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「公青!」蒼が叫んで宮の中を走った。「公青!早よう来い!」

その叫び声は念の声も手伝って公青の耳に響いた。公青は屋敷から宮へ来たばかりだったが、少し浮いて早朝の宮の中を、蒼の気を探って全速力で飛んだ。蒼の声は、それほどまでに緊急性を伝えていたのだ。

「蒼?!何事ぞ?!」

蒼は、公青が甲冑姿なのに気付いていたが、何も言わずに踵を返した。

「治癒の対へ!」

公青は、それだけ言って先を飛ぶ蒼に、訳も分からず従って飛んだ。何があったのだ。治癒の対と?

蒼と共に治癒の対へ飛び込むと、そこには血塗れの軍神と、回りを囲む治癒の者達、それを見守る嘉韻が居た。

「何ぞ、これは…?」

その声に、もはや原型を留めていないほどに腫れ上がった顔の、目がうっすらと開いた。

「お、王…?!王であられるか?!」

蒼が言った。

「ならぬ!力を入れるでない!」

その声に、公青はやっとそれが自分の次席軍神だった、太玄(たげん)だと気付いた。

「太玄か?」

太玄は、起き上がろうともがいた。

「ならぬと言うに!嘉韻!」

蒼の声に、嘉韻が進み出て太玄を気で押さえ付けた。蒼は言った。

「明け方結界外に着いた。嘉韻が今、志心様の結界外まで守りに出ておるのだが、そこで保護し、そのまま志心様の宮で治療しようとしたのだが、一刻も早く月の宮へと聞かずに、ここまで連れて参ったのだ。」

太玄は、身動き取れないまま言った。

「王…このような格好で、失礼を…我は、これを」太玄は、血にまみれた手を懐に入れた。「これを…。」

その書状も、血にまみれている。公青は、それを受け取り、中を見た。そして、言った。

「…隼ではやはり阻止出来ぬか。」

太玄は、頷いた。

「はい。安芸だけならばいざ知らず、まだほか三人の王が控えておりまする。なので、相良殿がこれを…何としても、一族のために、王の御元へと。」

蒼は、公青を見た。

「どうする?何を言って来たのか分かるが、オレは維心様の指示で軍を動かせない。軍は貸せないぞ。」

公青は、頷いた。

「分かっておる。元より我は一人で行くつもりでおった。今朝は主に、飛び立つ事を話に参ったのだ。」

蒼は、公青の甲冑を見た。自分の甲冑は置いてきてしまったので、こちらで作らせた月の宮の青銀の甲冑だ。嘉韻と同じ、将の最高位の設えだった。

「…炎嘉様と同じぐらいの気を持つんだし、あっちで小競り合いを制して来た主なのだから、何も心配はしていないが、10万だぞ?宮までたどり着けるのか。」

公青は、フッと笑った。

「ふん、あんな雑魚。それに、我が軍神達がたった三万でかなり散らして五万ほどに減っておるわ。参る。主には迷惑は掛けぬ。」

蒼は、じっと公青を見た。公青には、迷いはない。

「…行け。月から見ている。」

公青は頷いた。太玄が、腫れ上がった目から涙をこぼした。

「王…。」と、何とか起き上がった。「我もお供を。」

公青は、首を振った。

「今の主など足手まといにしかならぬ。ここに居れ。…ようここまで来た。」

太玄は、大粒の涙を流した。

「王…!おお我らは、己かわいさに何という事を…。」

公青は、足を進めた。そして、ふと蒼を振り返ると、言った。

「我が妃と子を頼む。」

蒼は、頷いた。

「任せておけ。ここには誰も侵攻出来ぬ。」

公青は頷いて、出て行った。


炎嘉が、志心の居間でふんぞり返って言った。

「籠城はどこまで持つかの。確かに小さな結界であったらそこそこ頑張れそうな強度ではないか?」

維心が、ふんと鼻を鳴らした。

「あんなもの我なら指一本ぞ。雑魚同士が面倒を起こしおってからに。」

いつもはちょっと戦場に出るぐらいなら甲冑など着ない維心が、珍しく甲冑姿で肩肘をついているのを見て、炎嘉は言った。

「主にしても久しぶりの戦らしい戦ではないか。闘神なのであるから。それが本来の姿であろうが。面倒がるでないわ。」

維心は、ちらと炎嘉を見た。

「別に甲冑どうのと言うておるのではない。維月がこれをいたく気に入ったようで、我の甲冑姿を絶賛して早よう帰って来いと言われておるのだ。早よう済ませて帰りたい。」

炎嘉が、呆れたようにそっくり返った。

「何ぞ、イライラの原因はそれか。戦場に妃を連れて参る訳には行くまいが。我慢せよ、我など年がら年中我慢しておるのに!」

維心は、炎嘉を睨んだ。

「うるさいわ。我は我慢するのに慣れておらぬのだ!」

志心が、ぎゃあぎゃあと緊張感もなく煩い二人に、ため息をついた。これは早く終結してくれねば、我がゆっくり出来ぬ。

一人若い箔翔は、戸惑ったようにそれを見ている。箔炎ならば適当にいなしただろうが、最近に王になったばかりで、こんな王に囲まれるのには慣れていないのだろう。志心は、気の毒になって言った。

「箔翔、常こんな感じであるから、慣れねばやってられぬぞ。主の父は同年代であったから、軽くいなしておったがの。」

箔翔は、息をついた。

「気を遣わせてすまぬの、志心殿。しかし慣れるのはまだ無理やもな。何しろ我は、維心殿について政務を習ったのであるから。しかし、努力はする。」

志心は頷いたが、ふと、何かの知った気が自分の結界上を通過したのを感じた。志心が顔を上げると、いつも間にか黙った維心と炎嘉も上を見上げていた。

「…何か通ったの。」

炎嘉が言う。志心は、頷いた。

「公青の気。あれにはいつなり我が結界の上を通ることを許しておる。単騎であった。」

炎嘉が、今まで維心とやりあっていたなど嘘のような真面目な顔をして、維心と視線を合わせた。そして、頷き合う。

「行ったか。主の言うた通りであったな、維心。」

維心は、頷いた。

「一人で行ったか。まあ、公青ならば宮まで辿り着くであろうよ。」と、ふふんと笑った。「これは早よう終うやもな。安堵したわ。長引くかといっそ皆殺しにと思うておったところであったから。」

志心は、立ち上がった。

「ならば見に参った方が良いの。いくら公青でも、あちらの軍は全てあの宮へ向かっておるのだ。数で押されたら、敵わぬやもぞ。」

維心も、腰を上げた。

「しようがない。早よう終わらせるためなら、我も尽力しようぞ。そら、行くぞ炎嘉。」

炎嘉も、立ち上がった。

「面倒よなあ。ままごと遊びに付き合う心地ぞ。」と、また今度は斜め上を見た。「お。南東と南西から軍が動いておる。」

維心も、同じ方向を見た。

「動き出したか。しかし僅かに南東が早いか?」

炎嘉は頷いた。

「まるで南東が出るのを待って南西が出た感じであるな。面白い。あやつらの中でも何かあるのであるな。所詮雑魚同士の遊戯であるのに。」と、まだ突っ立っている箔翔を見た。「こら箔翔。ぼーっとしておらず、主も参るのだ。実戦は初めてなどと言うてられぬぞ?怖ければ我の影に隠れておっても良いから。」

ふふんと笑いながら言う炎嘉に、箔翔はムッとしたような顔をした。

「…恐ろしくなどないわ。」

箔翔は、すっと先に出て行く。それを見送った炎嘉は、驚いたような顔をしたが、笑った。

「子供だと思うておったが、まあ王としての誇りも育っておるではないか。良い場ぞ、あれに実戦を経験させてやりたいの。やっぱり少し戦わぬか、維心。」

維心は、呆れたように歩き出しながら言った。

「公青が出て参ったのに、何をすると申す。しかし…」と、ちらと箔翔が去った方を見た。「箔炎に頼まれておるしな。分からぬ程度に隅で戦わせてやるなら良い。」

志心は、歩きながら言った。

「何だ、子を遊ばせるような言い方を。箔翔だって王なのだ。それに、そんな軽い場ではなくなって来ておるようであるぞ。」

四人は、自分の軍神達にはそのまま守りについているようにと言い置いて、気を極限まで抑え、遥か高い上空を戦場の様子を見るために飛んで行ったのだった。


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