世界で一番醜い生き物
鴻ちゃんと話した後、自分のしたいことについて考える。
女児ゲーはしたい。
勉強は宿題以外にそこそこしよう。
服作りは今モチベが落ちててちょっと気乗りしない。
でも布はまた買いに行きたいな。
お盆になったら田舎に行くから向こうで伝統的な生地を探すのもいいかもしれない。
朱鷺ちゃんとお話は落ち着いてから。
それで自分のモヤモヤが消える保証はないけれど。
自分の……私自身の問題にはあまり向き合いたくない。
でもいつかは真正面から向き合わないといけないんだろう。
だから今、少しだけ向き合う。
鴻ちゃんをかばって顔に大怪我をしたあの日、私は内心喜んでいた。
顔を隠して生きる大義名分を得たと思ったからだ。
この傷がある限り私は醜くても許される。
この家族の中に存在できる。
母はすっと切れ長の目が印象的な美人だ。
みーさんはふんわりと華やかな美人だ。
鴻ちゃんは知的でミステリアスな美人だ。
朱鷺ちゃんは花が咲いたような美少女だ。
私は普通。
多少は母に似ていても美人ではない。
でもみんな私の大切な家族で私は間違っても劣等感なんて抱いちゃいけない。
大好きなのに嫉妬したり比較していじけたりするのは心が醜い証拠だ。
だから私は自分の醜い内面も覆い隠せるように、家族以外から顔を比較されなくてもいいように、小さい頃からずっと仮面をかぶりたかった。
顔を隠してさえいれば私が好きな服を着ても顔に似合ってないなんて言われない。
誰かから比較されて家族を逆恨みすることもない。
「ああそうか。私の内面って魔女そのものだ」
結局は周囲が美しいせいで自分が嫌な思いをするのだと責任転嫁しているのだ。
美しい人が私が得意だと思っていた分野で才能を見せることを嫌がっているんだもの。
魔女になっても赫月の魔女とは違う醜い魔女になるのだろう。
「それなら魔女になるべき?」
ゲームの中だけでも強大な力を持つ存在になれたら気持ちが晴れたりするだろうか?
醜い自分に開き直り、世界を壊して、悪役であることを楽しめたら……
それって楽しいのかしら?
あまり楽しそうな気がしない。
女児ゲーはキラキラして夢みたいでちょっと毒があっても目がちかちかするくらい甘い世界であってほしい。
改変するなら世界ではなく物語を壊そう。
赤ずきんは最初から狩人の護衛付き。
シンデレラは家族から愛され虐げられることなく。
ラプンツェルは地面を踏みしめて育つ。
ターリアは眠りについたりしない。
特別幸せにならず主人公にもなれない普通の幸せを与える者になろう。
それはそれで充分悪しき者にはなるだろうけれど。
「よし、それじゃあやるか」
久し振りにゲーム機の電源を入れる。
まずはAIに会ってやりたいことができるか聞く。ネヴァンにも意見を聞きたいかな。
サポートマスコットとして反対するかもしれないし。
ネヴァンはそれでも私を助けてくれそうな気がするけれど。
工房に入ればそこにはAIとネヴァンがいた。
「おかえり紬」
「おかえりなさいムギ」
「ただいま。私これから魔女になろうかと思うんだけど魔女になったらできることとか教えてくれる?」
AIも表情がわからないネヴァンも私の突然の申し出を予想していた気がした。
だってその瞬間、瞳がきらっと輝いたから。
「他の人なら機能制限はするけど紬の望みならなんでも私が叶えてあげる」
「私の居場所が魔女になったムギの傍にあるなら私もムギの望みを叶えます」
随分AIに甘やかされているな私。
まあそうか。鴻ちゃんの娘だもんね。
それから3人で相談して私はプレイ制限時間を捨て、アバターを捨て、白いマネキンのようにつるりとした存在へ変わることにした。
何もなければ美しいとか醜いとか考えなくてもいいかなって。
どんな服を着てもどんなアクセサリーをつけても似合わないなんてことがない素敵なアバターだ。
どのプレイヤーにも影響を及ぼさないってわかってるから心置きなく物語を壊していける。
ああでもきっとここで集められなくなる素材や、ここにしかない素材も出てくるね。
トキちゃんと一緒にプレイもできなくなっちゃう。
待っていられなくてごめんね。
でもAIがフレンド機能やメッセージ機能を内緒で実装するみたいだからプレイ中のやり取りはできるよ。
私は幻想乙女工房の世界を平凡な幸せで満たす魔女になっちゃうから前と同じようにはなれないと思うけど。
『初めて魔女へ変幻したプレイヤーが現れたため全プレイヤーに強制アップデートが入ります』
『世界の安寧と平穏を望み、運命の糸をほどき織り直す「糸紬の魔女」が実装されます』
『各ステージにランダム出現し、出現中はステージボスが現れません』
『倒すと特別な素材が手に入りますが負けると手持ちの素材を全てロストします。ご注意ください(逃走の場合は負けにカウントされません)』




