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結果

その少し前、安芸は箔翔を気で持ち上げて奥の間の寝台へと乗せた。甲斐が、後ろについて来て、それを見ている。安芸は、じっと動かない箔翔を見つめて甲斐に背を向けていた。甲斐が、同じように箔翔を覗き込んで言った。

「たわいもないの。戦場で見た軍神が言うには、これは金色の鷹であったそうな。とても敵わぬ大きな気に、戦う気力も無くなるような様であったと。だが、気を失ってしもうては、一たまりもないの。」

安芸は、言った。

「世を背負うには、力のある神が要る。そんな神が居るからこそ、世は太平に保たれている。そこそこの気を持つ王は、己の力を過信して、全てを治めたいと考えるもの。だが、それがどんなことなのか知らぬのだ。愚かなことよ。」

甲斐は、怪訝な表情をした。

「何を言うておる?」

安芸は、甲斐を振り返った。

「我らのことよ。己の宮の民を幸福にも出来ておらぬ我らが、このような振って湧いた機に力のある王を弑して王座に就いたとして、同じことが出来るのか?我は否と思うぞ。」

甲斐は、険しい顔をして安芸を睨んだ。

「ならばなぜ力を貸すなどと言うた。ここを全滅させるため、我に手伝えと言ったのは主であろう。」

安芸は、頷いた。

「そうよ。」と、手を上げた。「主を捕らえるためにの!」

安芸から、気が発しられた。甲斐は、咄嗟にそれを避けようと同じように気を放つ。二つの気は、ぶつかり合って明るい光を発した。

「何をする!世を押さえるのだと決心したのではないのか!」

安芸は、甲斐を捕らえようと気に力を篭めながら言った。

「そのような覚悟、真実を知った我には出来ぬわ!主には分かっておらぬ…世を統べるという、その重さをの!」

「王!」

外で待機していた軍神達が、気を気取って駆け込んで来た。安芸は舌打ちした…一気に拘束できなかったか。

入って来た軍神達は、その様を見て手を構えた。そうして、甲斐と同じように気を発して安芸を襲った。

「く…っ!」

押される。

安芸は、狭い中でどうにかして皆を一気に拘束してしまえないかとぐいぐいと気で甲斐と軍神達を押した。

「己だけで天下を獲るつもりか!」

安芸は、歯を食いしばりながら、その間から唸るように言った。

「まだそのように低俗なことを言うておるのか!主など地の王の器ではないわ!我もぞ!なぜに分からぬか!」

しかし、長引くと安芸には不利だった。甲斐と軍神達の気は、安芸を押し始める。安芸は、甲斐と変わらぬ大きさの気しか持っていなかった。このままでは、気が尽きる…。

安芸の気が、危険レベルまで下がった。それでも、安芸は甲斐を拘束する気を発するのを止めなかった。どうせ気が尽きなくても、甲斐は自分を殺すだろう。ならば、最後まで抵抗せねば!

安芸は、気力を振り絞って下がり掛けた手を上げた。

「…死ぬつもりか。まあ、それでも良いわ。」

甲斐の声が聞こえる。力が抜けて行くのが分かった。膝に力が入らなくなって来ているのだ。

「ほんにもう。」急に、別の声が聞こえた。「仕方がないことよ。」

その声と共に、がくんと負担が無くなった。目の前の甲斐と軍神達が、まとめて膝をついてその場に転がった。安芸が驚いて振り返ると、箔翔が起き上がって安芸を見ていた。

「何をしておる。拘束せぬのか。」

安芸は、ハッとして慌てて甲斐と軍神をまとめて気で拘束した。箔翔は、ふっと息をついた。

「これで良いか?狸寝入りも難しいものよ、主はほんに面倒なことをさせる。我が奥の間で暴れおってからに。」

すると、それを聞いた甲斐が、気で拘束されたまま言った。

「死んだのではないのか!」

箔翔は、首を振った。

「そう簡単に死ねぬものよな。我は死んだふりをしておったのだ。気も、月に頼めばあっさり抑えてくれる。世には主らも知らぬ力があるのだ。これで一つ学んだの。」

安芸が、箔翔を見て言った。

「だが…気は?今は変動の最中であろう?主はなぜに気が使えたのだ。」

箔翔は、ふっと笑った。

「それは我からは何も言えぬな。」と、甲斐を見た。「主も、死んでも理由を言うなと言われて来たであろう?」

甲斐は、下を向いた。安芸は、訳が分からず甲斐と箔翔を見た。

「何かあるのか。」

箔翔は、頷いた。

「主は、どちらにしても試練を乗り越えたのだ。」と、歩き出した。「参れ。龍の宮へ参る。甲斐も連れて行く。」

甲斐と軍神達の拘束が解けた。ふと見ると、自分の気が再び押さえられた状態になっている。甲斐達は、もはや何の抵抗もなく、箔翔に頭を下げると、それに従った。

安芸は、訳が分からず、一年近く過ごした鷹の宮を飛び立ったのだった。


翠明は、呆然と維心を見つめた。

「…どういうことぞ。主、では、その、気は…。」

もがいていた定佳が、翠明の拘束から解放されて立ち上がった。翠明は、自分の気がまた押さえられた状態に戻っているのを感じた。しかし、拘束が解かれているにも関わらず、定佳は維心に向かって頭を下げた。

「龍王殿。」

維心は、軽く返礼した。

「ご苦労よな、定佳。軍神達は、我が治癒の龍達に診させようほどに。」

すると、わらわらと控えていたらしい龍達が入って来て、倒れる軍神達を気で持ち上げて去って行く。翠明が訳が分からずに居ると、定佳が苦笑した。

「我には何も言えぬのだ。公青殿から決して言うてはならぬと言われておって…詳しくはこれから説明があるであろう。」

維心が、頷いた。

「翠明。主はよう成長した。こちらの神としてどちらかの格の高い王であっても良いほどぞ。僅かの間に、よう精進したの。」

維心が、薄く微笑んでいるのを見た翠明は、それでもまだ意味が分からなかった。そこへ、翠明が聞き慣れていた声が割り込んだ。

「終わったの。いろいろと世話になってしもうて。」

定佳が、慌てて頭を下げる。翠明は、目を見開いた。

「公…青。」

公青は、眉を寄せた。

「公青様、もしくは公青殿と呼べ。我は主より長く生きておるのだぞ。いい加減にせよ、成長してもそこは変わらぬか。」

維心が、苦笑して割り込んだ。

「仕方がないことよ。息子のようなものだと主も言うておったではないか。多めに見てやるが良い。」

公青は、苦笑して側の椅子へと腰掛けた。

「まあ、良い。ところで、箔翔殿も安芸と甲斐を連れてこちらへ向かっておるそうな。もう着くのではないのか。」

維心は、視線を上へ向けた。

「…ああ、結界を通った。もう参るわ。」と、公青を見た。「して?安芸の方も見て参ったか。」

公青は、頷いた。

「ああ。あれの口からあのようなことが聞けるとは、一年前には思ってもおらなんだ。てっきり本当に箔翔殿を殺しに掛かるものと思うておったが…甲斐は役者であるから。」

維心は笑った。

「定佳もかなりのものであったぞ?まあ、我が妃に襲われてもう少しで命を落とすところであったがな。」

維月は、維心の横で赤くなって下を向いた。

「申し訳ありませぬ。まさか、そのような…あの、気が失われておる時でよかったですわ。」

維心は、微笑んで維月を見て、皆の面前であるのに、頬を摺り寄せた。

「一瞬で皆殺しであったところよな。主は優秀であるから、我も気が気でなかったぞ。我の仇であるものな。しようのない妃よ…おちおち死んでもおられぬの。」

維月は、皆の視線が気になって、恥ずかしげにした。

「維心様…お話くださらないからですわ。あの、申し訳ないです。」

公青が、呆れたように言った。

「主らが仲睦まじいのはよう分かったわ。だが気を失ってあの動き。月を侮っておった。」

維心は、ふふんと得意そうに維月の肩を抱く手に力を入れた。

「世にたった一人の月の女ぞ。全てに優秀であるのだ。我には維月しか居らぬ。」

公青は、わかったわかったと手を振った。

「して、そろそろ着いたか?」

維心は、頷いた。

「今、箔翔と共に回廊を歩いて来る。安芸もすっかり落ち着いてしもうて。」

そう言ったか言わないかのうちに、維心の居間の戸が開いた。そして、箔翔を先頭に、安芸と甲斐が続いて入って来た。そこに、龍王ばかりか公青までも居るのを見た安芸は、一瞬驚いたように目を見開いたが、何も言わずに進み出る。公青は、頷いた。

「よう来たの。と言うて、ここは龍の宮であるが。」と、側の椅子を指した。「訳を知りたいであろう。話そうぞ。座るが良い。」

安芸は、ためらいがちに、翠明の横へと座った。甲斐は、定佳の横へと座る。箔翔は、公青の横へと歩いて行って、そこへ収まった。

皆が座ったのを見てから、維心が言った。

「では、公青から全てを話そう。この大掛かりな、芝居の全貌についての。」

安芸と翠明は、固唾を飲んだ。

公青は、そんな二人を見つめて、話し始めた。

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