オートロックの扉
少しずつ少しずつ
自分の体力が無くなっている事に
気付いてはいたが
どうすることも出来ずただ毎日の仕事と
子育て介護を繰り返す日々。
そろそろ夜の風がひんやりとし始めた頃。
変わらず徘徊を繰り返す母の痴呆が
季節の変わり目で進行したようだった。
ある晩のこと23時過ぎに帰宅すると
一階の自動販売機の影に
うずくまる人影を見つけた。
それはおろおろとした母の姿だった。
母は僕を見つけると
「あんなここの扉どうやっても開けへんねん」
と子供のように告げてきた。
自転車を停め母の隣まで行くと
母の履いていたスカートは濡れていて
どうやら我慢出来ず漏らしてしまった
ようだった。
きっといつもの僕なら呆れて怒っているか
文句を言っていただろうに
その時は何故か母がとても哀れに感じ
「ごめんなー寒かったやろ早くに家に入ろう」
とオートロックの扉を開けた。
母の顔はみるみる輝き
「そうやったら開くんかー」
と嬉しそうに笑った。
僕は母を風呂場に連れて行きお風呂を沸かして
母が入浴したのを扉越しに確認すると
一階にバケツとモップを持っていき
母の汚したロビーの掃除をした。
生まれて初めて母の下の片付けをしたが
思っていたより抵抗は生まれなかった。
それよりも早く片付けないと
近所の人にお漏らしをした母を知られるのは
可哀想だなと言う感情でモップを走らせた。
少しずつ壊れていく母が
とても不憫に感じた一日だった。




