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対面

その頃、箔翔は安芸と対面していた。謁見の間の玉座で下を見ると、軍神達に引き連れられた安芸は、鋭い目で箔翔を睨んでいる。箔翔は、何を言っても無駄だろうと思いながら、言った。

「主が安芸か。」

安芸は、答えた。

「そうだ。ここは鷹の宮だと聞いている。なぜにここは、表から隠れるような場所にあるのだ。」

箔翔は、どうでもいいことだと思いながらも、答えた。

「我が父は、1500年ほど前に神世に嫌気がさしての。表に出なくなったのだ。我の代になって、他の宮とも交流せよと言われたので、我も出て行くようになった。それだけのことぞ。」と、ひたすらに面倒そうに続けた。「我は、鷹の王、箔翔。主は己が何をしにここへ来たのか分かっておるか。」

安芸は、ふんと鼻を鳴らした。

「何だか分からぬが、学べと。さすれば帰される。」

箔翔は、頷いた。

「では、宮の中で好きにしておってよいゆえ、何でも学ぶが良い。部屋はそこの重臣筆頭の玖伊が案内するゆえ。ではの。」

箔翔は、立ち上がった。安芸は、驚いて箔翔を見上げた。

「待て!どういうことぞ、何を学べと?!」

箔翔は、歩き出そうとしながら、面倒そうに安芸をちらと見た。

「知らぬわ。己に何が足らぬのか、己で考えよ。王であろうが。甘えるでないわ。我が主の宮を救うのではない。主が己で救うのであるぞ?我は場を提供しただけ。我は忙しいのだ。他人の宮の面倒まで見れぬわ。」

歩き出す箔翔に、安芸は言った。

「まさか主、我の宮など消してしまおうと思うておるのか?!」

箔翔は、ため息をついて立ち止まった。

「消してしまおうとしておったのは主ではないのか。現にもう、あるはずはない宮。機があるだけ良いと思わねばならぬだろうが。我の言うことなど、聞くつもりもない癖に。我から何を講義してもらおうと思うておった?公青を納得させるには、このように振舞えば良いと具体的に話すとでも思うたか。そのようなこと、我にも分からぬ。己で足りぬことは、己で探せ。どの王も、罪人でなくとも常やっておることぞ。」

安芸は、そう言われてハッとした。確かに、そうだったからだ。

安芸が黙ったので、箔翔はそこを出て行った。すると、玖伊が申し訳なさそうに出て来て、頭を下げた。

「では、安芸様。我が玖伊でございます。お部屋の方へご案内致しまするので、こちらへ。」

安芸は、戸惑いながら頷いた。ここでは、どんな扱いをされるのかと思ったが、皆礼儀正しく普通の王と同じように接して来る。罪人で、気を奪われているからと、粗雑に扱うものなど一人も居なかった。

ここで抗っても、箔翔の結界の中、どこへも行けないのは分かっていた。なので、安芸は仕方なく、玖伊について自分の部屋だとあてがわれた場所へと向かったのだった。


箔翔は、面白くなく居間へと足を踏み入れた。あんな神でも王だったのだ。自分が、能力が追いつかなくても、それでも王なのかと思われていても、仕方ない。維心から見れば、自分も安芸も、大して変わらないのだろう。

そう思うと、腹が立ってどうしようもなかった。自分は、それでも王として民のことを考えて政務を行っている。他の宮へ侵攻しようなどとは絶対に考えないし、だからといって、それが闘神としての本能をなくしているからではなく、ただ平和であることが民の生活のためだと分かっているからだ。

戦を起こしてよいと思っているのなら、腹が立てばすぐに出陣するだろうに。

箔翔は、そう思っていた。自分は、安芸とは違うのだ。

「王。茶はいかがでしょうか。」

箔翔は、今は侍女すらうっとうしくて、そちらを見ずに手を振った。

「要らぬ。」

しかし、侍女の声は言った。

「でも、落ち着くかと。」

箔翔は、面倒だとそちらを見てきつい調子で言った。

「要らぬというに!」そして、その顔を見て、びっくりした顔をした。「凜?」

凜も、箔翔の剣幕にびっくりした様子だったが、それでも、言った。

「お邪魔をしてしまって…申し訳ありませぬ。」

凜は、そこを出て行こうとした。しかし、箔翔は立ち上がって言った。

「凜、すまぬ。主とは思わなんだ。王などと呼ぶゆえ。」

凜は、下を向いた。

「ただ今は王付きの侍女達について学んでおるので。あの…お名でお呼びするのは、大変に失礼なのだと咎められましたの。」

箔翔は、首を振った。

「主は良い。本来主は王族なのだ。そのように卑屈にならぬでも良いわ。我が許す。」

凜は、戸惑ったような顔をした。

「でも…それならば、誰も居らぬ時は、そう致しまするわ。侍女の中では、いろいろと難しいのですの。」

確かに、新参者は肩身が狭いだろう。箔翔は、頷いた。

「それで良い。では、茶を淹れてくれ。」

凜は頷くと、茶器を手に取った。箔翔は言い訳がましく言った。

「すまぬな。面倒を押し付けられて、イライラしておったゆえ。」

凜は、顔を上げた。

「安芸様のことでございまするか?…確かに、とてもお気が荒いかただとお聞きしておりましたので、誰もお世話に行きたがりませぬわ。恐らく私が、明日から参ることになるかと。」

箔翔は、驚いて凜を見た。

「安芸の?だが主は月の宮から行儀見習いに来ておるのであろう。なぜにそうなるのだ。」

凜は、苦笑した。

「行儀見習いであるからですわ。いろいろな所で学ばねばなりませぬ。ここに元から居る侍女達は、皆付いている場所は決まっておるのに、そこから何人も新しいお客様のお世話に、一年もつけられぬのです。」

それでも、箔翔は首を振った。

「我が命じてここへ置こう。」

凜はびっくりした顔をしたが、首を振った。

「なりませぬ。箔翔様、下々には下々の事情というものがありまする。明らかに不当なことには箔翔様がお口を出されるのも仕方がありませぬが、このような細かいことにまでは誰も納得致しませぬもの。私は大丈夫です、思うておられるほど、気の弱い女ではありませぬ。女神として育っている侍女達の方が、大丈夫だろうかと案じておりますわ。私は逆に、どんな神なのかと楽しみでございまするの。王であられても、こんな所へたった一人、気を奪われて送られて、一族を背負っておるなんて、お助けしたいとも思いまするし。」

凜は、茶を淹れたカップを箔翔の前に置いた。箔翔は、それにも手をつけずに言った。

「それでも、神世に慣れぬ主が、そんな神など重荷であろうが。あれは確かに己の身に代えて考えてみると、気の毒なのやもしれぬが、やはり聞く耳など持たぬ言い様であったわ。」

凜は、笑いながら手を振った。

「まあ箔翔様。私は人世に居ったのですわよ?人がどれほど善良だと思うておられまするか。神世に来て思いましたけれど、確かに略奪など野蛮だと思うところもございますが、皆とても礼儀を重んじて、誠実であられるのですわ。その割合は、人に比べたら余程多いのでございます。人には無責任な者もとても多いのですもの。やはり神は神なのだと、私は思って見ておりますの。なので、本当に大丈夫。ここに今居る侍女の中で、私ほど適任は居らぬと思うておりまするの。」

箔翔は、確かにその通りだが…と思っていた。なぜか気に入らぬ。

「…知らぬぞ。面倒なヤツなのは分かっておることなのに。」

凜は、頷いた。

「大丈夫ですから。箔翔様は、お優しいのですわね。でも、私を普通の女神と同じだと思うていらっしゃる所が、まだ分かっていらっしゃらないなあと思いまする。」

凜は、ふふと笑った。しかし、箔翔は笑えなかった。今まで苦労ばかりして来ている凜に、これ以上苦労などさせたくないというのが、箔翔の思いだった。

しかし、楽しげに微笑む凜を前にそれを言うことも出来ず、箔翔は黙って茶を啜ったのだった。

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