第1話 コスプレーヤーとオジサンと女神
――俺、山田大介39歳花の独身貴族だ。
小、中、高、大、就職と、これまでごく普通の人生を歩んだと思う。
勿論彼女も居た時期もあるが、結婚まで至らなかったのは縁が……いや、俺に勇気がなかったのだろう。
こんな話をすると死んだ後の追憶みたいになってしまうが、正直それで正解だと思う。
――過去の俺は死んだ――
これからは新しい自分に勇気をもって向き合うのだ。
――――
――
――とあるマイナーコスプレイベントにて、最近お気に入りの黒魔導士ジャンガーのローブを身に纏う。
仮面が半分泣き半分笑いと言う特徴的なキャラ故に、人気がない。
そんな仮面を被る俺に。
「ダイスケさんの衣装って自作ですか?」
「よく俺ってわかったね」
「そんなマイナーキャラ大介さんしかいませんし」
この娘と言えば失礼か。この女性は、昔俺がカメラを向けていたコスプレーヤー。
今は意思を同じくする同好の士である。
彼女の名は玉木陽子、歳は20歳そこそこでナイスバディに加え結構際どい衣装を身に付けてはカメコの心を鷲掴みにして離さない女性だ。俺の憧れでもある。
「ヨッちゃん、さっきの質問だが。君みたいに時間がある訳でもないのに自分で作れる訳ないじゃないか」
「ムッ!」
俺の衣装はほぼ衣装製作専門の会社に発注している。
そのついでに小道具も作ってもらうのだが、自分のコス以外の物も発注する事があり。
「あ、そうだコレ使いな」
稀にだが、こうやってコスプレ仲間へ小道具をプレゼントしている。
「ダイスケさんってほんと落として上げるとか、こう言う所抜け目ないよねぇ。でもわざわざ作ってもらってありがと。それとたまには格闘技系のコスもしてみてよ、ガタイいいんだし」
「なんの話だか。んじゃ俺もう一回りしてくるわ」
「そう?じゃまたね!小道具、本当にありがと」
礼を背中で聞きながら後ろ手に手を振る。
俺が何故自分の着るコスと違う小道具をいつも発注してるのか知りもしない彼女は、満面の笑みで俺を見送った。
――何故使いもしないマジカルな少女であったり、女騎士のティアラ等を俺が発注するかだって?
そんなの俺が独りでこっそり付けたいからに決まってるだろ。
ただヨッちゃんのコスは殆ど格闘少年アニメのキャラなので、今日の魔法少女はレアと言えばレアなコスだった。
自分の趣味を押し付けるのはどうかと思うぞ?ヨッちゃん。
そんなある日、俺は仮面を付けた女騎士をとあるアニメで見付けた。
その時俺の脳髄に電撃が走ったのは言うまでもない。
「これだ!」
すぐさま衣装製作会社へデータ送信と衣装の発注をする。
――プルプルプル
「データは届いたかい?」
「あ、大介さん毎度どうも。でもこれ女性キャラだけど、サイズはダイスケさんでいいのよね?」
「オールOKだレディ」
「着るのね?」
「悪いか?」
「そんな事はないけど、あんまり深みに嵌ると抜けれなくなわるわよ?」
「ふふっ、夢にまで見た女騎士のコスだぞ?やらいでか」
「じゃ仕上がりはそうね、一か月、いや二か月は見て欲しいかな。料金はそうね、素材指定でアルミにカーボン?鉄!?……本気?しかも小道具まで……」
「あぁ本気だ」
「これ概算でも軽く車一台買える値段になるけど……」
「独身貴族なめんな。手付は入れとく」
「……本気、なのね。わかった、最高の一品作らせてもらうわ」
「期待している」
――そして先日完成品が我が手元に。
「明日のコスイベが超楽しみだ」
――――
――
年に一度のコスプレ大イベント。
世界中からコスプレーヤーが集まる魅惑の祭典。去年は入賞すら果たせなかったが、今年は優勝するかもしれない。
俺は緊張の中、贅の限りを尽くした衣装に身を包む。会場の会館へは多数のコスプレーヤーでひしめき合っていた。
そんな中……。
「もしかしてダイスケさん?」
着替えた俺の後ろから声が掛かる。
振り向けばそこに、去年の覇者ヨッちゃんその人の姿があった。
「仮面女騎士に目を付けるとは流石ね」
俺の衣装が一目で仮面女騎士とわかる程には完璧なコスなのだろうと、俺の鼻が少し伸びる。
「ふっ。今回の俺のコスは誰でもわかるコスだったな。まぁ仮面を付ければ男も女もないだろ?」
「そうね、ダイスケさんウエストも締まってるし似合う似合う。でもなんて言うのかな~」
そう、この日の為にダイエットもして腰から女性の線を出そうと必死になったりもしたのだ。
そんな俺にダメ出しなぞ出るはずもない。
いいだろう、嫉妬の言葉くらいは聞いてやるさ。
「なんだ?言いたい事があれば言ってくれ」
「その、言いずらいんだけど……股間がモッコリしすぎててキモイ」……キモイ……キモイ…キモイ
俺の心にキモイと言う言葉が木霊し胸に突き刺さる。
それと当時に、ガシャリと膝をついて項垂れる俺。
「ちょ、ダイスケさん!ダイスケさん!?」
いや、確かに俺もどうかな?ってちょっと思った箇所ではある。
しかしこのディティールにそれ(もっこり)如きは凌駕していて気にならないと思っていたのだ。
思ったさ、あぁ思ったさ!
仮面女騎士の腰回りの寂しさに少しおかしいな?って思ったさ!
でも深夜アニメだぞ!色々大人の都合でエロくなる所もあるだろ?
そりゃ股間部分なんてタイツやパンツ1枚になるだろ!それは仕方がない場所だから見逃してよ!
「俺だってな、俺だって生まれ変わったらビキニアーマーが似合う体型になりてーわ!」
「ちょ!ダイスケさん!それどころじゃないですって!ちょマ!!」
ヨッちゃんの叫びと共に俺の身体の全方向から言い知れぬ重力を感じ、そのまま落ちて行った。
――――
――
目を覚ますと、一面光の世界。
「どこだここ」
「あ、ダイスケさん起きた?」
見れば魔術師ジェリ子(ロリっ娘)のコスをしたヨッちゃんが、体育座りで横たわる俺の隣に鎮座していた。
ロリっ娘コスだが巨乳だ。重要なので言っておく。ロリっ娘だが巨乳だ。
「そう言えばジェリ子なんだね」
「今更ですね」
「最近格闘少年漫画コス……やらないね」
「……理由があるんですよ」
そう言いながら、彼女は更に身体を小さくさせた。
「「……」」
嫌な沈黙だな。
そう思った瞬間。
――「二人とも起きられたので今の状況を説明します」
いきなり何!!
不意にヨッちゃんとは違う女性の声が正面から聞こえ、ビクンと身体を起こす。
「申し訳ありません、地球の方にご迷惑をお掛けするつもりは無かったのですが、神都合で詳しくは話せませんが不慮の事故でお二人を殺してしまいました」
見れば長い銀髪で、少し切れ長の目に黒いドレスの女性が立っていた。
「「…………」」
「なぁヨッちゃん」
「はい」
「こう言う場合って車に跳ねられたぁ~とか、クラス転移で巻き込まれ~とかが定番だと思うんだが」
「そうですね」
「この女神ぽい人今なんっつった?」
「はい。私達を殺したって言いましたね」
「……言ったよね」
「はい、間違いなく」
「「「……………」」」
流れる沈黙。
「あの、女神さん?」
「あ、そうです!わ、私が女神イシスです!」
ん?
「なんで俺たちが死んだって事になってんの?今ちゃんと手も動くし喋れてんだけど」
「あ、はい、ここは精神世界。幽世と現世の狭間と言った方が分かりやすいでしょうか?」
「精神世界ねぇ」
俺の視線に狼狽えた表情を見せる女神。そこへヨッちゃんがすかさず。
「ね、私達の身体は!?元の世界の家族とか心配してない!?」
「あ、それはご安心下さい。あなた達を巻き込んだと同時に、地球の全ての人々の記憶からあなた達二人の存在を消しましたので!」
俺は目の前の女神と言う存在に、なにかしらの違和感を感じていた。
だが今の彼女の発言でその違和感に納得する。
「なに晒しとんじゃワレ!!」
隣のヨッちゃんがキレた。
20歳を超えた女性のグーパンを人生で初めて見た。
そう、この女神。――切れ長の目に銀髪だが、多分アホの子だ。
――――
――
「落ち着いた?」
俺は声を掛けた。ヨッちゃんにではなく、顔がボコボコに腫れた女神にだ。
「は、はい。これくらいは覚悟していたので」
「そうか……で、俺たちはこれからどうしたらいい?」
その言葉にハッとした表情をする女神イシス。
「それです!えっとですね、実は別の世界から別の世界へ男性と女性の勇者を二人転生させる時にですね、ミスって地球に干渉する術式が混ざってましてですね。あのその、お二人の死はこの世の、この全宇宙の、全神すらもまだ知らないんです」
「で?」
「で?あ、で、ですのでその……天国とか地獄とかその……行けません!」
「どーすんだよ!てか、仏教的には成仏出来ない。カトリック的には天へ召されないって事?マジどーすんの?!」
「あ、はい!どうしましょう!」
馬鹿なの!この子馬鹿なの!?いや、疑っちゃダメだ。こいつは馬鹿なのだ!俺も殴っていいかな!女神殴っていいかな!
興奮する俺とは逆に、ひとしきり女神を殴って静かになってたヨッちゃんが。
「転生」
「はい?」
「俺tueeeeeee!な転生させろって言ってんの!」
「それはあの、日本の文化にまで昇華した異世界転生と言うやつでしょうか」
「そうそれ!ね、いいと思わない大介さん!」
「いや、いいも悪いも俺もどうしていいか現状答えられないしなぁ」
「もう、これだから大人は!」
「(いや、20超えてるヨッちゃんも十分大人だから)」などとは口には出さず。
「なぁ女神イシス。彼女の言う異世界転生って可能なのか?」
俺の質問に首を振るイシス。
「使えない女神ね!クソだな」
見た目超カワイイのにこんなに口が悪かっただなんてオジサン少し悲しい。
そんな瞳でヨッちゃんを見ていたが。
「て、転生は無理ですが色々特典付きで転移は可能ですぅ!」
脅されたからか、涙目で訴える女神イシス。
そんな彼女の顔を下から覗き込みヨッちゃんは更に詰め寄る。コワイって。
「ほぉ~特典付きで転生ね。詳しく」
――特典その①
転生では無いが、転移する時に年齢設定を行える。
――特典その②
お好きな装備が与えられる。
――特典その③
魔法か剣のどちらか一つ、魔法創造か超絶剣神のスキルを持てる。
――特典その④
魔法創造と超絶剣神以外の自分の創造したユニークスキルを持てる。
――特典その⑤
もれなく女神イシスが異世界ナビ役として死ぬまで同行してくれる。
と、そんな五つの特典だそうな……これは。
「「行くしかないな!異世界!!」」
俺とヨッちゃんは声を揃えて異世界行きを希望した。




