広告代理店女史動く
時系列で言うと紬が熱出してうんうん唸ってた辺り。
やあ広告代理店の樫谷苹果だよ。みんな覚えてる?
わりと無意味に脳内ナレーションで自己紹介しちゃったけれど若干現実逃避気味なので許してほしい。
大学生時代に残してきた謎が思いがけず今頃解明されそうで動揺しているのよ。
事の発端はフレバリームーンのめんどくさい花村さんから有名プレイヤー絡みでコラボ提案して欲しいからなんか考えてと丸投げ依頼がいきなりやってきて、後輩である佐内さんが案件そのものに興味を示し、提案するにしても関連人物に会っておきたいねという話になり、当該プレイヤーがゲスト出演するというフレバリームーンのイベントにお邪魔したことに始まる。
その現場で花村さんに引き合わされたのは件のプレイヤーである美少女小学生と付き添いで来ていた保護者2名。
片方はとてもとても知っている顔でした。直接会うのは初めてだけど。
大学生時代から始め今も細々と続けているオンラインゲーム「エルムジカ」のディレクター様ですよね?
各種媒体インタビューやイベントなどでご尊顔はかねがね。
という脳内の気持ち悪い自分を抑え込み社会人のお面をちゃんとかぶれた私は結構偉いと思う。
一緒にいた中学生に見えない美人さんはお姉さんらしい。落ち着いた感じが湖出ディレクターに似ていた。
でも姉妹ともに顔は湖出ディレクター似ではなく、そうなるとこの場にいない母似ということで。
その顔に見覚えがある気がした。
もしかしたらと思い私的にファイリングして保存していたエルムジカ関連の広告を開く。
サービス開始から2年間くらいの古い資料だ。
あとその頃にコラボしていた寝具メーカーグッスリの広告も。
そんなに大きくなくても一応広告代理店なので他社が手掛けた広告の古い資料もデータベース化されていてありがたい。
「あった」
当時のコラボカフェで限定商品としてラインナップされていたスリーピングミスト。
それの通常版の広告。
「やっぱ、似てるよね」
この業界に入って知ったことだけどグッスリの広告は基本的に商業モデルや女優俳優を使わず社員がモデルとなるらしい。
そしてこのスリーピングミストの広告写真も企画した社員がモデルをやっているそうだ。
写真の中の美しい女性はフレバリームーンで出会った姉妹によく似ていた。
名前は出ているけれど私の探し人なのかはわからない。
オフラインのやり取りはなく、個人情報なんて殆ど知らない間柄だったし。
でも「音楽で活躍する家族が多い」と言っていた彼女が写真の人と同一人物なら音楽一家として有名な一家の苗字と一致する。
探してる人のインタビュー記事のイニシャルにも一致するしね。
ある日突然引退してしまった昔のフレンドさん。
付き合いがあったのは短い期間だけど今の私を作り上げた要素の中に今も大きくあの人がいる。
ちゃんとお礼がしたいと思っていたけれど連絡先の交換ができなくてそのまま10年以上経ってしまった。
もしあの子たちが恩人の娘なら花村さんからきた案件だということに目を瞑り全面的に食い込んでいこう。
というか花村さんから案件の主導権を奪うくらいの気持ちで。
例え恩人の娘さんじゃなかったとしても花村さんの自分本位で気分屋なところに小学生の女の子を付き合わせるのは忍びない。
小さな女の子ならレシピ作りから関わらなくてもきれいに出来上がったケーキを食べるだけでいいと思う。
まずはどこから手を付けようか。
あの日交換した湖出ディレクターの名刺を名刺整頓箱から取り出した。
どちらにしろ問い合わせのメールは送るつもりだったし外堀から埋めていくのが近道かな。
保護者から「この担当者に任せればいいものを作ってくれるだろう」と思ってもらいたいし。
恩人と再会できるかもとか憧れのゲームディレクターと親しくなれるかもという下心は一旦脇に寄せて仕事は丁寧に迅速に。
佐内さんも全く関係ないわけじゃなさそうだからこっちは幻想乙女工房のメーカーとの調整をやってもらおう。
花村さんを通してやり取りするより直接開発陣とやり取りできたほうが安心だし。
向こうも全くの素人ではない経験者相手のほうが話を進めやすいだろう。
佐内さんから聞いたゲーム内容なら衣装デザインコンテストが無難だろう。
コラボとなると受賞作品はフレバリームーンのゲームに採用。
プレイヤーを絡めるとなると……審査員に加わってもらって大賞作品は有名プレイヤーに着てもらえる、かな。
あれだけの美少女なら実際に衣装を制作して着てもらうのもありか。実現性があるデザインじゃないと厳しいけれど。
花村さんに送る企画案と湖出さんに送るNG確認リストを作成しながら、企画を持ち込んだフレバリームーンの金銭負担が大きくなるように調整しよう。
今から新しい案件に取り掛かるとお盆期間にゆっくり休めないから大変なのよ!
長期休みにゲーム三昧できないなら特急代金としてきっちり取るものはとっておかないと。
ロワールさんの存在が好きでつい書いてしまう。




