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戦場2

公青は、100万の軍神が必死で自分の結界を破ろうと気を放っているのを感じ取って、微かに顔をしかめた。さすがにこの数の軍神に襲われると、自分すら持ちこたえられるか分からない。宮の結界ならば消される心配は無いが、領地の結界は分からない。結界を破られた事は無いが、その衝撃のほどは想像出来る。

公青が、一瞬そちらへ気を取られた隙を、翠明は見逃さなかった。そうして、サッと身を翻すと、脇の森へと低く飛んで、身を隠して飛んだ。

それを見た周囲の軍神達も、翠明と同じく次々に森へと飛び込み、その中を逃走して行く。公青は、舌打ちした…翠明を討ち損なったか。だが、翠明を討つのが目的ではない。ここは、一度…。

公青は、地に叩きつけられた、隼を助け起こした。

「さあ、ようここまで守った、隼。宮へ戻ろうぞ。」

隼は、公青を見た瞬間から、涙を流していた。その涙は止まることなく、今も流れ続けていた。

「王…我は、皆を止めることが出来ず、分かっていてこのような事態に。」

公青は、隼を気で持ち上げながら、頷いた。

「それでも主は我を救おうとあの玉を作ったのであろうが。」公青は微笑んで言うと、宮へ向けて浮き上がった。「だが、その地位返してもらおうぞ。今、我は王座が必要だ。」

隼は黙って頷き、公青に運ばれるまま宮へと向かった。見上げた空には、見慣れたしっかりとした王の結界がある。

こんな時なのに、隼は自分が深い安堵感と、開放感を感じているのを知った。


その少し前、宮の中では、相良が揺らぎ始めた結界に、急いで指示を出していた。

「急げ!女子供は地下への隠し通路の方へ!いつでも脱出出来るように備えるのだ!」

相良は、覚悟していた。隼が出て行った時から、もう最後なのだと思っていた。隼は、軍神としては大変に優秀だったが、王としては未熟だった。それは、生まれた時から王になるべく育てられた王族とは違い、大きな結界を維持するにもある程度の集中力が要ったからだ。王族は子供の頃から、そんなことは遊びのように学ぶ。なので自然に出来るが、軍神達はそうは行かなかったのだ。

皆が慌てふためいて必死に準備に駆け回っている中、相良は一人空を見上げた。揺らぐ結界…もう、時はない。そうしてあの結界が破れた時、一気に敵の軍神達がこの宮へとなだれ込み、皆殺しにして行くのだろう。そうして、我が一族の血はここで途絶えるのだ。

仮に地下通路から逃げたとしても、外にも軍神達が居るのだ。助かる見込みなどない。それならば、ここで死のうと相良は決心していた。

その瞬間、急に結界の色が変わった。

「…この、結界は…!」

相良は、急に静かになった宮の外に、思わずバルコニーへと駆け出して行って、空を見上げた。外の喧騒が、全く聞こえない。これほどに強固な結界。そしてこの気の色は…。

「お、」相良は、空を見上げたまま、力なく膝をついた。「王…!おお、王よ…!」

相良は、その結界に向かって、額を石畳につけて頭を下げた。我が王が、お戻りになられた。一族を守り、我ら罪深き重臣を滅するために。

宮の中からは、逃れようと必死に駆け回っていた臣下達が出て来て、空を見上げていた。そうして、誰も彼もが、相良と同じように膝をつき、その結界に深々と頭を下げた。それを見た相良が、ゆっくりと立ち上がると、皆を見て、流れる涙を隠そうともせずに言った。

「さあ、王をお迎えせねば。我らを罰するために戻られたのだ。これで、一族は存続出来ようぞ。この宮はもう落ちぬ。」

皆が、頷いて立ち上がった。そうして、玉座のある謁見の間へと皆集結して行ったのだった。


公青は、宮の結界へと入り、到着口へと降り立った。ほんの一年ほど前にここへ下りた時には、殺気立った軍神達に囲まれていた。しかし、今出迎えているのは皆どこかしら怪我をし、ぼろぼろになった軍神達だった。皆公青に膝を付き、深々と頭を下げている。一人が、進み出た。

「王。こちらに、重臣達が控えてございます。どうか、謁見の間へ。」

公青は、頷いた。

「まだ終わっておらぬ。」公青は、やっと自分の力で立っている隼を振り返った。「領地の結界外の100万、それに宮の結界外の20万ほどをどうにかせねばならぬからだ。主らは今のうちに傷を消せ。治癒の対へ参るのだ。ここからが正念場ぞ。」

軍神は、頭を下げた。

「は。しかしながら、王が玉座に戻られるのが先かと。我らはお供致しまする。」

公青は頷いて、歩き出した。軍神達が、一斉に公青について歩き出した。


謁見の間に着くと、両脇に並ぶ臣下達が床に額をつけ、最高礼をしている前を、公青はゆっくりと玉座へと向かった。隼が、足を引きずりながら後をついて来る。玉座の前まで辿り着くと、公青はそこへ座らずに、立ったまま皆を振り返った。

「異議のあるもの。前へ進み出よ。」

誰一人として、微動だにしない。公青は、更に言った。

「我が正妃は龍。既に我が皇子も生んだ…我はそれを違えるつもりはない。それでも、主らは我が戻ることを望むか。」

相良が、頭を下げたまま膝をすすと進めて前に出て、まだ床に額をつけたまま、言った。

「罪深き我らの事をお見捨てになられず、玉座へとお戻りくださると王がお決めになられたのでしたら、我らに何の異存もございませぬ。全ては、王の御意のままに。」

公青は、頷いた。そうして、隼に手を差し出した。

「では、返してもらおうかの。我も何やら心許なかったわ。」

隼は、まだ涙の跡が残る顔で微笑んで頷くと、王の腕輪を外した。そして、それを公青へと渡した。公青は、一年ぶりにそれを腕にはめ、顔を引き締めて玉座へと座った。

「さて、ここで沙汰が何だと言うておる暇はない。それは全てが終わった後ぞ。我が結界は持ちこたえておるとはいえ、領地の結界外には100万、宮の結界外には20万が残っておる。その中には、安岐も定佳も翠明も含まれておる…外の軍神は、己の居場所のことであるから、王を救おうと必死であるわ。宮の結界は絶対に崩れぬが、領地の結界はさすがの我でもそう長くはもたぬ。なので、機を見て一旦あれは消す。やつらは、領地内の民には見向きもせず、この宮を一直線に狙っておった。なので、消した所で問題はあるまい。それから、我はこんな時のためにと渡りをつけて置いた、あちらの神に援軍を申し出る。」

相良が、顔を上げた。

「それは…あちらの方々は、お助けくださいまするか。」

公青は、頷いた。

「あちらは龍の傘下に入っておる。我の妃が龍王の孫に当たり、我らは縁戚同士。我がこの宮の王であれば、あちらは必ず出て来てくれる。それに、龍王はこの騒動があちらに波及することを懸念しておるのだ。必ず、来る。」

相良は、全てはこのような時のためと、やはり考えていらしたのだと感銘を受けていた。それなのに、我らは…。

相良は、頭を下げた。

「我ら、王のご沙汰を受ける前に、お役に立ちとうございまする。では、使者に立ちまする。」

皆が、驚いた顔をした。外は敵だらけ、次席軍神でもやっとのことで抜けたのではなかったか。

公青は、首を振った。

「構い要らぬ。全ては、月に。」と、公青は空を指した。「月に言えば、月の宮の王、蒼に伝わる。それは龍王にも伝わり、迅速に動けよう。我が話す。」

月は、何と便利なものか。

皆は、そんな風に考えて見たことがなかった月を今更ながらに思って、謁見の間の窓から見上げた。全てを見ている月…。その王の蒼と、我が王は懇意なのだ。

公青は、窓際へと寄って、月を見上げた。

「蒼。維心殿に連絡を。我は王座に就いた。援軍を。」

蒼の声がした。

《すぐに知らせる。他に必要なことがあれば、常に月に言え。オレか十六夜が答える。》

公青は、やはり蒼は見ていたのだと、ホッとして、頷いた。

「分かった。頼んだぞ。」

領地結界外は、ますます煩くなって来た。

公青は、領地の結界を消すタイミングを見計らっていた。

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