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吾輩は猫である2


『この町は一夜にして凶悪な殺人鬼が潜む町に成り下がった。』


 これらは週刊誌から抜粋した一部文章だ。


 ———誇張、煽り、批判、嘘。


 週刊誌とは購買意欲を掻き立てるために一だった出来事を十以上にしてしまう魔法の本の事を指すと思っていたが、彼らのような魔法使いにも限界があるという事を、僕は今回のこの一件で学ぶこととなった。


 あらゆる言葉、あらゆる手段を用いたとしても、この事件には事実以上の真実は存在しない。



 「‥‥‥‥‥中身少なくないか?」


 バイト帰りの寒空の下、僕は何年ぶりに食したのか定かではないコンビニの肉まんに、一人ケチをつける。

 数年前はもうちょっと多かっただろうと、ようやく肉の本殿に辿り着いた僕の口中では、コンビニ業界への不信感が微かに芽生える。

 もちろん昔のようにいかないのは分かってはいるし、理解は出来るが‥‥‥それにしてもこの肉の少なさはあり得ないだろう。

 僕が疎遠にしている間、一体何があった。


 「‥‥‥‥‥‥てか‥‥‥うぅん‥‥‥うん」


 二日前の話だ。

 とある学校で大量の変死体が見つかった———その「とある学校」というのは他でもない、僕の通う学校の事だ。

 朝一に休日の学校に出勤した教頭先生がすぐに通報し封鎖はされたが‥‥‥それでもその前に死体を見てしまった生徒というのも少なからず存在する。

 朝練予定だった者、受験勉強のため自習室に籠ろうとした者‥‥‥先程気分が悪くなっていた女の子も、もしかしたら見てしまった生徒の一人なのかもしれない。

 まぁショックで失神したり気分が悪くなったりで搬送された生徒達がいる中、休校中にファーストフード店に来店していたという意味では図太いというべきか。


 「‥‥‥やっぱ僕の舌が変わったからかな。全然美味しくないや」


 変死体は二十四人いた。


 「一分歩けば、二人は見つかった」

 とは取材で明らかになった捜査関係者の言葉だ。

 久々に起こった大事件が狂気に塗れた大虐殺というのは全国民の総意らしく、今日も事件現場周辺の警戒や犯人探しに勤しむ険しい顔をした警察官で町は溢れていた。

 絵にかいたような厳戒態勢だ。


 「味覚の変化かぁ。やっぱこの状態じゃ食べれないよなぁ‥‥‥」


 何度も言うが、この事件には事実以上の真実は無い。


 何故なら、僕はこの事件の犯人の情報を知っているからだ。分からない事と言えば、顔と名前と年齢と性別くらいなものだ。


 ‥‥‥いや分かってないじゃないかと思うかもしれないだろうが、本当に犯人は分かっている。分かってるったら分かってる。



 「ただいま~」


 「おかえりご主人。やはりというか、世間はあの事件一色だな」


 マンションの一室に帰ると同居人がテクテクと玄関までやってくる。


 「そんな中、よくもまぁその姿で過ごしているもんだ。怖くないのかご主人よ」


 「いやそりゃあ怖いけど、使い続けなくちゃ慣れないし‥‥‥でもそうだね、そろそろ限界かもしれない」


 「じゃあ早く解除しろ。何度も言うがその力はご主人にとっていいものではないからな」


 「分かってるって。洗面所行ってくるね」


 「‥‥‥あぁ、いってらっしゃい」


 同居人に心配されるも、やはりメリットには変えられないということは十分理解している彼から、それ以上言及されることはなかった。


 「ふう‥‥‥」


 玄関から進んで左手にある洗面所まで進み、鏡の前に立つ。

 そして僕は深くかぶったニット帽を取り、鏡に映った自分と対面した。


 「‥‥っと、やっぱり六時間が限界か」


 「おいご主人、テレビ見てみろ。今ちょうど特集やってる‥‥‥なんだやっぱり限界だったか」


 同居人は僕の目から零れる大粒の涙を見ながら、溜息をついた。


 「あーあーもう、決壊してるじゃねぇか。早く能力を解除しろ」


 「でも長老、素の状態だと喋れないし‥‥‥それだとテレビが見たときのコミュニケーションが」


 「いいんだよニュースなんざ後でで。早く人間に戻れ」


 長老は棚までピョンと飛び、自身の肉球で僕の頭部から生えている猫耳をペシペシと叩いた。


 「次からはシフトは四時間だな。行き帰り発動したいならそれが限界だ。なんで五時間も働いたかねぇ」


 「ごめんね長老‥‥今日は調子がよかったから‥‥‥たくさん人と話せたし、慌てずにメニューも言えたんだ。それにね‥‥」


 「だぁもう分かってるって!別にご主人を責めてるわけじゃねえよ!しょうがなかったんだろ? ままならないよな人生ってのは」


 「‥‥‥長老は猫でしょ」


 同居人が頭に肉球をペトッと置いて必死に慰める姿に苦笑しながら、僕は能力を解除した。

 涙はピタリと止み、頭部から生えていた猫耳も、ついでにお尻にあった尻尾も霧散して消える。

 いつもの光景をじっと眺めた後、僕は同居人‥‥もとい同居猫に目を向ける。


 「ニャー」


 同居人,,,,,もとい同居猫は棚から軽快に飛び降り、ついてこいと言うようにテレビがある和室の方にテクテクと歩き出した。


 「‥‥‥」


 喋れない僕は長老の後を追おうとしたが、不意にちょっとした好奇心と期待から、もう一度猫耳を生やしてみた。

 また涙がポロポロと出てくる自分を鏡で見ながら、僕は二日前の学校での戦いを一人思い出していた。



 僕の名前は南城冬香、猫の能力者だ。



 いや、こう言うべきだろうか——————吾輩は猫である。




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