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結納

凜は、輿に揺られて、初めて龍の宮へと到着していた。月の宮も大きく美しい宮だと思っていたが、龍の宮はそれは頑強で大きな造りで、歴史を感じさせるにも関わらず、中はまるで昨日建ったばかりのように磨き上げられていた。

たくさんの対が連なる石造りの建物の中には、深い青色の毛氈が敷かれてあり、これを踏んでもいいのかと凜はためらった。しかし、先に下りた十六夜と蒼が、さっさとそこを踏んづけて行くのを見ると、別にいいのか、と慌ててそれを追ったのだった。

「箔翔も着いてるぞ。」

蒼が、十六夜に言った。十六夜は、そちらを見ると、言った。

「結納ってこんな大層だったかあ?身内だけってイメージだったけどなあ。」

蒼は、首をかしげた。

「でも、公青に呼ばれたんだから仕方がないじゃないか。でも、何かの覚悟を感じる…なんだろう、まるでこれが婚礼みたいな。」

すると、箔翔があちらから輿を降りて歩いて来た。

「蒼。十六夜。今回は、何やら大層な式よな。結納であろう?」

蒼は、頷いた。

「そうなんだけど、オレ達みんな出席するのか?東の大広間って聞いたから、確かに広いしいくらでも入るだろうけどさ。」

箔翔は、歩き出しながら言った。

「序列が高い宮の王ばかりであろう。玖伊も驚いておった…此度のことであるが。」

玖伊とは、鷹の宮の筆頭重臣だ。箔翔と同じく若くして筆頭に座った臣下であるが、最近では箔翔と同じく落ち着いて政務を手伝っているらしい。

蒼は、箔翔と並んで歩きながら言った。

「どこも皆、驚いているようだ。やはり、龍を正妃にとなると、跡継ぎの問題でそうなるのか。」

箔翔は、険しい顔をした。

「玖伊は、我には釘を刺しおったわ。もうあまりうるさくは言わぬので、龍だけはおやめください、とな。お陰で我は妃を娶れとうるそう言われなくなったので、助かったがの。公青は…これから、大変であろうて。」

蒼は、頷いた。

「確かに。」

侍女達は、そこで控えの間の方へと向かって行った。蒼と十六夜と箔翔は、並んで維心が待つ奥宮手前の応接室へと進んで行ったのだった。


応接室へ入ると、もう志心と炎嘉は来て、維心と維月の前に座っていた。蒼は、頭を下げた。

「維心様、この度はご招待を受けて参りました。」

維心が、苦笑した。

「ま、我が招待したわけではないがの。」と、十六夜を見た。「十六夜まで呼ばれておるのか。」

十六夜が、笑って頷いた。

「公青とは月の宮でよく話していたからな。それにしても、大層なメンツじゃねぇか。公青は序列二位の宮なのに、ここに居るのは最上位の宮の王ばっかだ。」

箔翔が進み出て、維心に軽く頭を下げた。

「維心殿。このように皆が結納に参ることになろうとは、思いもしませなんだ。」

維心は、息をついた。

「今、この二人とも話しておったところよ。公青には、何か思うところがあるのだろうて。数時間前に公青と晃維が我に挨拶に来たが、すっきりとした良い顔をしておった…何を思うておるにしろ、あれにとりこれは真実望んだことであるようだ。」

箔翔は、頷いた。

「ならば、外野が何某か言うても始まりませぬな。我も黙って見ておることに致します。」

すると、背後の戸が開き、兆加が頭を下げて入って来た。

「お待たせ致しました。場が整いましたので、皆様には東の大広間の方へお越しくださいませ。」

炎嘉が、それを聞いて立ち上がった。

「では、言って来るかの。だが結納の式で客とは、我ら手持ち無沙汰であろうな。どうせ品の目録を読み上げて、酒を飲むだけではないのか?」

兆加が、炎嘉に困ったように頭を下げて言った。

「はい、炎嘉様。確かにそうではありまするが、そちらに同席してくださることに意味があるようで。」

炎嘉は、兆加に続きながら息をついた。

「式やら何やらの出席ばかりで王など良いことはないの。そうは思わぬか、箔翔よ。」

箔翔がためらっていると、志心が後ろから歩いて来ながら言った。

「炎嘉、そのようにからかうでないわ。これも王の務め。わかっておることであろうに。さ、早よう歩け。」

志心に追いたてられるように、炎嘉が出て行く。その後ろに、蒼、箔翔と続き、最後に十六夜が、維月を振り返って言った。

「じゃあな、維月。見て来るよ。」

維月は頷いて、気遣わしげに言った。

「ええ。黙っているのよ?うるさくしないで。」

十六夜は、すねたように顔を歪めた。

「わかってる。子供じゃねぇ。」

そうして、十六夜も出て行った。閉じられた戸を見ながら、維心が立ち上がって言った。

「さ、では居間へ戻るか。それにしても、結納にあの面子をの。大したものではないか。我は出ぬがな。」

維月は、同じように立ち上がって維心の手を取った。

「気がもめますこと。同席したかったほどですわ。向こうの臣下達は、水面下で何を考えておるのでしょう…案じられてなりませぬ。」

維心は、維月を引き寄せて肩を抱いた。

「主が案じてもどうにもならぬ。公青にもわかっておる以上、考えがあるのだろう。どちらにしろ、この宮の中では何も出来ぬよ。我に筒抜けであるしな。」

維月は頷きながら、それでも心配でならなかった。奏は、幸福にしているんだろうか。公青は、無事に奏を娶って傍においておけるのだろうか…。


東の大広間では、公青の臣下達が、公青を挟んで緊張気味に立っていた。龍の宮のことは聞いていたが、まさかこれほどに大きく、美しい宮だとは思ってもいなかった。今まで、あちらの島で随一の宮に仕えて来たので、あそこがこの世で一番大きい宮だと信じて疑わなかった。噂には聞いていても、それでも自分達の宮が一番だと思っていたのだ。

それが、ここへ来て尽く崩れ去った。神世最古の宮と言われているこの宮は、重厚でどっしりと建っており、天井も高く全てが美しい。細部に至るまで計算され尽くしたその造りや装飾が、どこを見ても完璧に見えた。仕える神は多く、皆上質な着物に身を包み、その王の力を感じさせる。そうして何より、ここには龍ばかりで、侍従であってもその気は大変に強く感じた。つまりは、やはり龍という種族は、大変に優秀なのだ。

総大理石に囲まれて、その力をびりびりと感じながら、公青の臣下達は、ただ待っていた。

すると、大きな両開きの扉が開き、炎嘉を最初に志心、蒼、十六夜、箔翔が並んで入って来るのが見えた。公青の臣下達が深く頭を下げる前へと進み出た炎嘉が、言った。

「この度はめでたいことよ、公青。正妃を迎え、主の宮も落ち着くことを、ここへ出席しておる王達と共に願っておる。」

公青は、軽く会釈した。

「炎嘉殿。我の結納のためのわざわざのお越し、感謝しておる。この後の宴にために酒を持って参った。ゆっくりとくつろいでもらえればと思う。」

炎嘉は、頷いた。

「では、我らは席へ。」

じっとそのやり取りを見ていた他の王達は、炎嘉に続いて傍らに準備されている椅子へと順に並んで座った。それを待っていた兆加が、言った。

「龍の宮前第三皇子晃維様、皇女奏様のお越しでございます。」

蒼は、慌てて扉の方を見た。

すると、そこには晃維に手を取られて、ベールに包まれた奏が歩いて来た。ベールの中身はよく見えないが、それでも奏の足取りがしっかりしているのが分かる。そのまま公青とその臣下の前へと進み出た晃維は、言った。

「この度は、我が娘奏を正妃として娶ってくださることとなり、我も心より嬉しく思っておる。」

公青は、頭を下げた。

「これよりは、我が正妃として奏殿を終生お世話して参る所存でありまする。」と、隣の相良を見た。「我より、結納の品を。」

相良は、頭を下げたまま進み出て、手にしていた目録を、晃維に手渡した。晃維はそれを受け取って、隣で控える侍従へと渡す。そしてまた、反対側の臣下が進み出て、晃維に目録を差し出した。晃維は、またそれを受け取って侍従へと渡した。

それを見た十六夜が、隣の蒼に耳打ちした。

「内容を読まねぇのか。」

蒼は、小さく頷いた。

「物が多い時は、全部読んでられないから端折るんだよ。」

十六夜は、ふーんと頷いた。そして、晃維は、奏を見た。

「それでは、今更であるが、引き合わせようぞ。」

本当に今更なのだが、これが手順なので、その通りに、晃維は奏に頷き掛けた。奏は、ベールを後ろへと降ろし、公青に頭を下げた。

「よろしくお願い致しまする。」

公青は、自分がとっくに娶って、ここへ連れて来たのも自分なのだが、頷いて、手を差し出した。

「これへ。」

奏は、その手を取った。それを見た兆加が、声を上げた。

「それでは、場を宴席へ。東北の吊殿にご準備してございます。我が王も、お顔を出されるとのことでございますので。」

吊殿は、庭に造られた庭の中の休憩所のような場所だった。板の間になっていて、そこへ座ると三方が庭で、眺めが良いので少人数の宴にはよく使われる。炎嘉が、立ち上がった。

「ああ、堅苦しいのは苦手であるからの。それにしても、あの吊殿は木造なのに長持ちであるなあ。維心が思いつきで作らせたのは確か1000年ぐらい前だったと思うのに。楽しみぞ。」

ぞろぞろと移動する中、蒼はじっと公青の臣下達を観察していた。

臣下達は、あくまで表情を変えなかったが、蒼には見えた…そしてそれは、十六夜も見ているようだった。

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