第65話 深夜構築はデッキの顔をしていない
※今回は季節イベントということで番外編です。
謎時系列ですが、細かいことは気にしないでね!
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黒羽 主良には日課がある。
「《次世代神造姫アナエル》」のパブサ――
パブリック・サーチである。
SNSで定期的にアナエル関連の情報を収集しているのだ。
深夜――自室のベッドで寝転がりながら、
主良はスマホをポチポチと操作した。
【検索】
アナエル
アナエル デッキ
神造
神造 入賞
神造 デッキ
錬成 アナエル
「(アナエルはリミテッド・ワンになっても、未だに人気の高いカード。俺以外にも、まだ擦ってる連中がいる……集合知はしっかり参考にしていかないとな)」
64人規模CSで【神造】が入賞、というデータが引っかかる。
「へぇ、ベスト8か。すごいな……」
とはいえ、よくよくレシピを見てみると――
【神造】カードは一部だけ採用されているものの、
基盤を流用して【奇土遇】のサポートに徹した型だった。
当然ながら、アナエルは採用されていない。
「うーん……デッキ名の定義にもよるけど、これはどっちかっていうと【神造】ではないよなぁ。「奇土遇」関連カードは名称テーマではなく、背景ストーリー由来のシリーズカードだから、定義上は微妙なとこだけど」
アナエル、アナエル、アナエル……
検索しながら画面をスクロールすると――
「(…………ッ!)」
思わず、息を呑む。
目に飛び込んできたのは、
R指定ギリギリの、あられもない肌色。
SNSでは、デッキ構築以外にもカードキャラのイラストが流れてくることも多い。
とはいえ、これは……ッ!
今では見知った同居人、主良の相棒――
アナエルのあられもない姿の痴態絵図……!
「(ダ、ダメだろ、こんなの。センシティブ指定も無しに!)」
大事なところだけは薄い布一枚で見えてないものの……
これで全年齢指定は無理があるッッッ!!!
「んっ……」
同じベッドの横で、身じろぎする影がある。
「うわっ!」
反射的にスマホを布団の中に隠す。
隣で目を覚ましたのは――
「ごめん。シケイダ、起こしちゃった?」
「兄者殿……もう。夜更かしは、めっ。
で、ございます……」
ふわぁ、とあくびをするシケイダ。
窓の外の月明かりに照らされる、白い肌――
擬人化精霊の仕草を見て、主良はドキリとする。
――月下美人。
人外じみた美形が切なげな吐息を漏らすたび、
下腹部に熱を感じてしまう。
これも、さっきまでアレなイラストを見てたせいか。
「(いかんいかん。シケイダは男子、シケイダは男子……)」
理性で働きかけても、本能が危うい……。
とはいえ、リビングで寝ると首が痛いのもあり。
現実逃避を兼ねて、スマホ画面に目を移す。
今度はアナエルと――
別のカード画像を並べた投稿が引っかかった。
「あれっ……このカードって」
翌日のこと。
「完成したよ――完璧な【アナエル】デッキがッ!」
リビングに精霊たちを集めて、主良は宣言した。
昨夜、SNSで見た投稿――それをきっかけにあれよこれよとカードを組み合わせていくうちに、とうとう最強のアナエルデッキが生まれてしまったのだ。
40枚のデッキパーツ全てが有機的に結びつき、シナジーとシナジーが合わさった完成形。ボクサーの筋肉のように無駄のない、機能美に満ちた構築。
【野災】をベースにした現在のデッキも、近所の店舗大会で回す分にはそこそこ結果を出しているが……(先週は全勝卓まで到達したぜ!)……今度の構築は、それすらも過去にすることが確実ッ!
ところが、主良のテンションとは裏腹に――
精霊たちのリアクションは、今一つ冴えない。
銀髪のサイボーグ少女、アナエルは首をかしげる。
「疑問です。現状のカードプールにおいて切札を活かすための構築は――既に充分に検討されていたはずです、ちーの協力の元で」
青髪の歌人少年、シケイダも頷いた。
「左様であります。
斬新な(5)、結論構築(8)、マジありや(5)?
某も、そのようなデッキの実在は疑わしく存じまする」
漆黒の怪盗精霊、ナラク――
もとい、
黒髪の美人探偵、鹿の子はニヤリと笑った。
「あっ、わかりましたよ! ボクの推理が正しければ……これはきっと、主良くんなりの、エイプリルフールのウソなんじゃないですか?」
「エイプリル、フール?」とアナエルは繰り返した。
ピピピ、と読み込み音が発生する。
「ファイロ・ゲノミクスよりダウンロード完了。エイプリルフールとは――毎年四月一日に、企業や有名人に必ずウソをつかなければならない義務が生じ――結果的に誤解・炎上・謝罪する日、とデータにあります。燃えるのでしょうか、マスターは?」
「ずいぶんと悪意に満ちたデータだな……。
誰が登録してるんだ、それは」
そういえば、今日はそんな日だったか。
学生にとってはいつもの平日でしかないけど。
「ウソでもないし、炎上もしないよ。
見てみるがいい、俺が組んだ完璧なレシピを――!」
主良は意気揚々と、
昨晩じっくり練ったデッキレシピをスマホに表示した。
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【ケルベロス1キル】
スピリット――20枚
《プロト・ギア》×15
《錬丹道人》×4
《次世代神造姫アナエル》×1
スペル――12枚
《チーム・レコンキスタの栄光》×4
《錬成》×4
《錬成の儀》×4
コンストラクト――8枚
《神造核》×4
《ドラコニアの銅像》×4
ユニゾン・スピリット――4枚
《機鋼猟犬プロテクト・サーガ》×4
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デッキ・コンセプトはいたって明快だ。
まずは、手札にアナエルと《錬成》を揃える。
次に《錬成》を発動し、手札からアナエル1枚と《プロト・ギア》5枚を素材にして《機鋼猟犬プロテクト・サーガ》をクロス・ユニゾンすれば――20バーストのパンチ一発でゲームを終わらせることができるッ!
《機鋼猟犬プロテクト・サーガ》は、素材にした《プロト・ギア》の枚数×4のバースト値を持つスピリット――5体素材で召喚できれば、初期ライフである20点を一撃で削りきることができる。
ぴったり手札にパーツが揃えば、最速1ターンキルも可能だ!
「本来、ケルベロスはユニゾン・スピリットである《犬猟伝説レッド・グラス》を素材にしたクロス・ユニゾンだけど、そこはアナエルで代用可能。コンボパーツにしても、アナエルの方は定番のサーチ・セットで引っ張ってこれるし、《錬成》の方も《錬成の儀》と《錬丹道人》でサーチできるから、実質12枚体制になる。どうだ、みんなっ!?」
まさに、完璧なデッキである。
今まで思いつかなかったのが不思議なくらいだ。
これこそ、アナエルを最も強く使える――
「否定します。これはデッキになっていません」
強く使える――デッキ。に、なって、ない?
主良はアナエルの言葉に、耳を疑った。
「アナエルと、錬成と、《プロト・ギア》の3枚コンボでゲームに勝てるんだよ!?」
アナエルは冷たく、首を振る。
「否定します。これは3枚コンボではありません。
7枚コンボです、マスター」
「えっ……ああ、そういうことか。たしかに素材となる《プロト・ギア》は5枚必要だけどさ。でも、《プロト・ギア》はデッキに4枚以上入れられるカードなんだから、アナエルと《錬成》さえ手札に入れば、あとは全部が《プロト・ギア》になるでしょ? 初期手札は7枚なんだし……」
あれっ、と声を出して、鹿の子は腕を組む。
「待ってください、主良くん。それっておかしくないですか? このデッキにはアナエルをサーチするためのカードが12枚あるんですよね。ゲノム・コア、レコンキスタ、ドラコニア……。それと、《錬成》をサーチするための《錬成の儀》と《錬丹道人》が合計で8枚まで入る」
「う、うん」
「じゃあ、それらが手札に被ったらどうするんです?
《プロト・ギア》の枚数が足りなくなるのでは……?」
――あっ。
「あ、そ、そうか……ちょっと待ってて」
試しに、プロキシでデッキを組んでみる。
シャッフルして、
手札を7枚ドロー。
《錬丹道人》
《錬成》
《ドラコニアの銅像》
《プロト・ギア》
《チーム・レコンキスタの栄光》
《プロト・ギア》
《チーム・レコンキスタの栄光》
「こ、こんなはずでは……」
鹿の子は気の毒そうに手札を覗き込む。
「全然、足りてないですね……
《プロト・ギア》。手札に5枚必要なのに」
「ううっ。じゃあ、これでどうだッ!?」
主良は新たにデッキを組み直した。
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【ケルベロス1キル(ヤケクソ)】
スピリット――36枚
《プロト・ギア》×35
《次世代神造姫アナエル》×1
スペル――4枚
《錬成》×4
ユニゾン・スピリット――4枚
《機鋼猟犬プロテクト・サーガ》×4
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「はぁ、はぁ……これなら、
《プロト・ギア》の枚数が足りるはずっ!」
アナエルは氷のような無表情で告げる。
「肯定します、マスター。ですが、これではリミテッド・ワン――デッキに1枚しか入っていない、切札を手札に抱える方法がありません」
「大丈夫だ……俺とアナエルなら。
リヒャルデとのデュエルだって乗り越えてきただろ?
カードの精霊との絆――
それさえあれば、いけるっ!」
「ぽっ。熱いです。燃えちゃいます、このシチュに」
「おうっ!」
燃える主良とアナエルをよそに、
鹿の子とシケイダは肩をすくめる。
「そんなこと言っても……この前の店舗大会の決勝でも、結局はアナエルが引けなくて負けてたじゃないですかぁ。あれだけサーチ・セットをガン積みしてたのに」
「仕方ありませぬ。お嬢様の【シケイダ・ループ】のようにデッキの半分以上を掘り進めるようなタイプの構築ではない以上、リミテッド・ワンのカードに頼った動きは結局は上振れのサブ・プラン――と、お嬢様もおっしゃっておりました」
ふん、言いたいだけ言わせてやる。
アナエルと手を重ねて、デッキに手を置く。
頷き合う、二人。
見ておけ――これが、俺とアナエルの絆☆パワーだ!
「「ドローーーーーーッッッ!」」
ドクン
「あっ、ありがと……アナエル」
「マスター?」
手に触れたカードから鼓動を感じる。
「引いた瞬間にわかった。
ありがとう……俺の元に来てくれて」
「常にあります、切札はマスターの元に」
そう、俺の引いたカードは――
《次世代神造姫アナエル》
《プロト・ギア》
《プロト・ギア》
《プロト・ギア》
《プロト・ギア》
《錬成》
《錬成》
ひょい、と横から鹿の子が覗き込む。
「《プロト・ギア》は4枚。なぁんだ。《錬成》を2枚引いちゃったから、結局、《プロト・ギア》の枚数は足りてないですねっ!」
「があああっっっ!」
もしもし、と――
シケイダが固定電話の受話器を渡してきた。
「兄者殿。お嬢様がお話したいそうです」
「えっ、千影が?」
嫌な予感がする。
主良はおそるおそる、受話器を手に取った。
「もしもし、千影か……?」
電話の向こうから、低い声が響く。
「あのさぁ。シケイダから話は聞いたんだけど。何度も言ったよね、お兄……? 現代スピキャスで、素引き前提のコンボ・カードなんて全部上振れにしかならないし、そもそも、仮に20打点作ったって回避能力も耐性もないケルベロス出したって全然勝たないからッッッ! ワルキューレで猿パンしてた時代とは違うんだよ?」
「俺だって、わかってるよそんなこと!」
わかっているが、認めたくない。
くそっ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか。
「お兄、いい?
深夜に組んだデッキは、デッキじゃないの。
そういうのはね――嘘デッキ、って言うんだからッ!」
嗚呼、エイプリルフール・デッキ……!
夢の1ターンキルは、泡沫の幻と消えるのだった。




