終章 三十四歳、私の小さな挑戦は続く
大晦日。
美咲の机には、出来上がったばかりの同人誌が置かれていた。
表紙には、淡い花の絵。
その下には、題名。
『月曜日にも花は咲く』
美咲はそっと表紙をなでた。
一年前には、こんな日が来るとは思っていなかった。
会社員として働きながら、短歌を書く。
夫婦で家計を見直す。
友人の町を訪れる。
自分の作品を一冊の本にする。
どれも、小さな一歩から始まった。
悠人が隣に座った。
「一冊、僕にもください」
「もちろん。第一号の読者です」
「感想は厳しくていい?」
「優しくしてください」
「じゃあ、食器洗いの歌を増やしてほしい」
「それは別冊にします」
二人は笑った。
美咲は最後の日記を書いた。
三十四歳、最後の歌
小さくも
始めた夢が
花となる
明日のページに
私を描こう
美咲はペンを置いた。
三十四歳。
まだ有名な歌人ではない。
まだ大きな賞を取ったわけでもない。
まだ、夢がすべて叶ったわけでもない。
けれど、自分の好きなことを、自分の人生の中に置くことができた。
それは、とても大きな変化だった。
そして、美咲は思った。
「幸せは、誰かに与えてもらうものだけじゃない。自分で見つけて、自分で育てていくものなんだ」
窓の外では、年越しの街に明かりが灯っていた。
第五巻・完




