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審判

「全ては、我が月と維心殿、そして箔翔殿に協力を要請し、定佳と甲斐に命じて行なった、主らを試すための、芝居であったのだ。まず、地は変調などきたしておらぬ。」

翠明は、驚いた顔をした。

「では…全て、偽りと。」

公青は、頷いた。

「その通りよ。もうすぐ一年になる。我は、主らが順調に学んでおると維心殿と箔翔殿から聞いて知っておったが、本当に見極める必要があると思うていた。本当の姿は、己に機がめぐって来た時どう判断するかで分かるもの。月に相談して、気を操作出来るその能力を借りることにした。そうして、主らだけにその気を残すのだ。定佳と甲斐には、真実翠明と安芸が乗って来るよう、しっかりと誘うのだと命じていた。」

甲斐が、安芸を見た。

「我は、主らの策をしらなんだ。なので真実箔翔殿を殺したのだと思った。あの時主を殺してしまおうとしたのは、そのためぞ。」

箔翔は、頷いた。

「なので我は、安芸を助けたのだ。死んでなどいなかったからの。甲斐を捕らえたいので、油断させるためそういうふりをしてくれと言われたからぞ。」

定佳も、頷いた。

「我も真実維心殿を殺してしもうたのかと思うた。維月殿のことは突然の事で想定外であるし、軍神達も倒されて、倒さねば己の命が危ないと感じて応戦しておった。」

公青は、頷いた。

「月が上手く気を操作しておったゆえ、分からなんだであろう。我は、一部始終を見ておった。主らの念でのやり取りも聞いていた。充分かと思うたが、命が懸かると分からぬと思い、最後まで見たということぞ。」と、翠明と、安芸を見た。「ようやった。主らの意識はもう、我より高いやもしれぬぞ。軍神達も待っておる。宮へ帰るが良い。今一度、王として民のために生きるのだ。だが、二度はない。」と、定佳を見た。「主もぞ、定佳。上手く騙せたと思うておるやもしれぬが、主の嘘は知っておる。この中では、今や主が一番心配ぞ。意識を高めねば、いつなり我は主を罰する事が出来るのだぞ。分かったの。」

定佳は、顔を赤くした。そうして、頭を下げた。

「は。肝に銘じまする。」

維心は、笑った。

「めでたいの。やはり誰かの成長を見るのは面白い事よ。二人も王らしい王が誕生して、我も安堵しておる。こちらの宮の王達も、少しは荒療治するべきか。ろくなヤツが居らぬからの。」

公青が、苦笑した。

「必要に迫られてであるから。此度の学びは高くついた。あの戦で何人の軍神が犠牲になったことか…これらは、その上の平和であることを思い、世を正して行かねばならぬ。重い責務ぞ。」

安芸と翠明は、下を向いた。無駄な戦で多数の軍神を散らしてしまった…確かに、それを償わねばならぬ。平和な世を保って…。

そこへ、十六夜の声が降って来た。

《終わったか?》

公青が、上を見て頷いた。

「全ての。これらの気を戻してやってくれ。」

途端に、安芸と翠明は、自分に力が戻って来るを感じた。こんなにあっさりと…。

呆然と手を見つめる二人の耳に、十六夜の声が言った。

《上から見てたが、お前らはほんとに良く頑張ったよ。安芸なんか最初大暴れでどうにもならねぇかと思ったが、翠明より早く自分の内面を見ることに気付いたんだよな。》

安芸は、明るい空のどこにあるのか分からない月に向かって言った。

「あれは、我が己自身で気付いたのではない。月なら知っておろう…月の宮から来た侍女が、我に教えてくれたのだ。己にも解決出来ぬ悩みがあるにも関わらず。」

箔翔が、口を挟んだ。

「凜よ、十六夜。あれが安芸の侍女についたゆえ、話すことが出来たからの。」

十六夜は、箔翔が安芸と凜のことについて話していたのを思い出した。そして、言った。

《そうか。あいつもそろそろ鷹の宮での見習いが終わるよな。》そして、話題を変えた。《それで、維心。公青が面倒なことになって西が荒れたってことで、これからのことをお前は何か考えてるとか言ってなかったか?》

それは、公青も何も聞いていなかったようで、驚いたように維心を見た。翠明、安芸、定佳、甲斐も維心をじっと見つめている。維心は、ふっと笑って維月を見た。維月は、心配そうに維心を見上げている。維心は維月に頷きかけると、公青を見た。

「主は我の血縁を正妃として娶り、その妃との間に月の命のお陰で無事龍ではない跡継ぎにも恵まれ、我も安堵しておるところ。だがしかし、此度のようなことが頻発するようでは困る。これらにしても、考え方が変わったとはいえ、我はまだ心から信用しておるわけではない。なので、こちらのどこかの宮の皇女を、こやつらに娶らせて友好の証としてはどうかと思うておる。」

公青は、片眉を上げたが、ふむ、と言って四人を見た。

「確かに…それも良いやもしれぬな。こちらの宮と、こちらの島の宮が直接に繋がるのは良いこと。我も、こちらの統治に倣ってこれらの宮のことは全てこれらに任せ、維心殿のように法で押さえるようにしようかと思うておるのだ…これらの父王があまりに早よう亡うなったので、全てを見てやらねばと何でも報告を義務付けておったのだが、思えばそれももう良いかと。」と、神妙に聞いている四人を見た。「主らは、どうか?妃が居るのは甲斐だけであるし、それも正妃ではないし、誰でも良いぞ。定佳は?今は主が一番落ち着かねばならぬから、この機会に誰か迎え入れればどうか?」

定佳は、慌てて手を振った。

「そのような!我は…身を固めるつもりもありませぬゆえ。まだ未熟者でありまする。」

公青は眉を寄せた。

「主らは皆未熟者ぞ。では、翠明は?」

翠明も、必死に首を振った。

「我は、これより宮を改革して参らねばなりませぬ。妃に構っておる時間など今はありませぬ。」

公青は、ふーっと息をついた。

「ほんにもう、妃に対しては皆後ろ向きであるな。では、甲斐?主は既に一人居るし、この際一人ぐらい増えても同じであろうが。」

甲斐は、口ごもって下を向いた。

「どうしてもとおっしゃるのなら…しかし、ただ今その妃が身籠っており、あまり気を煩わせたくないという心持ちでございます。」

公青は、最後に安芸を見た。どう考えても、安芸はそんな政略で妃を迎えるタイプではない。答えは分かっているという風情で、言った。

「安芸?」

すると、安芸は身を乗り出して公青の目をじっと見た。

「相手を選ばせてくださるか。」

公青は、安芸があまりに前のめりなので驚いて座りなおした。

「なに?ああ、それは当然妃にするのだし、選べば良い。主、迎えても良いのか?妃であるぞ?簡単に返すなどと言わぬだろうの。」

安芸は、頷いた。

「我が決めて良いのなら、言わぬ。」と、箔翔を見た。「では、帰る前に、我は今一度鷹の宮へ行って準備をしようぞ。公青殿、これよりは我は宮へ直接帰っても良いのか。」

公青は、まだ呆然としながら頷いた。

「ああ…構わぬが。」

安芸は、強くひとつ、頷いた。

「では、そのように。妃が決まれば維心殿にもお知らせを。」

維心は、薄く微笑んで頷いた。維月が、まだ気遣わしげに袖で口元を押さえてそれを見ている。箔翔は、なぜか急がされているような気がして、立ち上がった。

「何やら落ち着かぬの。来たばかりで、もう戻るか。我としてはもうしばらくこちらで羽を伸ばしておりたかったのに。」

維心は、笑った。

「此度は遊びに参ったのではないであろう。また改めて参れば良い。最後まできちんと面倒を見るのだな。」

箔翔は、仕方なくさっさと歩く安芸に急かされながら出て行った。公青が、まだ狐につままれたような顔をして、言った。

「…何事ぞ。あやつはあんなことは誰よりも嫌がるやつで、絶対に承知せぬと思うておったのに。なぜにあれほど前向きなのだ。」

維心は、ちらと公青を見て口の端を上げた。

「いつまでも子供ではないということぞ。楽しみであるの。我も長く妃に何とかしてやれと言われておったことが片付きそうで、安堵したわ。」

公青は、あからさまに眉をひそめた。

「どういう意味よ?」

維心は、維月の肩をまるで抱きしめるかのように抱いて引き寄せた。

「言うたままの意味よ。」と、維月の頬に触れた。「のう維月?これで少し憂いもなくなるというもの。」

維月は、維心を見上げて微笑んだ。

「はい、維心様…ですが、まだ。」

翠明と定佳、甲斐は顔を見合わせている。幼い頃から顔を見て育ったので、安芸の変わりように戸惑っているようだった。

公青は、訳が分からず面倒そうに手を振って言った。

「ああ、もう良いわ。とにかくは維心殿の意向を汲んで、こちらとあちらの友好のため、安芸にこちらのどちらかの宮の皇女を娶らせるということで良いな。」

維心は、頷いた。

「まずは良い。後は追々の。翠明も定佳も、少しは妃のことも考えておけ。いくら若いとは言うて、跡継ぎのことで臣下を煩わすでないぞ。」

二人が、また神妙な顔で頭を下げる。公青が、苦笑した。

「耳が痛いの。我に言われておるような気がしたわ。だがまあ、我もそこは解決したことであるし、月の宮に預けてある妃と子を宮へ迎えねば。」と、立ち上がった。「では、我はこのまま月の宮に寄って帰る。主らも、それぞれの宮へ戻るが良い。軍神達は、もう我が宮へ帰るように支持して来たゆえ。長い間、世話になったのだからこれよりは王として、しっかりと努めるようにな。」

公青が、立ち上がるのを見て、翠明達も立ち上がった。定佳と甲斐も、言った。

「では、我らも宮へ帰る。また話そうぞ、翠明。知りたいことが山ほどあるわ。」

定佳が言うのに、翠明は頷いた。

「また訪ねれば良いわ。甲斐もであろうが。」

甲斐は、頷いた。

「主と安芸の激変が気になるのだ。我ももっと学ぶべきであろうと、主らを見ておって思うた。」

定佳は、肩をすくめた。

「まあ、少しずつの。一度に学ぶには多いような気がする。」

すると、公青がそれに割り込んだ。

「それがいかんのだ、定佳。何なら次は主がここへ修行に出るか?」

定佳は、慌てて首を振った。

「いえ!我は戦後の政務に追われておりまするので!」

慌ててもう足は戸口へ向いている。公青は笑った。

「主は昔から勉学が嫌いであったしのう。困ったやつよな。」

そうやって、公青と翠明、定佳と甲斐はそこを出て行った。それを見送った維月は、維心に言った。

「見た目の年齢は変わらぬのに、雰囲気は何やら、親子のような。此度のことも、子が親を超えたいあまり、無茶をしたように見えまするわ。」

維心は、笑いながら頷いた。

「その通りよ。公青はあれらが生まれた時から知っておるから、気になってつい口を出しておったのだろうの。そしてあれらは、そんな公青に反発しておったのだ。だがしかし、根底にはどこか信頼関係のようなものがあるのやもしれぬ。」

《それにしても戦ってのはよー》十六夜の声が言った。《命がけの反抗期ってやり過ぎじゃねぇか?》

維心は、ちらと窓の外の空を見て、ため息をついた。

「なんだ、まだ聞いておったのか。それで、あちらの軍神達は大丈夫であったのか?公青はもう返したとか言うておったが。」

十六夜の声は、答えた。

《ああ、大丈夫だ。見張ってたが、あいつらすっかり毒気が抜けてなあ。そもそも、軍神達は王に従っただけだったから。聖神みたいになっちまったやつもいた。》

維月は笑った。

「まあ。浄化が利き過ぎたんじゃない?月の浄化の力を強化してるって言っていたじゃない。」

十六夜も笑った。

《はははは、そうかもな!やり過ぎだって、蒼が怒ってたっけ。だが心配ねぇよ。どうせすぐにまた回りに影響されて汚れっちまうんだからさ。》

維心が、苦笑した。

「それは心配ないと申すのか?ま、根本は変わらぬから。我は西の地が今までより落ち着くことを願っておるよ。」

維月は、維心の胸に顔を摺り寄せた。

「維心様…。」

維心は、少し驚いたような顔をしたが、嬉しそうに維月を抱きしめた。

「どうした維月?我が死んだと思うたか。あのように暴れおって…我がそんなに簡単に消されるわけがなかろうが。愛いやつよ。」

十六夜の声が、呆れて言った。

《維月に説明しとかなかったお前が悪いんだろうが。全く、何を嬉しそうにしてやがるんでぇ。やってられねぇから、オレは蒼に無事終わったことを知らせに降りる。じゃあな、近々里帰りに迎えに行くからな!》

十六夜は、維心に反論の間を与えずにさっさと月から気配がなくなった。月の宮へ降りたらしい。

維心は、憮然として言った。

「いつもながら一方的な。せっかくに気分が良かったのに。」

維月は、苦笑してから維心の首に腕を回した。

「そのようにご機嫌を悪くなさらないで。維心様、もうそろそろ夕刻ですわ。日が傾いて来ておりまするし…。」

すると、途端に維心はぱっと表情を明るくして、維月の腰に手を回した。

「おお、もう休むか。主の方からそのように…我が欲しいか、維月。」

維月は、微笑んだ。

「はい、維心様。お連れくださいませ。」

維心は、嬉々として維月を抱き上げると、飛ぶように軽快に奥の間へと歩いて行った。

維月は、最近は特にいつもべったりで側を離れなくて大変だと思っていたが、居なくなるぐらいならその方がずっといいので、維心に何もなくて本当に良かったと思っていた。

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