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新しい時

公青が、宮へとやって来た。

昨日には維心も、単身維月に会うためにと月の宮へとやって来ていた。

維月は維心が来てからずっと維心の対に缶詰になっていて出て来ることが出来なかった。維心が離してくれないからだ。

なので、公青を迎えに出たのは、蒼だけだった。

「して、知らせがあったゆえもう、西へ連れ帰ることはないとは思うたが、輝章殿と顔合わせをしておいた方がよいかと思うて。宮をほったらかしで出て参った。長居は出来ぬから、早ようしてくれ。」

蒼は、苦笑した。公青はなんだかんだ言っても結蘭を案じていて、このたった一人の妹の新しい夫が誰なのか、しっかり見ておこうと急いで来たのは分かったからだ。

蒼は、歩き出しながら言った。

「結蘭殿が、寝る前にふらりと北の庭へ出ておったらしゅうてな。輝章殿がそれを見初めて、ずっと話しておったそうな。そのまま時を忘れて話しておったら、朝になって日が昇ってしもうて…誰かに見咎められてこんな行き掛かりで婚姻などはならぬと思うて、慌てて結蘭のことは奥宮脇の待機所へ押し込み、客間へ帰って機を計っておったら、結蘭の侍女が結蘭が居らぬと大騒ぎになり、輝章殿は改めて結蘭に婚姻を申し込んだのだそうだ。ま、元より時を忘れて話し込むほど気が合うのであるから。あれからは、客間を共にして、共に休んでおるよ。」

公青は、息をついて、拗ねたように横を向いた。

「二夫にまみえるならば、ようよう考えてと思うておったのに。また苦しむことになってしもうてはならぬではないか。輝章殿とは、安芸の妃の父親であったか?歳はいくつであろうの。あまりに歳が離れておっても上手く行かぬのではないかと案じられる。」

蒼は、また苦笑した。

「輝章殿のほうが20ほど年下ぞ。輝章殿は、人との婚姻であったゆえな。前の妃はもう亡い。」

公青は、安心したように頷いた。

「そうか、ならば良いかの。安芸の妃は、大層にしっかり者の気の強い女であるらしい。妃には珍しくよう働くのだと聞いておる。輝章殿も、そんな感じかの。だが、ならば結蘭は疲れぬかの。」

蒼は、ため息をついた。

「会って本人に聞いたら良い。そんなに心配なら、なぜにここに預けきりでいたのだ、公青。」

公青は、ふんと鼻を鳴らした。

「ここであるから安心しておったのだ。だがしかし、こんなことまでは確かに防げぬわな。」

蒼は、頷いた。

「居るだけならいいと言ったじゃないか。オレはそこまで面倒見れないよ。」

そうして、公青と蒼は、結蘭と輝章が待つ応接間へと向かったのだった。


応接間では、輝章と結蘭が仲睦まじげに寄り添って、笑い合っていた。話が弾んでいるようだ。何か邪魔をしたような気になりながら、蒼は言った。

「公青を連れて参った。」

二人は、それに気付いて慌てて立ち上がった。

「公青殿。」

輝章は、頭を下げた。公青は、会釈を返した。

「主には初めててであるの、輝章殿。安芸の妃の父だと聞いておったので、もっと年上かと思うておったが、結蘭より若いと。」

輝章は、顔を上げた。

「はい。訳あって人世に暮らし、人との婚姻で妻は亡くして神世に戻って少しでございまする。」と、結蘭を見た。「此度は我の申し出を結蘭殿にお受け頂き、婚姻となり申した。公青殿には、ご報告が後になってしまったこと、お詫び申し上げる。」

公青は、輝章の落ち着いた穏やかな様に、蒼より癒されるような気がした。あの宮の神は、闘神ではないという。確かにこれは、箔翔との婚姻で傷ついた結蘭には、良い相手のようだ。

「…安心した。」公青は、結蘭を見た。「略奪のようなものと侍女から聞いた時にはまたどんな相手かと肝を冷やしたが、これならば良縁ぞ。あれらもなぜにきちんと見ておかなったかと、我に責められるのを恐れて、あのようなことを申したのだの。」

結蘭は、慌てて首を振った。

「そのような!輝章様はお話をしてくださっていただけですの。我が夢中になって時を忘れてしまい、夜が明けてしまいました。」

それには、輝章も慌てて割り込んだ。

「いや、あの場合は我が気をつけておらねばならなんだのだ。」と、結蘭に微笑みかけた。「しかし、毎日が楽しゅうてならぬのだ。会えて良かったと思うておる。」

結蘭も、赤くなりながらも微笑み返している。公青は、肩をすくめて蒼を見た。

「なんぞ、何も案じる事など無かったではないか。急いで来て損をしたの。」

蒼は苦笑した。

「勝手に案じておったくせに。」

すると、背後から声がした。

「邪魔をするぞ、蒼。」皆が、驚いて振り返る。「祝いを述べねばと維月がうるさいゆえの。」

そこには、維月の手を引いた維心が立っていた。全員が、慌てて頭を下げる。維心は続けた。

「祝い事続きでめでたいことよ、公青。奏は二人目を宿しておるそうな。ここで世話になっておった時には思いもせぬことぞ。」

公青は、顔を上げた。

「まさかここに龍王が居るとは思わなんだ。ご丁寧に祝いを感謝する、維心殿。」

維心は頷いて、輝章を見た。

「妃から聞いた。めでたいの。我からまた宮に向けて祝いを贈らせようぞ。公青の妹を射止めるとは、金星であるぞ。主の宮の、神世に対する貢献は、多大なものとなろう。」

輝章は、深く頭を下げた。龍王に目通りすることなど、王族でも王でなければなかなかに無いことなのだ。

「は!わざわざのお運び、ありがとうございまする。」

さすがに緊張しているようだ。維月が嬉しそうに微笑んだ。

「私からも祝いを。良かったこと…大変に案じておったので。でも輝章様ならば、何事も穏やかで良い縁でございまするわ。」

結蘭が、何か言いたそうに維月を見た。

「維月様…。」

維月は、結蘭を見た。

「結蘭殿には、これよりは幸福にと願っておりまする。」

結蘭は、涙ぐんで頭を下げた。

「ありがとうございまする。」

維心が、蒼を見た。

「して、蒼。めでたい事が続いたゆえに、ここで宴を開いてはどうか?明日には輝章も結蘭を連れて宮へ戻ると聞いておる。我が宮から酒を運ばせておるゆえ、振る舞ってやると良い。」

龍の宮の酒は、神世でも超一流品だ。公青は、仰天した。

「そのような事まで?ならば我も残る。」

蒼は、呆れたように公青を見た。

「何を言うておるのだ。政務は?残して来ておるのだろうが。」

公青は、首を振った。

「龍の宮の酒は驚くほどに美味であった。奏宛に祝いだといくらか送って来て、それを飲んで皆大騒ぎだったのだ。我とて結納の折に口にしてから忘れられぬでな。無くなってはならぬとちびちび飲んでおるのだぞ。思い切り飲みたい。」

維心が笑った。

「神世では我が龍達が造る酒が最高級の品だと言われておるからの。あれらは我にしか酒蔵に入るのを許さぬほど、あの酒を大事に育てておるのだ。我が宮でしか飲めぬもの、我が許した時にしか蔵から出ぬ。確かに思う存分飲みたければ、今日しか機はないやもの。」

公青は、蒼に抗議するように言った。

「そら、このように。我は残る。」

維月は笑いながら言った。

「良いではないの、此度は維心様もたくさんお持ちになられておるの。西との関係がより強固になると喜ばれてのことなのよ?」

蒼は、息をついて頷いた。

「じゃあ、そのように。準備させよう。」

公青は、嬉しそうに笑った。

「おお、ほんにめでたい。ささ、早よう準備をさせよ、蒼。」

蒼は、急かせる公青に押されて出口へ向かった。

「こら、急がせるな!」と、皆を振り返った。「では、宴の席で。」

蒼は公青と共に出て行く。

輝章と結蘭は、それを目を丸くして見ていたが、目を合わせて微笑み合っている。

維心と維月も、それを微笑ましく見ていた。

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