酒場へ
シャフターとアルデンヌは、ペピルニアンでの情報収集に苦戦し、いまだ非感情生命体を配下にすることはできていなかった。どこかで街の生命体と出くわすことを願うほどに、街には何一つの出会いもない。
「にしても、不運な世界よね。」
唐突にシャフターがつぶやく。
2人は、車のままに居座り、誰かいることを願いながら街を徘徊する。すると、ついにその誰かに出会うことが出来た。
「すいません」
アルデンヌがすかさず声をかける。
「なんだ?」
答えたのは人間ではない。ワニだ。感情生命体である。
「この辺に、非感情生命体はいなかったか?」
アルデンヌが一つ質問を投げかける。
「非感情生命体?あいつらのことか。俺が最後に見たのは十日前だ。東の森にいた気がしたよ」
「東の森?すまない。それって名称とかあるか?」
アルデンヌとのやり取りは続く。
「確か、マルタニアとかいう場所だっけか。おいらもそこまで覚えてねぇもんで、すまないねぇ」
ゆったりとした話口調はとても動物とは思えないだろう。しかしこの二人はとうにそれには慣れてしまっている。子供のころから感情生命体と会話してきたので、それが人間だろうとなんであろうと、感情を持つか否かで2分されてきた。特異なステイタスの持ち主であることは、やはり事実である。
「ちょっとワニ朗!あんた、配下いるの?」
後部座席から顔を出し問い詰めるのはシャフター。
それをみたワニは驚いた表情を見せた。
「おぉ、これはこれは、赤い髪をお持ちで…なにかされたんでしょうか?」
シャフターへの急な質問に本人も驚く。
「えっ?髪?…あぁ、これね」
シャフターは自分の髪に手を当てる。
「生まれつきなのよ。兎に角、配下居るなら私の下につかない?ここの神なんてあほの子でしょう?」
軽い冗談のつもりで誘ったが、ワニは唖然としている。それはシャフターの髪が天然だからか、軽い冗談が軽くなかったのかは不明だった。
「私ですか。配下はおりますよ。4ほどにね。でも、あなた方についていったら危なくはありませぬか?」
「危ないは危ないわね。だって打倒神の集団よ?」
「それでは困ります。わたくしの配下に対して不利益でしょう。」
ワニ側は一歩として譲りそうになくなった。
「なんでよ?じゃあ非感情の子はいないの?配下の配下とかに」
「それをもとめるならマルタニアへとお向かいください。あそこには非感情生命体もたくさん隔離されているはず」
するとそこにアルデンヌが割り込む。
「じゃあワニさん。この辺にアンタみたいなやつらがいるところはないか?さっき神の一行が居たからそちら側じゃないところに」
「会合かなんかをお求めなのですか?私もそこまで詳しいわけではありませんが、たしか南のほうにある テラフトとという酒場は、毎晩のようににぎわっています。つい最近新しいペルトマチも入荷したんだとか。」
「ペルトマチ?本当に?すごいじゃないその酒場」
昨日まで酒の職を持ってたシャフターはやたらその辺の知識には詳しくなっていた。ちなみに、ペルトマチとは酒の一種で、この席で4番目に良質なワインとされている。ここペピルニアンだからこそ入荷する貴重な品なのだ。
その情報を聞いてか、シャフターは俄然テラフトへ行く気満々になってしまった。
「では…ありがとうございました」
アルデンヌが礼を言ってその場から離れた。
テラフトまでは車で15分だという。そこまで遠くはないらしい。
「シャフター、お前さん酒場で働いてたからか、酒詳しいのな。でも最近飲めるようになったばっかだろ?」
「それはお互い様でしょう。そっちだって最近飲めますアピールしそうな顔してる。」
「ははっ、どんな顔だよそりゃ」
駄弁りながら走ること15分、目的のテラフトへ到着する。テラフト周辺にはたくさんの感情生命体が集っていた。