ”のような男で、今は父親と領地にいるが、あまり頼りになりそうになかった。
それでもローラは上の兄姉をよく見て育ったので、わりとクールで小賢しく、世渡り上手だった。
「お母様、お姉様、私はこの家が心配なので嫁げなくても、ちゃんと“モヤシ”を育てて見せますわ。でもモヤシって成長すると何になるの?」
とニコニコと無害そうに、有害発言を繰り出せる娘だった。
ローラの地頭はそう良くはなかったが、空気を読み、要領が良かったので学園の成績も良く、教師や先輩、令嬢の友人達にも可愛がられていた。
姉達はお嫁に行った後も、よく実家に遊びに来ていた。
姉達の夫は皆、重職に就き忙しく、長く家を空ける事も多かったからだ。
だから、いつも姉の誰かしらが家にいて、両親も兄も「ええと…ローズか?あ、いやローゼか?」といつも姉達の名前を間違えていた。
大体、姉妹を似たような羅列の名前にするからいけないんだ!
彼らは最早、長女の名前すら、どれだったかも覚えていなさそうだ。
「お父様、お母様、お兄様、“ザジズゼゾ”ですわよ。でもジとゾがおりませんの。三番目のお姉様なのでローゼ姉様ですわ」
「おぉっ!そうだった。それでお前はどれでも無いローラだ!」
「はい。そうですわ」
こんなやり取りが日常だった。
だがローラが18歳になる前に、大きな転機が訪れた。
ある日、婚約破棄事件に遭った高位貴族の令息五人が一同に集まったのだ。理由は一つ、五人のうちの一人だけが、まだ結婚できていなかったからだ。
彼は皇家の流れも汲む家柄で、容姿、財力、知力、全てにおいて優秀な若き公爵だったのにだ。
その彼は、なかなか婚約者が決まらずに悩んでいた。
彼はそれを、かつての学園の友人達に相談したのだった。
「なぁブランドン、皇太子殿下や皇帝陛下にも相談したのだろう?」
皇太子は彼の従兄弟で陛下は彼の伯父にあたる。
「あぁディラン、皇后様には特に事件直後から気に掛けて頂いて、令嬢も何人かご紹介頂いたんだ」
「皇后様の紹介でもダメだったのか?原因は何だ?令嬢方は何て?」
「あぁスティーブ、彼女達は皆「私ではダメだわ。ブランドンごめんなさい」って。ま〜母も彼女らを追う価値はないって言うからさ」
『あ〜……』
ブランドン以外の全員が、心の中でそう声を上げた。
「でも何がダメだったのだろうか?なあデビッド?」
「えっ?!わっ私にはサッパリ原因は分からないな。レイはどう思うか?」
「ハッ?!…ブランドン、そんな事よりディランとデビッドの奥方の妹がまだ残っていただろう?」
「ああ四姉妹の末っ子か。確か今17歳だろ?」
「若いな?公爵夫人が務まるだろうか?」
『そんな事より…もっと重要な問題があるぞ!』
声には出せないが、ブランドン以外の四人の心は一つだった。
「公爵夫人の仕事は追々でもいいだろう?とりあえず跡継ぎは期待できるぞ!なんせ多産の伯爵家だ」
「だが…女系だろう…?」
とブランドンはディランとデビッドを見る。
確かに二人のところの第一子は共に娘だった…だが!!
『それよりも問題があるだろう?!』
と二人は揃ってブランドンを目力を込めて見返す。
その視線に「贅沢言うな!」と言われたと勘違いをしたブランドンが言う。
「そうだな。母に相談してみるよ」
『出たっ!!』
四人全員がまた同時に思った。
そうブランドンは自覚なしの、恐ろしい程のマザコンだったのだ…。
お昼にもう一話投稿予定です。




